
殺人事件容疑者の移動は鉄道

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2009年11月、千葉県市川市で発生した殺人事件の容疑者が大阪で逮捕された。逮捕後、被疑者は新幹線で新大阪駅から東京駅まで移送された。このとき、新大阪駅のホームに報道陣が押し寄せ、駅はパニック状態に陥った。
重大事件の容疑者が警察の捜査の手をかいくぐり、事件が発生した場所から遠く離れたところに逃亡するケースは多い。その際、逮捕された犯人の身柄は鉄道を使って移送されることがある。
1997年には、愛媛県松山市で同僚のホステスを殺害し、その後、約15年に渡って逃亡を続けていた犯人が時効寸前に福井県で逮捕されたことがあった。この犯人も福井から捜査本部のあった愛媛県松山市までの移動に鉄道が使われている。そこで気になるのが、どのような決まりのもとでこうした鉄道輸送が行われているのか、ということだ。
乗車料金を払うのは誰か?

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最初に気になるのは、被疑者の乗車料金である。
現在、被疑者の移送に鉄道が使われるのは、自動車では時間がかかりすぎる場合に限られている。そのため、ほとんどのケースでは新幹線や特急列車が使われる。
前述したホステス殺しの容疑者の場合は、福井から特急サンダーバードに乗り、途中から新幹線に乗り換えて岡山駅まで移動。そこから自動車で護送された。2009年の市川・外国人英語教師殺害事件の容疑者も新大阪駅から新幹線で東京駅まで護送されている。その料金はいったい誰が払っているのだろうか?
容疑者と付き添いの警察官の乗車料金は、実は引き取る側の警察署が支払うことになっている。料金の支払い方法は、一般の利用客と同じように前払い。グリーン車ではなく、普通車に乗車し、被疑者に食事を与える場合は、一食500円以内に抑えるといったことまで細かく定められている。
輸送方法は警察の機密情報

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その一方で、深いベールに包まれているのが、その輸送の方法だ。
国民の税金に関わるため、容疑者の乗車料金といったことは公開されている。しかし、輸送方法となると各警察本部の内規に関わるため、内実を知ることは難しい。情報公開請求をしても、警察の機密情報の壁に阻まれて実態をなかなか知ることはできないのだ。
被疑者の輸送方法は各警察本部が独自に決めているため、全国で統一したものが存在しないともいわれている。もっとも各警察本部で輸送方法が違っては連絡ミスなどが生じ、それだけ容疑者が逃亡するスキを生むことになる。おそらく、いずれも似通ったものであろうことが推測できる。
ためしに愛媛県の内規を見てみると、次のような方法で移送されることが分かった。
まず容疑者は移送前に身体検査を受ける。その後、手錠、腰縄をつけられ、輸送を担当する警察官(戒護員と呼ばれる)とともに列車に乗り込む。逃亡を防ぐため、戒護員は2名以上同行するのが普通だ。容疑者は座って護送されるが、戒護員が両側から挟みこむように座る決まりになっている(サンドイッチ方式と呼ばれる)。容疑者の逃亡を防ぐとともに、車内にいる一般乗客に配慮しているのだろう。そのため、新幹線に乗ったら隣の席に手錠と腰縄を付けた容疑者が乗っており、いたたまれない気分になった、などといったことが起こらないようになっている。
容疑者の人権に配慮する「護送用ベスト」

もっとも、隣でなくても容疑者が近くにいるというだけで落ち着かない。また、一目見ただけで護送中であることが分かれば、容疑者の人権を傷つけることになる。一般客の安全を守りつつ、容疑者の人権にどう配慮するか。こうした悩みはどこの警察にも共通のものなのだろう。2008年、滋賀県警がある画期的なベストの開発に成功した。このベストは護送の際に女性の容疑者に着用させるもので、前部に上下階方式の手錠カバーが付いている。容疑者はそのカバーの下に手を回し、そこで手錠をかけられる。そうすると一見しただけでは、ポケットに手を入れているようにしか見えないのだ。
また、近年では警察は輸送に使う車両や座席も慎重に選んでいる節がある。
冒頭で紹介した2009年11月のケースでは、被疑者は車両の一番端の16号車に乗車した。おそらくできるだけ他の乗客に迷惑をかけないよう、警察とJRが配慮したものと思われる。
とはいえ、1997年の福井の場合も、そして2009年の大阪の場合でも、報道陣が殺到し、車内はバケツをひっくり返したような騒ぎになった。いくら警察や鉄道会社が配慮しても、近くにマスコミがいれば、ゆったりと移動することは難しいのだろう。
【出典】
『封印された鉄道史』(小川裕夫・著/彩図社)
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