1本の木に会いに行く【7】日本最古のリンゴの木<青森県>

Posted by: 阿部 真人

掲載日: Aug 27th, 2019

何気なく通り過ぎる街なかの、あるいはお寺や神社、山道での1本の木。ほとんどの人が関心を持たないからこそ1本の木は現代の秘境だと思えます。その秘境に分け入り、観察し、ふと周囲を見渡すと人間と自然の関係や、地域の歴史や文化が見えてきます。今回ご紹介するのは日本で最も古いという青森県のリンゴの木。141歳になった今も実を結ぶリンゴの木なのです。

リンゴ越し岩木山

津軽の原風景は岩木山とリンゴ

弘前からつがる市に向かって北上する間ずっと左手に岩木山が見えます。標高1625mの岩木山は津軽富士とも呼ばれ、津軽平野のどこからも見ることができます。そしてもうひとつ、この季節は津軽平野のここかしこで赤くなりかけたリンゴを見ることができます。青森県はリンゴのシェアが全国1位なのです。

標識1
この津軽に、日本で最も古いリンゴの木があるといいます。今私たち日本人が食べているリンゴは西洋リンゴ。もともとは中央アジアのコーカサス地方が原産地といわれ、ヨーロッパ経由でアメリカに渡り、明治に入ってアメリカから日本に輸入されたものが始まりだといいます。そのもっとも初期のリンゴの木が今も青森県に残されているのです。

標識2
住所は、つがる市柏桑野木田字千年226。周囲にはあちこちにリンゴ園が広がっているので、住所表示だけではわかりにくいのですが、柏郵便局が目印となります。郵便局を東に行くとすぐに「日本最古のりんご」と書いてある大きな案内板が出てきます。

リンゴ園の小径
さらに進むともうひとつ案内板があり、右側の細い道に入っていくと、そこが古坂さんのリンゴ園です。

リンゴ園正門
ふだんは正門が閉じられています。必ず事前に古坂さんに電話連絡をしてから訪ねてください。

日本最古 3本のリンゴの木

最古のリンゴ3本
広々としたリンゴ園にはフジや津軽といった昨今主流のリンゴの木9品種がずらりと並んでいますが、その手前に、特別に白い柵で囲まれた3本の木がありました。明治11年(1878年)に苗木として植栽された「紅絞(べにしぼり)」2本と「祝(いわい)」1本です。御年141歳。見た目はふつうのリンゴの木と変わりません。

古坂徳夫さん
そしてこちらがリンゴ園のご主人、古坂徳夫さん、ちなみにお年は69歳。14年前にお兄様が急逝したために、最古のリンゴの木を守るためここを引き継いだのだそうです。

案内板
リンゴの木の寿命は通常30年ほどなのだそうです。とはいえそれは人間の都合で、たくさん実のなるリンゴや人気のある品種なら、手間をかけて育てるそうですが、実の少ないリンゴの木や人気のない品種だと切り倒されてしまうのです。収入を得て暮らしてゆくためには仕方がないことかもしれませんが。

紅絞の木
古坂徳夫さんはリンゴ園の4代目(お兄様を入れると5代目)。初代の曽祖父・乙吉さんを始めとして先祖代々愛着を持って3本のリンゴの木を守ってきたのです。病害虫や自然災害との闘い、手探りで試行錯誤の連続だったに違いありません。

141歳になる「紅絞」と「祝」。10年ほど前には60箱ほどの収穫があったのですが、いまは木に無理をさせないよう着果の数を減らした結果、20箱ていどの収量なのだそうです。

樹齢141歳 手入れは大変

幹の手当て
というのも141歳の「紅絞」に近づいてみると分かりますが、下の写真のようにコンクリートであちこちの幹や枝別れしたところに、人間でいえば皮膚に絆創膏を貼るように覆いがしてあるのです。

これは表面の皮が剥がれてむき出しになったところから内部に雨水などが入らないようにするためだそうです。いったん水が入って内部が腐ってしまうと、すぐに木が枯れてしまうのだそうです。

幹の手当て②
コンクリートを使った手当は驚きですが、古坂さんはそれが一番良いようだといいます。確かに微妙な形に合わせて絆創膏代わりになるものは他に思いつきません。

幹が真っ二つ
また1本だけ残った「祝」は、古坂さんが示した部分で、あるとき幹が真っ二つに裂けたのだそうです。そこで裂けてしまった2つの幹を針金でグルグル巻きにしてしっかりと繋ぎなおしたのです。

針金で固定
するとふたたび幹がくっついてひとつになり、元気になったといいます。いまも針金で固定したままですが、植物の生命力というのはすごいものですね。

間引き
最も気を使うのは剪定なのだそうです。なるべく木に負担をかけないように、普通のリンゴの木以上に間引きをしていきます。いまではひとつの枝にほぼ1個の実しか残しません。

実は枝にひとつ
実を付けるときに木は大きなエネルギーを使います。たくさんの実を同時に付けようとすると、老いた木は疲れ果ててしまいます。なるべく疲れさせないように、まずは枝の数を少なくし、その後実をつけたときも枝に実をひとつだけしか残さないというのです。

9月から収穫 ラッキーな見学者は試食できます

祝の木
9月になると、まず「祝」の収穫が始まるといいます。「祝」も「紅絞」も初めて聞く品種です。ちなみに「祝」は1800年ころアメリカで生まれた品種だそうです。

紅絞の実
そして9月下旬から10月にかけて「紅絞」の収穫に移っていきます。小ぶりで果肉は真っ白なのだそうです。「紅絞」は1700年代前半にカナダで生まれた古い品種で、青森では明治時代から昭和の初めにかけての重要な品種だったのだそうです。

リンゴ園
ちなみに9月~10月の収穫時期に訪問した見学客の方には、もしタイミングよく残量があれば、この貴重なリンゴを分けて頂けるといいます。なんとひとり1個程度なら無料で試食させてもらえるそうです。またまとめて購入したいという方は訪れた時に古坂さんにご相談ください。

りんごUPと岩木山
141年前のまだまだ開発途上だったリンゴですから、けっして昨今のリンゴのように甘くはないでしょう。しかし、それだけに青森リンゴの歴史の重みと先人たちの苦労が味わえる、とても貴重なリンゴでもあります。

日本最古のリンゴの木
住所:青森県つがる市柏桑野木田字千年226
アクセス:JR東日本五能線五所川原駅から車で約20分。または五所川原駅から弘南バス鶴田線(廻堰経由)乗車、つがる市役所柏支所前下車、徒歩約5分。
※見学する際には必ず事前に電話予約(携帯電話:090-9639-7939 古坂徳夫さん)を。
 
PROFILE

阿部 真人

Masato Abe 還暦特派員

大学を卒業後、およそ30年間テレビ番組を作ってきました。57歳の時に、主夫となり、かつ自由人として旅に生きることを決意して早期定年退職。登山を始め、東京の街歩きガイドや温泉めぐり、豆大福探訪などなど60歳の還暦を迎えて好奇心が高まっています。

大学を卒業後、およそ30年間テレビ番組を作ってきました。57歳の時に、主夫となり、かつ自由人として旅に生きることを決意して早期定年退職。登山を始め、東京の街歩きガイドや温泉めぐり、豆大福探訪などなど60歳の還暦を迎えて好奇心が高まっています。

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