2秒か4秒!?「ホタルの光」の常識とは【日本東西・文化対決】

Posted by: 坂本正敬

掲載日: Jul 29th, 2022

東西南北に国土が広がる日本では、西日本と東日本とで生活習慣や文化などが異なることもよく注目されますよね。日本各地を旅したとき、それぞれの地域で違う常識を知ることも、旅の楽しみのひとつではないでしょうか? そこで今回は、「ホタル」について研究してみました。

水辺のホタル

 

東日本と西日本ではホタルの光る時間が違う

ホタルの光
この夏、ホタルをどこかで鑑賞しましたか? 観光プログラムにもなるホタル観賞、いいですよね。筆者は東京で生まれ、埼玉で育ち、20代の後半で富山県へ引っ越すまで、ホタルを直接見た経験がありませんでした。

海外旅行中に見たホタルがむしろ人生初です。ネパール東部、ビラトナガールという街で、現地の人のバイクに同乗させてもらい、田んぼ道を走った夜に、あぜで光るホタルを見ました。

富山へ引っ越してからは、ホタルを日常的に見られるようになりました。妻の実家の近所に流れる川にはホタルが群生していて、それこそ妻が学生時代に窓を開けて勉強していると、ホタルが部屋に入ってきたといいます。すてきですよね。

その意味で、筆者にとってのホタルは富山のホタル。集団同調と呼ばれる「発光ショー」も富山で初めて見ました。暗がりの至る所で一斉に光が群がり出て、間もなく途絶え暗闇に戻る、そんな風に「シンクロ」した一連の明滅現象です。

ゲンジボタルのオスが交尾相手を探す際に見せる、この同時明滅の間隔が、今回の主題です。東日本と西日本では、ゲンジボタルが光って消えるまでの時間が違っているようなのです。

東日本と西日本でゲンジボタルは異なる集団

ホタル
先ほども書いたとおり、関東(東日本)のゲンジボタルの光り方を筆者は知りません。しかし、各種の論文によると、東日本のゲンジボタルは気温が20℃の場合、約4秒周期で光っては消えるそうです。

言われてみると、富山のホタルは4秒も光っていません。明滅のテンポはもっと速いです。西日本のホタルは気温20℃の条件下で共通して2秒周期で光っては消えると過去の論文に書かれています。ゲンジボタルの東西分布では「西日本」に分類される富山県のホタルも、やはり2秒という印象です。

では、その東西の境界はどこにあるのでしょう?

筆者の暮らす富山県の東隣、新潟県の県境(糸魚川)あたりから、本州を南北に貫くフォッサマグナ(日本の地質を、東日本と西日本に分ける重要な地帯)の西端(西縁)が始まります。

このフォッサマグナ地帯の真上にせり上がる山脈地帯が東西の分岐帯になっています。

どこかにきっぱりと線が引かれているというわけではなく、フォッサマグナの上に緩衝地帯(新潟県西部、長野県北東部、山梨県、静岡県東部あたり)があって、ホタルの明滅の周期がそこでは約3秒になるとされています。

要するに、2秒と4秒の間を取った、明滅周期が3秒のホタルも存在するのですね。

ゲンジボタルの切手
(C) Nicescene / Shutterstock.com

一説に、西南日本から来た祖先型のゲンジボタル(短周期)が、西日本型(短周期)と東日本型(長周期)に分かれたとの話。

鹿児島大学大学院の研究グループ・佐賀大学総合分析実験センター・日本ホタルの会を中心とした共同研究では、ゲンジボタルをゲノムレベルで集団解析し、東日本(東本州型)と西日本(西本州型、および九州型)でゲンジボタルは異なる集団だと明らかになったそうです。

しかも、フォッサマグナ地帯を境界として、東日本(東日本型=4秒周期)と西日本(西日本型=2秒周期)の両集団における交雑(遺伝的に違ったゲンジボタルが交配する)は、ほぼ存在しないともわかったそう。

やはり、同じゲンジボタルでも東西で光り方が違っているのですね。

今年はもう見られませんが、来年はご自宅の近くで、あるいは旅行先で、ホタルの光り方の違いに注目しながら、「ホタル狩り」に出かけてみてはいかがでしょう。ホタルの見方が、またちょっと変わってくるかもしれませんよ。

[参考]
ゲンジボタルの地理的変異と地質学的事件の関連 – 生物科学研究所 井口研究室

ゲンジボタルは日本全国同じじゃない! ~ゲンジボタルに対するゲノムレベルでの集団解析を世界で初めて実施~ – 佐賀大学

ホタルの光り方に地域差 佐賀大学などが世界で初めて確認【佐賀県】 – SAGA TV

ゲンジボタル明滅周期の地理的分布とミトコンドリア DNA 多型の関係 – 陸生ホタル生態研究会事務局

※ 岡部敬史『ちがいがわかるとおもしろい!東日本と西日本②関西の電子レンジは関東では使えない?―社会・生活―』(汐文社)

PROFILE

坂本正敬

Masayoshi Sakamoto 翻訳家/ライター

翻訳家・ライター・編集者。東京生まれ埼玉育ち。成城大学文芸学部芸術学科卒。現在は、家族と富山に在住。小学館〈HugKum〉など、在京の出版社および新聞社の媒体、ならびに〈PATEK PHILIPPE INTERNATIONAL MAGAZINE〉など海外の媒体に日本語と英語で寄稿する。 訳書に〈クールジャパン一般常識〉、著書(TABIZINEライターとの共著)に〈いちばん美しい季節に行きたい 日本の絶景365日〉など。北陸3県のWebマガジン〈HOKUROKU〉(https://hokuroku.media/)創刊編集長。その他、企業や教育機関の広報誌編集長も務める。文筆・編集に関する受賞歴も多数。

翻訳家・ライター・編集者。東京生まれ埼玉育ち。成城大学文芸学部芸術学科卒。現在は、家族と富山に在住。小学館〈HugKum〉など、在京の出版社および新聞社の媒体、ならびに〈PATEK PHILIPPE INTERNATIONAL MAGAZINE〉など海外の媒体に日本語と英語で寄稿する。 訳書に〈クールジャパン一般常識〉、著書(TABIZINEライターとの共著)に〈いちばん美しい季節に行きたい 日本の絶景365日〉など。北陸3県のWebマガジン〈HOKUROKU〉(https://hokuroku.media/)創刊編集長。その他、企業や教育機関の広報誌編集長も務める。文筆・編集に関する受賞歴も多数。

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