山岳修行の地として栄えた、六郷満山の総持院
神様と仏様が日本で最初に出会った場所と伝わる国東半島。両子(ふたご)山を中心に28の谷があり、それを6つの郷に分けた「六郷満山」と呼ばれる31の寺院が点在します。神と仏が絡み合う「神仏習合」の発祥の地ともいわれ、土着の山岳信仰と融合し、独自の六郷満山文化として発展しました。2018年には開山1300年という大きな節目を迎え、今なお静かな盛り上がりを見せています。
そんな六郷満山の総持院として、江戸時代からすべての山を統括してきたのが「両子(ふたご)寺」。718年に仁聞菩薩によって開かれたお寺で、山岳修行の地として栄えました。山門に続く石段の両側には国東半島最大級の仁王像が鎮座しています。
「森林浴の森 日本百選」にも選ばれるほど、豊かな緑に囲まれた清々しい境内。秋には鮮やかな紅葉に包まれるそう。
山や岩々に祈り、自然の霊力を呼ぶ
両子寺にあるお堂のひとつ「奥の院本殿」を目指します。奥の院は両子山(721m)の中腹に位置するため、70段もの苔むした石段を登らなければなりません。
「両子寺は古くから山岳修行の地。現在も峯入りでは山や岩々に祈りながら、自然の霊力を身につけるのです」と住職の寺田豪淳さん。
境内を歩くと高低差があり、縦に長く作られているのに気づきます。息を切らして石段を一歩ずつ踏みしめれば、厳しい修行の場であったことを実感できることでしょう。
追善供養のためにつくられた「磨崖板碑」。荒々しい奇岩が点在する国東半島では、古来より人々はその特異な地形に畏敬の念を抱き、神々が宿ると考えたそう。
石段を登り、さらに山道を進むと、崖を這うように立つ奥の院が見えてきました。1846年(弘化3年)、岩壁をくり抜いて造られたお堂です。深い森に包まれ、巨岩にのめり込むような佇まいは実に荘厳。双子の神様「両所大権現」が祀られ、子授けの祈願所としても信仰を集めているようです。
「両子山、両子寺という名はこの双子の天童子から由来しています」(寺田さん)
裏側の洞窟に入ることも可能。崖とお堂が一体化したした姿は珍しい印象を受けますが、巨岩が点在する国東半島ではこのようなお寺は少なくないとか。
波を打つような凹凸のある岩肌。訪れた10月上旬は汗ばむほど暑かったものの、中は驚くほどひんやり。時間が止まったかのような静けさが心に響きました。
洞窟の奥におだやかな表情の千手観音立像が祀られています。ロウソクのかすかな光がなんとも幻想的。
光が届かず気づきにくいのですが、観音様の右下には湧水が湧く場所が。これは「不老長寿の霊水」とされる水で、奥の院を建てる際に発見されたもの。国東半島は降水量が少ない地域で、古くから雨を呼ぶための信仰が残されていたそう。人々の祈りによって水が湧いたのかもしれませんね・・・。
参拝後に立ち寄りたい蕎麦処
参拝後のランチにおすすめなのが、両子寺から車で約3分のところにある「両子河原座」。両子山から湧き出る名水で打ったお蕎麦が自慢のお店です。古民家風の店内は親戚の家に遊びに来たような居心地良い雰囲気。
大分名物のとり天がセットになった「とり天ざる」(1,400円・税込)をオーダー。細めの蕎麦はしなやかでありながら力強い弾力。喉越しもよく、蕎麦の芳醇な香りがふわっと鼻へと抜けます。衣がふわふわ&サクサクのとり天はジューシーで濃厚な旨味。蕎麦との相性も抜群でした。併設される売店では「くにさき七島藺」を使った雑貨など国東市の特産物も販売されており、お土産探しに最適です。
宗教や信仰という枠にとらわれず、誰しもの心に響くであろう、静謐な空気感に満ちた「両子寺」。1300年の歴史と信仰が根付く神仏習合の地でパワーを感じてみませんか?
[All photos by Nao]
Nao ライター
メーカー、ITベンチャー勤務を経てフリーランスに。
学生時代から旅を続け、渡航国は現在50カ国。
特技は陸路国境越え。グルメレポート翌日に大学の最先端研究を取材したり、ロシア州知事にインタビューしたり。幅広い対応力とフットワークの軽さが自慢。日本ソムリエ協会認定資格ワインエキスパート保有。
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