2023年11月公開!4つの新常設展
お台場エリアで、最新の科学技術にもとづく展示を体験できる「日本科学未来館」。2023年11月22日(水)から、3階・5階では「ロボット」「地球環境」「老い」をテーマにした4つの新常設展示が公開されました。「未来の社会課題を自分ごととして考える第一歩になる」ことを目指しており、2023年の今を生きる私たちが知っておくべき情報が詰まっています。
3階には、ふれあい系や研究開発中の技術まで最新ロボットを展示した「ハロー! ロボット」、人とロボットが一緒にくらす未来のまちで起こる物語に参加するなかで、人とロボットとのさまざまな付き合い方にふれていく展示「ナナイロクエスト ―ロボットと生きる未来のものがたり」、老化現象が起こるメカニズムや対処法、研究開発中のサポート技術などの展示や、老化により生じる変化の疑似体験ができる「老いパーク」の3つの展示エリア。
5階は、環境問題に対して自分にできることを探すきっかけになる展示「プラネタリー・クライシス ―これからもこの地球でくらすために」を展開。
今回は内覧会に伺ったので、3階エリアを見てきました。
老いパーク
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誰にでも訪れる老化現象について、現在判明している老化のメカニズムや対処法などを紹介している「老いパーク」。ポップな色合いの公園のようなデザインで気軽に体験できる楽し気な雰囲気になっています。
奈良時代から続く、40歳の「初老の賀」という祝いの風習。現実を突きつけられる「初老」という響き…。この誰もが避けられない「老い」について、身体に起こる変化や補助技術など、科学技術の観点から注目している展示です。
こちらでは、「目、耳、運動器、脳」の老化現象を、6つの体験型展示で疑似体験できます。老化現象が生じるメカニズム、現在の対処法、研究開発中のサポート技術、20年前と現代の高齢者の運動機能のデータ比較など、パネルや実物展示などで紹介しています。
「老いパークガイド」を開くと、ぼやっとしたページになっていて、まずは「老眼の見え方」を体験。
耳の老化現象を体験する「サトウの達人」。病院など受付窓口で呼ばれる“子音違いの名前(サトウさん、アトウさん、カトウさん)”の中から「サトウさん」と聞こえた時だけ挙手ボタンを押すゲーム。耳が老化すると高音域から聞こえにくくなるので、「サ・ア・カ」の高音域の子音が、最初は聞こえていても、老化モードになると聞き取れなくなりました……。
視界が二重・三重に見えたり、まぶしく感じたり、視界に黄色みがかかるといった、白内障による変化をゲームで再現した「3つの○○なテレビゲーム」。
こちらは、レーザーで指定した枠内の文字を音声に変換する技術。現在は、老眼には老眼鏡などで対処されていますが、見ているものの距離をセンサーで測定し、目のピント調節をサポートする「眼鏡型アイウェア」も研究開発中のようです!
こちらは「スーパーへ GO」。足に重りをつけた老体状態を体験しながら、カートを押して近場のスーパーまで歩いて買い物に行くシミュレーションで、運動器の老化による移動能力の変化の体験ができる展示です。
運動器が老化すると、筋力が低下し、前かがみとなり、坂道や長距離も早歩きも困難に。横断歩道で、信号の青が点滅しても走って渡れず、車からクラクションが鳴らされて、ゲームと言えど気持ちが焦ります……。
脳の老化を体験する「おつかいマスターズ」。買い物リストに書かれた商品を記憶して買い物をして、日常生活での「覚えにくさ」を体験するゲーム。
こちらも脳の老化を体験する「笑って怒ってハイチーズ!」。プリントシール機で“喜びと怒り”の表情を撮影して、老化により喜び以外の相手の表情が読み取りにくくなるという傾向を客観視できます。
介護施設で研究開発中の、子ども型見守り介護ロボット「HANAMOFLOR(ハナモフロル)」も展示。発話タイミングやアイコンタクトまで設計され利用者とコミュニケーションします。
総合監修を務めた、国立長寿医療研究センターの荒井理事長曰く「老化を緩やかにするためには、睡眠、栄養、運動が重要だが、老いることは生きること。変化を受け入れ、上手に付き合っていくことも人生100年時代には必要かもしれない」とコメント。
老化現象は個人の体質や生活環境にもよって様々ですが、いずれ誰にでも訪れること。「自分らしい老いとは」と、今後の人生をどう生きていくか、若い世代は高齢者にどう接していくかと、色々考えさせられます。
ナナイロクエスト ―ロボットと生きる未来のものがたり
人とロボットがともにくらす未来のまち「ナナイロシティ」に入り込んで、トラブルを解決するために専用タブレットを使って展示空間を探索するという、遊びながらじっくり体験ができる展示です。
3つの体験シナリオから1つを選び、専用タブレットを受け取って入場して体験スタート。
シナリオは「A:ともだちロボットツアー」所要時間40~60分程(小学生以上推奨)、「B:ものづくりロボットツアー」所要時間60~80分程(中学生以上推奨)、「C:からだロボットツアー」所要時間60~80分程(中学生以上推奨)の3パターン。
展示内は、公園、マンション、お店など部屋が分かれていて、ポップな空間! タブレットに現れるナビゲーターの指示に従って、まちの中をぐるぐる巡って、ロボットの情報や住人との会話などを通し、ミッションに挑戦。内容は体験するまでのお楽しみです!
最後は、感想やアイデアを投稿するお部屋へ。投稿はSNSのように瞬時にモニターに映し出され、他の人の想いも知ることができます。
問い・体験の監修を務めた、京都大学総合博物館の塩瀬先生も、本展示について「どんなロボットなら嬉しくて、どんなロボットだとモヤモヤするのか、多様な”問い”に対する皆の声を集める展示を目指した。まだ見ぬ未来を、皆と一緒に探究する”対話”こそ、1番の目玉」とコメント。
ナナイロシティで住人がロボットと付き合っているように、近い将来、この現実でも当たり前になるであろうと感じたロボットツアー。自分で考え、他の人の想いを知ることで、新しい発見があり、また1歩と未来へと繋がっていく。思考交流型のワクワク展示です。
1台のタブレットで4人まで一緒に体験OK。現在、事前予約制ではないので、当日申込みをして参加できます。
ハロー! ロボット
先ほどの「ナナイロクエスト」を出たら、ふれあい系や、AIと組み合わさったロボットなど、最新研究や注目のロボットが多数展示されている「ハロー! ロボット」へ。先ほどロボットとくらすまちを見た後なので、実際にこんな風にロボットが生活にやってくるのかと実感!
大きな目とモフモフの青い姿が特徴の、未来館オリジナルパートナーロボット「ケパラン」。「みんなで育てる」をコンセプトに、ロボットがより身近になる未来を体感し、人とロボットとの関係性を「自分ごと」として考えるきっかけになるように開発されています。
「ウインクして・写真とって」など専用アイテムを見せると、腕をなめらかに動かして踊ったり、目を細めてニコッと笑ったり。びっくりするほどスムーズに反応して釘付けになりました!
今後は、ケパランの声、発話や表情などの感情表現、パートナーロボットとしての応対や歩行など、みんなの意見をふまえて成長していくようです。
本物の動物を飼えない状況のために開発されたセラピーロボット「パロ」。医療施設の他、災害や戦争を体験した人たちの心を癒したりと活用されています。今は、有人火星探査に向け、狭い居住空間でのストレス軽減の効果も実験中。目を閉じてモフッとしていて、見ているだけで安らぎます……。
家庭の中で人とつながり、育てる喜びや愛情の対象となるロボット「aibo(アイボ)」 。クラウドにつながっていて、自ら学習し成長します。初期開発のときより可愛らしい犬感が増しています!
本物の犬のように、撫でられると喜んで、お手をしたりと、飼い主によって性格も変化していくそう。ロボットと分かっていながらも一緒に暮らすとロボットであることを忘れそうなほどリアル!
最近よく見かけるのは、1体ごとが個性的な姿の「LOVOT(ラボット)」。頭部の「センサーホーン」には、半天球カメラやマイク、サーモグラフィーなどを内蔵し、体の50以上ものセンサーで刺激を捉え学習し、リアルタイムに動きます。肌触りがよく温かく、10億通り以上ある目や声を組み合わせて家族になっていくロボットです。
他にも、人間の発した言葉に反応して、会話を引き出して展開してくれる「トーキング・ボーンズ」(写真)、歩行研究をもとにAIと組み合わさった2足ロボット「けんけんロボット」、人の会話の“熱量(発話量)”を計測し、瞳孔を大きく変化させ人をひきつけるロボット「Pupiloid(ピューピロイド)」 など、最新ロボットがたくさん。
展示中のロボットは接触禁止ですが、「パロ、aibo、LOVOT」は、実際に触れてOK! 将来、これらロボットに安心感を持てたり、対話相手になったりするだけでなく、人間の体の一部になったりするのでしょう。漫画やアニメで見てきた世界が目前だと、驚き連続の未来コーナー!
プラネタリー・クライシス ―これからもこの地球でくらすために
5階は、体験を通して地球環境とくらしを多角的に見つめ直すことに焦点をあてた「プラネタリー・クライシス ―これからもこの地球でくらすために」。
(写真提供:日本科学未来館)
大型映像シアターと連動した振動や風などを体感しながら、海面上昇などの気候変動の影響を受ける太平洋の島国・フィジー共和国のくらしの実情を、現地の方のリアルなストーリーで体感できるほか、二酸化炭素排出量や海面上昇などの問題を知ることができる展示に。
おまけ『AIの遺伝子』上映&対談イベント
ちなみに、今回の新常設展の公開前、2023年10月7日(土)には、筆者も大好きなTVアニメ『AI(アイ)の遺電子』の上映と研究者トークイベントが行われたので参加してきました。
左から未来館の職員さん、アニメの原作者である漫画家・山田胡瓜先生、新常設展示「ナナイロクエスト」の監修者・塩瀬先生、安藤先生(早稲田大学次世代ロボット研究機構)がご登壇。
AIが高度に発展し、「人間」と人権を持った「ヒューマノイド」が共存する日常の葛藤などを描いた『AIの遺電子』。作品ストーリーの題材にもなった「自分の意識や記憶のバックアップをとりたいかどうか」「伝統工芸や謝罪などAIやロボットに任せたくない仕事」など、観覧者アンケートも交えながら展開。興味深くて、もっと深掘りしたい内容でした。
アニメ『AIの遺電子』:https://ai-no-idenshi.com/
展示を通して、老いる体への想像力や思いやり、ロボットやAIに任せる時代でも人同士が意見を交わし、思考は止めてはならないと思えた新常設展。来訪者には『AIの遺電子』も観て、未来の日常をもっと疑似体験してほしいものです!
住所:東京都江東区青海2-3-6
TEL:03-3570-9151
開館時間:10:00~17:00(入館券の購入・受付は16:30まで)
休館日:火曜、年末年始(12月28日~1月1日)
入館料:大人630円、18歳以下210円
交通:ゆりかもめ「テレコムセンター」から徒歩約4分
公式サイト:https://www.miraikan.jst.go.jp/
[photos by kurisencho]