【世界の奇祭】栃木県・生子神社の「泣き相撲」は江戸時代から続く例祭後の神事

Posted by: 坂本正敬

掲載日: Jun 11th, 2023

世界にはさまざまな祭りがあります。宗教や季節に関係するものなど、その発祥もいろいろ。有名なものから知る人ぞ知るものまで、地域らしさを感じられるイベントであり、旅行の目的ともなりますよね。そんな世界の祭りの中からユニークな祭り、まちおこしのために奇抜な企画を立ち上げられた新興の祭りではなく、100年以上の歴史がある「変わった祭り」を紹介します。今回は、われわれの暮らす日本に伝わるちょっと不思議な祭り(例祭後の神事)です。

海上山長興寺の泣き相撲(静岡県沼津市)
海上山長興寺の泣き相撲(静岡県沼津市) ©️公益社団法人 静岡県観光協会
 


 

赤ちゃんの泣き声の大きさを競う赤ちゃん相撲

全国泣き相撲大会(岩手県花巻市)
全国泣き相撲大会(岩手県花巻市)

筆者の子どもがまだ赤ちゃんだった数年前、筆者の暮らす富山の神社で開催された「泣き相撲(赤ちゃん相撲)」にわが子を参加させた経験があります。

東西の力士(筆者の参加した大会の力士は相撲部所属の学生)にわが子と、見知らぬご家族の赤ちゃんが抱え上げられ、どちらの泣き声のほうが大きいかを競わせる大会でした。

結果、わが子が大関に選ばれるくらい泣きわめいたわけですが、その様子を見た義理の父親は、大泣きする孫を気の毒に思ったみたいです。なにしろ、無理やり泣かせているわけですからね。

この泣き相撲、現代的な感性で見れば、幼児虐待という解釈もできるかもしれません。しかし、意外にも、歴史や伝統がある行事です。

小学館『大辞泉』にも「泣き相撲」の記述があり、

〈栃木県鹿沼市の生子神社で9月に行われる行事〉(小学館『大辞泉』より引用)

と説明があります。辞書にまで掲載される伝統行事なのですね。秋の季語にもなるみたいです。

江戸時代に始まった神事


生子神社 Shikanuma, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons

『大辞泉』に書かれていた栃木県鹿沼市とは、宇都宮市に隣接した自治体です。有名な神社の多い土地で、古峯神社や加蘇山神社があり、旅行メディアのTABIZINE的に言えば、秋祭りの屋台行事で有名な今宮神社もあります。

さらに、その鹿沼市には、上述の生子神社があります。県や市の公式ホームページによると、生子神社の泣き相撲は、幕末の文久年間(1860年代)から続く行事だと紹介されています。要するに、150年以上の歴史を持つ神事なのですね。

生子神社の泣き相撲(栃木県鹿沼市)
生子神社の泣き相撲(栃木県鹿沼市) ©️公益社団法人 栃木県観光物産協会

どうして、このような行事が始まったのでしょう。

そもそも、日本には「泣く子は育つ」という言葉(俗信)があるようです。「寝る子は育つ」は知っていましたが「泣く子は育つ」もあるのですね。

赤ん坊が泣けば元気な証拠、よく泣く子は丈夫に育つという意味の言葉です。この言葉に基づき、子どもの成長を祈願して、江戸時代の幕末に泣き相撲が生子神社でスタートしたのだとか。

同様の行事は、ほかの土地でも見られます。北海道札幌市の西野神社で開催される泣き相撲から、大分県大分市の大分縣護國神社で開催される泣き笑い相撲に至るまで全国にあるようです。

泣き相撲に関する各地のローカル紙の報道も数多くあります。筆者の場合は、富山県の射水神社で参加させました。

ちなみに、1996年(平成8年)に国の選択無形民俗文化財に指定された生子神社の泣き相撲は、毎年9月19日以降の最初の日曜日に例祭が行われ、その直後に奉納されるそうです(※完全予約制)。

子育て中の方も、子育て中でない方も、皆さんの自宅近くの神社で泣き相撲が開催されていないか調べてみると楽しいかもしれませんよ。

[参考]
泣き相撲 – 栃木県
泣く子は育つ!生子(いきこ)神社の泣き相撲 – 鹿沼市
生子神社の泣き相撲 – 鹿沼日和
10 Unique Festivals Around The World That Will Leave You Amazed – travel.earth
「泣く子は育つ」乳幼児が土俵で泣き相撲 成長祈願 栃木県鹿沼市 – 産経新聞
健やかな成長願い泣き相撲 札幌・西野神社 – 北海道新聞

PROFILE

坂本正敬

Masayoshi Sakamoto 翻訳家/ライター

翻訳家・ライター・編集者。東京生まれ埼玉育ち。成城大学文芸学部芸術学科卒。現在は、家族と富山に在住。小学館〈HugKum〉など、在京の出版社および新聞社の媒体、ならびに〈PATEK PHILIPPE INTERNATIONAL MAGAZINE〉など海外の媒体に日本語と英語で寄稿する。 訳書に〈クールジャパン一般常識〉、著書(TABIZINEライターとの共著)に〈いちばん美しい季節に行きたい 日本の絶景365日〉など。北陸3県のWebマガジン〈HOKUROKU〉(https://hokuroku.media/)創刊編集長。その他、企業や教育機関の広報誌編集長も務める。文筆・編集に関する受賞歴も多数。

翻訳家・ライター・編集者。東京生まれ埼玉育ち。成城大学文芸学部芸術学科卒。現在は、家族と富山に在住。小学館〈HugKum〉など、在京の出版社および新聞社の媒体、ならびに〈PATEK PHILIPPE INTERNATIONAL MAGAZINE〉など海外の媒体に日本語と英語で寄稿する。 訳書に〈クールジャパン一般常識〉、著書(TABIZINEライターとの共著)に〈いちばん美しい季節に行きたい 日本の絶景365日〉など。北陸3県のWebマガジン〈HOKUROKU〉(https://hokuroku.media/)創刊編集長。その他、企業や教育機関の広報誌編集長も務める。文筆・編集に関する受賞歴も多数。

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