クロアチアの首都、ザグレブ。首都と言ってもヨーロッパの小さな田舎町のような可愛らしいこの町には、古き良きヨーロッパの薫りが今も息づいています。
伝統を大切にするザグレブの人々は、時代の流れに沿ってモダンなものを取り入れつつも、昔ながらの街と暮らしを守ってきました。
「昔」と「今」が交差する街
建物の間を縫うように走る青いトラム。市民の足として長年親しまれているトラムの色は、昔からずっと青。時々黒や黄色、赤、イラストが描かれているものも見かけますが、それはご愛嬌。モダンなデザインのものに混じって、レトロなトラムがガタガタと音を立てて走り抜けて行きます。
街一番の目抜き通りである「イリツァ通り」。世界中で目にするブランドのモダンなお店に混ざって、百年近く、なかにはそれ以上長く営業を続けてきた老舗が点在しています。通りを散策して、気になるお店があれば「ドーバル・ダン(こんにちは)」と挨拶をしながら扉を開けて訪ねてみましょう。
暮らしの中に息づく伝統
全長わずか66mのケーブルカー「ウスピニャチャ」。乗り場のうしろには、町を一望できるロトルシュチャック塔が立っています。
今でも寒い日には赤茶色の屋根の煙突から、もくもくと煙が立つ光景が見えたり、昔ながらの衣装に身を包んだ煙突掃除屋さんにひょっこり出くわすことも。青空市場で野菜を売るおばあちゃんが使っているはかりは、昔ながらの天秤と分銅だったり、夜の石畳の道を照らすのは電気ではなくガス燈だったり・・・。
ロトルシュチャック塔からの眺め (C)Mami Kosakai
そして、お昼休みの時間を今か今かと待ちわびるザグレブっ子に正午を告げるのは、街を一望できるロトルシュチャック塔から放たれる大砲(空砲)の音!130年以上もの間続く伝統で、毎日12時ぴったりに街中に響き渡るこの音を聞いて、ザグレブっ子たちは長い長いお昼休みに出かけて行くのです。
ザグレブが一層ノスタルジックな空気を濃くするのが夕暮れ時。この街で「もうすぐ日が沈みますよ」と真っ先に知らせてくれるのは、ガス燈にひとつひとつ火をつけて回るおじさん。おじさんが石畳の通りの向こう側に姿を消した頃、街は黄昏色に染まります。
「ありのまま」でいられる街
ヨーロッパの大都市とは違い、地下鉄もなく、ショッピングを盛大に楽しめるような場所や大きな娯楽施設もありませんが、ゆったりのびのびとした時間が流れるこの街は、21世紀の今でも、一昔前のヨーロッパの暮らしや風景を肌で感じられる街なのです。
いくつものカフェが軒を連ねるトカルチチェバ通り (C)Mami Kosakai
特別な日だけに伝統行事を行うだけなく、普段の暮らしの中に自然と伝統が息づいているザグレブ。街も人もとても自然体で、時代の風潮に流されず、たまについ気取ってしまうことがあっても、いつも「ありのまま」でのびのびとしている姿は実に魅力的。
初めて訪れるのに、居心地が良くノスタルジックな気持ちにさせられる。そんな空気が漂うザグレブに、たっぷりと旅情をそそられることでしょう。
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