中国渡航における邦人拘束のリスク【政治学者が見る世界の今】 

Posted by: アンダルシア

掲載日: Aug 1st, 2022

比較政治や国際政治経済を専門とする政治学者の筆者が、世界の情勢を考える人気シリーズ。今回は、中国渡航における邦人拘束のリスクについて考えていきたい。※写真はすべてイメージです

中国上海

 

大国の対立激化が日中関係にも影響

中国と日本の国旗
日本にとって中国は最大の貿易相手国であり、今後も重要な隣人であることに変わりはない。中国経済の存在なしに、日本の繁栄はない。

しかし、近年、世界では米中を中心に大国の対立が激しくなっており、残念ながら日中関係もその影響を受けることになる。日本は米国の軍事同盟国上、世界で何か大きな問題があれば、まずは米国との関係を重視することになる。だが、米国が中国と激しく争う中では、日本と中国の関係は当然ながら難しくなる。

日本人男性が上海で逮捕

逮捕のイメージ
そのような中、上海の日本国総領事館が最近明らかにした情報によると、上海で2021年12月に中国当局によって拘束された50代の日本人男性が、2022年6月に逮捕された。

なぜ正式に逮捕となったか、具体的なことは中国当局から発表されていないが、中国で2014年に施行された反スパイ法に抵触し、国家の安全を害した容疑に問われた可能性がある。

中国で日本人が拘束されるケースが続出

裁判のイメージ
近年、習近平政権は国内の権力基盤を固めるため、2014年の反スパイ法施行、2015年の国家安全法、2020年の香港国家安全維持法などを次々に施行し、外国人を含む国内での監視を強めている。それにより、中国に住む日本人が拘束されるケースが増え、2015年以降、スパイの疑いなどで16人の日本人が拘束された。

2019年には、中国近代史を専門とする北海道大学の教授が日本へ帰国直前に北京の空港で拘束されたケース、広州市で拘束されていた大手商社の40代の日本人男性がスパイ容疑で懲役3年の判決を受けたケース、湖南省長沙市で50代の日本人男性が国内法に違反したとして拘束されたケースなど、拘束事例が後を絶たない。

2021年には、スパイ容疑で拘束されていた日本人男性2人の懲役刑が確定した。1人は2016年に拘束され懲役6年の判決を受け、もう1人は2015年に拘束され懲役12年の判決を受けたが、それに不服申し立てを行った2人は、北京にある裁判所に控訴していたが棄却された。

拘束や逮捕の理由は不明

全国人民代表大会議事堂
Mirko Kuzmanovic / Shutterstock.com

反スパイ法に引っ掛かった場合、起訴され、懲役刑の判決を受けるケースは半数以上を占め、非常に多い。どのケースでも、なぜ拘束されたか逮捕されたか、具体的な理由は依然として不透明なままで、専門家の間では政治的な影響を受けているとの見方が一般的だ。

すなわち、日中関係が政治的にギクシャクすればするほど、現地で邦人が拘束されるリスクが高まる。中国経済は開放的なイメージがあるが、国営企業が力をつけるなど、実態は国家資本主義だ。国家指導者たちの影響力は凄まじい。中国渡航においては、これまで以上に日中関係の行方を注視する必要がある。

[All photos by Shutterstock.com]

PROFILE

アンダルシア

andalucia

政治学者
専門分野は比較政治、国際政治経済。特に近年は米中関係や経済安全保障などの日本の国益を左右する研究に従事する。また、学術研究に留まらず、NHKや共同通信、朝日や日経、産経など大手メディアで解説なども行う。

政治学者
専門分野は比較政治、国際政治経済。特に近年は米中関係や経済安全保障などの日本の国益を左右する研究に従事する。また、学術研究に留まらず、NHKや共同通信、朝日や日経、産経など大手メディアで解説なども行う。

SHARE

  • Facebook