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缶コーヒーには自動販売機の普及が不可欠だった
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日本が世界で初めて缶コーヒーを販売したと書くと、ちょっとフェアじゃないかもしれません。缶コーヒー販売がビジネスとして成立するためには自動販売機の普及が不可欠で、自動販売機が日本ほど普及している国は、国民一人当たりの数で考えると地球上に存在しません。
アメリカには日本以上に自動販売機の台数がありますが、国土の面積が25倍も違う状況を考えると、日本ほど自動販売機が暮らしのそばにある状況とはいえません。
TABIZINEの過去記事「【実は日本が世界一】真夏の水分補給にも役立つ『あれ』が街の至るところに!売り上げは世界一だった」でも書いたように、数を減らしているものの、日本にはまだ世界で2番目に多い400万台の自動販売機が存在します。
売り上げ高も年間5兆円(うち飲料は約2兆円)でアメリカを1兆円ほど上回っており、言ってしまえば世界で一番自動販売機が普及している国が日本なのです。
「缶コーヒーが日本で初めて販売された」と書くと、缶コーヒーが、さも全世界に普及している印象を与えてしまいますが、そもそも自動販売機が普及していない国では缶コーヒー自体が珍しい存在です。その珍しい存在を日本が世界で初めて販売したという話が今回の主題です。
現物が確認できる世界初の缶コーヒー
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缶コーヒーといえば、何の商品を思い浮かべますか? さまざまな銘柄が出ていますが「元祖缶コーヒーは?」と聞かれれば、そこそこの年代の人は『UCCミルクコーヒー』を思い浮かべるのではないでしょうか?
1969年(昭和44年)に発売以来、現在に至るまで発売され続けているロングセラー商品です。赤と白と茶色の三色旗のような『UCCミルクコーヒー』のデザインを見れば「ああ、あれか」「今も売っているの?」などと多くの人が思うはず。
現行で販売されている最も歴史の古い缶コーヒーはこの『UCCミルクコーヒー』らしく、「Longest-selling ready-to-drink canned coffee brand- current(すぐに飲める缶コーヒーとして最も長く売られている)」とギネス記録にも認定されています。
しかし、この商品は本当の意味で缶コーヒーの元祖ではありません。同商品が世に出る10年前、1959年(昭和34年)に明治製菓(現在の明治)が『明治コーヒードリンクス』を発売しています。
念のため明治に問い合わせてみると、古い商品のために現物もなく情報も少ないとの前置きがありましたが、
- 商品名「明治コーヒードリンクス」
- 発売年 1959年
- 価格 1缶50円
- 内容量 ※確認が取れず
- ストレートブラックコーヒーであった
とわかる限りの情報を教えてくれました。内容量については社内的に確認が取れなかったようですが、『昭和レトロ商店街―ロングセラー商品たちの知られざるヒストリー』(町田忍・著/早川書房)の60ページに現物の写真が掲載されていて、内容量は200グラムと記載されています。
このブラックコーヒー『明治コーヒードリンクス』こそが、世界で初めて販売された(さらに現物も確認できる)缶コーヒーなのです。
『ダイヤモンド珈琲』が元祖との情報も
もちろん『明治コーヒードリンクス』以前に缶コーヒーを他社が販売したと考えられる説も一方であります。
『ザ・飲みモノ大百科』(串間努・久須美雅士・著/扶桑社)によれば、大阪府に存在した外山食品が『ダイヤモンド缶入りコーヒー』をタッチの差で先に発売していたといいます。
1958年(昭和33年)12月20日の『日本食糧新聞』が出典で、1959年(昭和34年)1月15日から『ダイヤモンド珈琲』を1缶200グラム50円で出荷する予定と同紙で報じられていたそうです。この『ダイヤモンド珈琲』は現段階で物的な証拠が確認されていませんが、状況証拠であれば、ほかにもいくつか見られます。
例えば全国のほうろう看板を記録している人のウェブサイトで、外山食品の看板が大阪府富田林(とんだばやし)市にて2005年(平成17年)に確認されています。「トヤマの濃縮オレンヂパインジュース」「ダイヤモンドコーヒー」と商品名が看板に書かれています。ブラジルの国旗を連想させる天球をベースにしたロゴまで描かれています。
さらに『ダイヤモンドミルクココア』の粉末ココア缶(正味130グラム)の現物も確認されています。缶のデザインを見ると『ダイヤモンド珈琲』にも使われた(はずの)天球のロゴが使われています。ゴシック系のフォントも一緒で、南十字座を連想させる星などの配置も一緒です。
製造時期は不明ですが、外山食品の即席ココア缶の現物を持っています。なんらかの参考になるようでしたら幸いです。 pic.twitter.com/QxusclchnF
— 初回特典大ライス (@kosakinium) April 1, 2019
さらに『ダイヤモンドミルクココア』の現物写真(製造年月日は不明)もTwitter上で確認できます。同ココア缶のふたに穴あけ器具の跡も見られます。
缶切りがなくても飲料缶を開けられる時代は日本の場合、1965年(昭和40年)を待たなければいけません。それ以前には、おうむのくちばしのような形をした飲料缶用穴あけ器具を使って、缶に直接、穴をあけなければいけない時代がありました。
『ダイヤモンドミルクココア』は飲料缶ではないですが、飲料缶用穴あけ器具が利用されている点を考えると(飲料缶用穴あけ器具が当たり前に消費者に使われていた状況を考えると)、1965年以前、さらに言えば現在のようなイージーオープンふたがアメリカで開発される1963年(昭和38年)以前に販売された商品だとも考えられます。
要するに『ダイヤモンドミルクココア』の現物が確認できる以上、同時代に姉妹商品として『ダイヤモンド珈琲』が存在したとも考えられるのです。
テレビコマーシャルも存在している
『ダイヤモンド珈琲』の存在については物的証拠に近い状況証拠も考えらえます。裁判官なら証拠として認めてくれるのでしょうか。
1959年(昭和34年)3月4日に放送されたテレビ番組『ニッケジャズパレード ED 〜 夜のプリズム』(日本テレビ)で『ダイヤモンド(ストレート)珈琲』のコマーシャルが放送されています。
<今度外山食品では、長年の経験を生かして、そのまま飲めるコーヒーの缶詰を発売いたしました。それは『ダイヤモンドストレート珈琲』です。いつでもどこでも簡単に、香り高いコーヒーが召し上がっていただけますので、スキーのお供などにいかがでしょう。いわば一流喫茶店をポケットに入れた感じです。このすてきな『ダイヤモンドストレート珈琲』は1缶50円です。ぜひどうぞ>(『ニッケジャズパレード ED 〜 夜のプリズム』の音源より引用)
重要な表現は「発売いたしました」ですよね。1959年(昭和34年)1月15日から1缶200グラム50円で出荷予定という当時の新聞報道のとおり、1缶50円で「発売いたしました」と考えるほうが自然です。
外山食品は大阪の企業です(現在は倒産)。同じく大阪には大正時代からコーヒー豆を焙煎(ばいせん)して販売するダイヤモンド商会があります。
缶飲料の商品名を考えると、ダイヤモンド商会から豆を買って缶飲料にしていたのでしょうか。ダイヤモンド商会はブラジルのコーヒーの流れをくんでいるので、『ダイヤモンド珈琲』の天球のロゴにも納得がいきます。そうなるとダイヤモンド商会にも情報や現物が残っているかもしれません(とはいえこれ以上の調査は主題と離れていくので、また別の機会に)。
いずれにせよこの1959年(昭和34年)に外山食品、および(または)明治が販売した缶コーヒーが類例を見ない缶飲料として世界初の存在になったと考えられています。なにしろ『UCCミルクコーヒー』がギネス認定される際に「It is also the world’s first canned coffee to be sold.(世界で最初に販売された缶入りコーヒーでもある)」と認めているわけですから。
もちろん、それ以前にアメリカで缶コーヒーが開発された説もあり、1942年(昭和17年)にはコーヒーを缶に詰める技術の特許がアメリカで認められています。しかし英語版のWikipediaでは「要出典」と注意書きが付されているものの「Canned coffee is a Japanese innovation.(缶入りコーヒーは日本の発明品)」と書かれています。
とはいえ「発明」とまで主張すると角が立ちそうなので、日本が世界で一番最初に缶コーヒーを「販売」したと、諸外国の反論が届きにくい日本語の文章で書いておきます。
TABIZINEに反論意見が届いたら真相究明を続編でスタートしてみます。それまでは同じ日本人が実現した「世界一」の偉業を誇りに感じましょうね。
[参考]
※ より飲みやすく安全に~進化する缶の蓋 – スチール缶サイクル協会
※ Method of canning a liquid coffee beverage – Google Patents
※ 【TV音声】ニッケジャズパレード ED 〜 夜のプリズム 1959年3月4日 – YouTube
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