険しい奇岩の間を走る「五能線」
青森県・川部駅と秋田県の能代駅を結ぶ五能線は、全長147.2kmの乗りごたえのある路線です。車窓の景色も素晴らしいため、一度は乗ってみたい路線として人気があります。ところが、冬には、荒れる日本海を走る逞しい路線でもあるのです。
青森県の川辺駅を発車した列車は、しばらく岩木山を背景に海に向かって走ります。線路は、鯵ヶ沢駅付近から海に近づき、秋田県の能代駅まで日本海に沿って進みます。
鯵ヶ沢の町を抜けると、北金ケ沢駅がある小さな漁港のある町に出ます。田んぼと、海と、岩木山の見える素敵な町です。この町を過ぎると、だんだんと岩木山は見えなくなり、今度は奇岩が連なる海が続いていきます。
車窓に、美しい日本海と険しい奇岩をところどころに見ることができるのも、五能線の特徴です。夕陽が綺麗なことでも有名な深浦町では、特に大きな奇岩がいくつも見られます。
行合崎の岬にはキャンプ場もあり、堤防では釣り人も集まる場所ですが、岬の先端まで歩くと誰もいません。壮大な海を独り占めです。そして、奇岩の間を走る列車を眺めることができます。
天気のいい日は、日本海の広がる気持ちの良い場所ですが、海からの風が冷たく吹き付ける日もあれば、波が打ち付ける日もあります。岩場で風を凌ぎながら列車を眺めると、改めて列車がすごい場所を走っているなあ、と感心します。
行合崎
住所:青森県西津軽郡深浦町広戸家野上
十二湖駅の近くにも奇岩があり、ガンガラ穴付近を列車が通過します。森山海岸近くの「賽の河原」という寂しい名前の岩場は、険しい岩場と広い日本海が見渡せる絶景地でもあります。
ガンガラ穴
住所:青森県西津軽郡深浦町
コバルトブルーの「青池」
十二湖駅といえば、はずせないのが「青池」です。白神山地の十二湖と呼ばれる湖の中にある、コバルトブルーの美しい池。
五能線の快速「リゾートしらかみ」の中には、橅・くまげら・青池の名前がついた車両があるのですが、青池編成の列車は、この青池をイメージした車両です。青池は、名前の通り青くて美しい池で、浮かぶ落ち葉も星屑のようでした。
青池
住所:青森県西津軽郡深浦町松神山国有林内
荒れる日本海の絶景
五能線が走るルートは、晴れている時は海の色も美しく、夏になると海水浴ができる海岸もあり、海沿いの素晴らしい景色を見ることができます。
しかし、冬の荒れる日本海はガラリと雰囲気が変わり、海も黒く波が荒いのです。
波が打ち付ける中も、日本海沿いを列車は走ります。海が荒れていると、視界が悪く、列車が見えないこともあるのですが、それでも列車が走ってきてくれるので、夢中になってしまうのです。
険しさは、千畳敷駅にもあります。駅の近くの海岸は、地震で隆起してできたゴツゴツした岩棚が広がっており、殿様が「千畳の畳を敷いて宴会をした」というちょっと楽しそうな由来も残っています。
驚くのは、岩棚だけではなく、駅の目の前に広がる氷柱です。岩から滲み出た水が激しい強風で氷柱となり、びっしりと氷柱がぶら下がります。
晴れた日も美しいですが、雪の日も雨の日も、激しい荒波の中も走る五能線は、強くてカッコ良いのです。
そうはいっても、過酷な雪の中を走るのは大変なこと。雪の中、車掌さんが安全確認をしている姿に、頭が下がる思いです。
「深浦雪にんじん」と「嶽きみ」のとうもろこし
青森で収穫されるとうもろこしと人参を毎年楽しみにしています。「嶽(だけ)きみ」と呼ばれるとうもろこしです。きみは津軽弁で、とうもろこしの意味。岩木山の麓に広がる嶽と呼ばれる地域で作られます。日中の寒暖差が特別に甘いとうもろこしを育てるようで、毎年、絶対に食べたいとうもろこしです。
「ふかうら雪人参」は、白神山地の麓で育った糖度9度以上の人参です。夏に育て秋に収穫できる人参を、あえてしばらく寝かせ冬に収穫するそう。「糖度が高くてフルーツのような人参」と言われていますが、臭みのない甘い人参は、何もつけなくても、そのままでおいしいです。
ビーフシチューのおいしいレストラン「セイリング」
ふかうら雪人参を知るきっかけになったのが、深浦駅にあるレストラン「セイリング」さん。ビーフシチューがおいしいと知って訪ねたのが始まりでした。
ここのビーフシチューは、ふかうら雪人参を使用しており、特に、ふかうら雪人参のオリジナル商品が充実しているお店です。ほかにも、地元の旬のものを使った食事が楽しめます。
「リゾートしらかみ」に乗車する時には、「ごのたび」というサイト(スマートフォン専用)でお弁当を予約できます。その中で「セイリング」さんのお弁当を選んで、深浦駅で受け取ることもできるのです。
食べ物屋 セイリング
住所:青森県西津軽郡深浦町大字深浦字苗代沢78-34
五能線の「木造(きづくり)駅」には、とてもインパクトの強い駅舎があります。国道から駅に向かう直線に入ると、大きな土偶が道の真ん中に立っていて、まるでラスボスのよう。
遮光器土偶をモチーフにしているので、「しゃこちゃん」という名前がついています。可愛い名前ですが、小学生に怖がられてしまうこともあったとか。列車の到着に合わせて、駅員さんが手動で光らせているそうで、お願いすると光らせてくれました。実は、目の色は何色にも変化するのです。
大きな土偶の足元から駅舎に入ると、駅の中では遮光器土偶のしゃこちゃんモチーフのクッキーやジュース、グッズも販売されていました。しゃこちゃんモチーフのクッキーは、もったいなくて、しばらく鑑賞してからいただきました。
木造駅
住所:青森県つがる市木造房松
景色の良さと乗りごたえもたっぷりな五能線は、長い旅が楽しめる路線です。「リゾートしらかみ」に乗車して、日本海の旅に出かけてみませんか。
hiromiito 鉄道写真家
旅行会社の写真撮影ツアー同行講師。他、写真教室の講師。取材同行の他、学校写真カメラマン。食いしん坊。
鉄道写真のため全国を回る。ローカル線や蒸気機関車に乗るのも好き。鉄道の情景写真が好きで、ローカル線では地元の方と話し、名物や駅弁を楽しみながらの寄り道も大好き。
季節ごとに何度も同じ場所に出向くことも少なくなく、長時間滞在も惜しまず、見つけたものや人との出会いは最高の宝物だと思う。
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