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愛知県には4,558の寺院がある
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日本で最も「神社」が多い地域は新潟県でした。では「お寺」の数が最も多い都道府県はどこになるのでしょうか? 京都でしょうか。信心深い人が多い北陸の各県でしょうか。それとも圧倒的に人口の多い東京や大阪でしょうか。
人口10万人当たりとなると『タウンページ』の登録数では、ダントツで福井県になるといいます。福井といえば信心深い土地で、石川との県境沿いに石崎の寺院群もあります。曹洞宗の大本山である永平寺も福井です。
しかし、人口を考慮せずに単純な数だけでいえば、福井が一番ではありません。富山や石川など北陸でもありません。太平洋側の愛知県です。
文化庁が発表する宗教統計調査の最新版(令和2年)の調査結果第2表には、全国の社寺教会等宗教団体・教師・信者数の一覧があり、宗教法人を含む宗教団体のうち寺院の数も都道府県別で一覧にされています。
北海道から始まり東北・関東・北陸・東海・関西と集計データの一覧は続きます。北海道、千葉県、東海の各県、京都、大阪、兵庫のお寺の多さが目立ちますが、中でも突出して多い都道府県は上述のとおり愛知県です。
お寺のイメージが強い京都が3,065カ所の寺院を抱えている一方で、愛知県は4,558カ所です。大阪は3,382カ所、東京は2,876カ所。神社の数が日本一の新潟も2,780カ所です。
全国を見回しても4,000カ所以上の寺院を抱えている都道府県は愛知県だけ。紛れもなく愛知県が、お寺の数で日本一を誇っているのです。
「おっぱい寺」としても知られる愛知県小牧市の間々観音。子宝と安産、授乳に困らない育児を求めて女性が集まる。ユニークなお寺も愛知には少なくない image by KKPCW from Wikipedia
愛知に多くのお寺が生まれ存続した理由
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どうして、これほどに愛知県はお寺の数が多いのでしょうか。その答えを探るヒントとして、名古屋市鶴舞中央図書館のレファレンスコーナーがインターネット上に公開したアーカイブ情報が役立ちます。「愛知県は寺の数が日本一多い県だと言われているが理由はあるのか?」と同図書館のレファレンスコーナーに聞いた人がいて、インターネット上に図書館側の調査回答が公開されているのです。
アーカイブ情報の詳細を見ると、図書館の調査委員は日本地理研究会編『知れば知るほど面白い!日本地図150の秘密』(彩図社)という書籍の情報を参考に回答しています。
愛知県にお寺の数が多い根拠として、
- ・蓮如が布教した影響で浄土真宗の寺院が多い
- ・武家に治められていた土地なので禅宗のお寺が多い
- ・人口が多い
という3点が挙げられています。最後の人口が多い点については、神社の数が日本一多い新潟県を紹介した過去記事でも登場しましたね。
明治時代になってから日本で最も人口の多かった土地は、東京府(東京都)でもなく大阪府でもなく、新潟県であり石川県であり愛知県でした。当時の日本の人口は3,600万人程度なので単純に今とは比較できないのですが、これらの県が合併と吸収を繰り返す中で最も人口の多いエリアを競っていたわけです。
人口が多ければ宗教施設もその分だけ必要で、愛知にはお寺がたくさんつくられた(生き残った)と考えられるのだとか。
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明治からさらに江戸・戦国時代とさかのぼると、歴史上で有名な大名を次々と輩出した土地が現在の愛知です。織田信長・豊臣秀吉・徳川家康・前田利家・加藤清正などは全員が愛知出身。武家の土地ですから、武家の宗門である禅宗(曹洞宗・臨済宗など)のお寺が自然に多くなったと考えられます。
さらに時代をさかのぼると室町時代には、浄土真宗の中興の祖である蓮如(1415~1499年)の活躍もありました。蓮如上人は、1471年(文明3年)に京都を離れ福井の吉崎へ移り、一大宗教都市をつくって北陸各県に浄土真宗を普及させた人です。
吉崎を離れると最後は京都(山科)に戻りますが、その北陸へ出向く前に、現在の滋賀県や愛知県方面で布教しています。1468年(応仁2年)、愛知県南部の碧南市に応仁寺を立ち上げ、このお寺を拠点に愛知県周辺の教化にも努めました。その影響で、愛知県には浄土真宗のお寺がたくさんできたのだとか。
蓮如の布教があり、武家の繁栄があり、明治初期の人口集中があり、愛知県には多くのお寺が生まれ(存続し)てきたと考えられるわけです。神社は新潟でお寺は愛知、どちらもかつては人口が最も多い自治体だったとは面白い情報ですね。
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[参考]
※ 間々観音
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