【TABIZINE自由研究部】地元の町に外国人観光客を集める方法 その3

Posted by: 坂本正敬

掲載日: May 28th, 2017

【TABIZINE自由研究部】調べる、考える、まとめる、伝える。
夏休みの自由研究のように、心惹かれることについて、じっくり調べてみる。考えて、試行錯誤し、また考えて、まとめて、発表する。TABIZINEにもそんな場がほしいと思い【TABIZINE自由研究部】を発足しました。部員ライターそれぞれが興味あるテーマについて自由に不定期連載します。

今回は、TABIZINEライター、坂本正敬の自由研究「地元の町に外国人観光客を集める方法」をお届けいたします。

TABIZINE自由研究部「地元の町に外国人観光客を集める方法」の第3回になります。

無料で一流講師陣による授業をオンライン受講できるサービス『gacco』の講座「文化財を活用した観光拠点形成」をテキストに、自分の町に外国人観光客を呼ぶ方法を考えるこの連載。

毎日が外国旅行気分!?TABIZINE自由研究部【地元の町に外国人観光客を集める方法】その3

前回までは自分の暮らす町にあるお寺や庭園、建造物、食、お祭りなどの文化財を中心に、世界から観光客を集める際の注意点を紹介しました。

3回目の今回は実際に地元にある魅力的な文化財を、どのように磨いて伝えていけばいいのか、その基本的な考え方を学びたいと思います。

毎日が外国旅行気分!?TABIZINE自由研究部【地元の町に外国人観光客を集める方法】その3

そもそも観光ってなに?

毎日が外国旅行気分!?TABIZINE自由研究部【地元の町に外国人観光客を集める方法】その3

自由研究部では、地元の町に海外からの観光客を集めようと研究をスタートしましたが、そもそも観光とは何なのでしょうか?

「文化財を活用した観光拠点形成」の講義を担当する講師の一人、日本観光振興協会の丁野朗さんによれば、“物語を消費する、経験を消費する行為”こそ観光だと言います。

なるほど言われてみると、四国のお遍路などは、まさに物語を消費する、経験を消費する分かりやすい例ですよね。

毎日が外国旅行気分!?TABIZINE自由研究部【地元の町に外国人観光客を集める方法】その3

筆者は先日、取材でオランダに出かけてきました。オランダは「神ではなく人が作った」と言われています。海面より低い土地から水をかき出す動力として風車を回し、その水を運河に流して海に運び出すという、日本では考えられない国土作りをしてきた歴史を持つ国家。

その干拓地を眺めたり、海をせき止める堤防を歩いたり、あるいは運河沿いを歩いたり、シンボルともいえる風車を見上げたりする瞬間、オランダ人の歴史を追体験するよう感動があり、身震いした覚えがあります。

毎日が外国旅行気分!?TABIZINE自由研究部【地元の町に外国人観光客を集める方法】その3

そうした類を見ない物語や歴史は、どこの土地にも何かしらの形で存在しているはず。気候が違い地形が違い、風土が違えばそれぞれに異なる歴史や物語を持っているはずです。

観光が物語の消費である以上、地元にある文化財から特有の歴史や物語を引っ張り上げ、磨き込んで、世界から来る観光客に丸ごと体験してもらう・・・、その一連の作業こそが、地元に人を呼ぶプロセスの土台になると、覚えておく必要がありそうです。

後付けの物語では駄目

毎日が外国旅行気分!?TABIZINE自由研究部【地元の町に外国人観光客を集める方法】その3

この「物語づくり」という言葉、商品開発やPRのシーンでよく耳にします。

とはいえ上述の丁野さんも指摘しているように、いかにも後付けで、町に暮らす人たちに全く共感されていない物語では何の意味もないそう。

小説家ばりにカッコよくストーリーを練り、ポスター写真やYouTube動画で美しく見せても、地元の人たちの暮らしに結びつかない物語では、そもそも地元の人が白けてしまうのですね。

広がりのない物語も駄目

毎日が外国旅行気分!?TABIZINE自由研究部【地元の町に外国人観光客を集める方法】その3

また、町づくりの根幹となる物語が、文化財単体で終わっていて、周辺の町全体を巻き込んでいない場合もNGなのだとか。

例えば地元の町に優れた社寺があったとしましょう。その文化財単体にどれだけ優れた物語があっても、その話が社寺だけで終わっていて、周辺の人々の暮らしと切り離されていると、町全体として観光客を呼び込めない、満足させられないと言います。

毎日が外国旅行気分!?TABIZINE自由研究部【地元の町に外国人観光客を集める方法】その3

筆者の暮らす富山に東京から遊びに来た友人が、同じような話をしていました。

県内にある歴史的にも価値の高い名刹(さつ)に行ったとき、「お寺自体は単体ですごいんだけど、周りの環境が普通すぎて全然感動しなかった」のだとか。

そのお寺は歴史的にも文化的にも極めて価値のあるお寺なのですが、周辺は普通の住宅街です。

お寺に行くまでの参道や周辺地域に、同じ物語やテーマを共有する人々の暮らしや町並みが広がっていなければ、エリア全体で観光客を満足させられないのですね。

住民が誇りに思うテーマを探す

毎日が外国旅行気分!?TABIZINE自由研究部【地元の町に外国人観光客を集める方法】その3

とはいえ、町全体が文化財を中心として、1つの物語を作り上げているケースは、なかなかないと思います。

上述のお寺のように、文化財が周辺の町と切り離されて存在している観光地も多いはず。

地元にある文化財の物語を引っ張り出し、磨き上げて、分断された地域や暮らしを巻き込みながら世界観を作り上げていくためには、どうすればいいのでしょう?

毎日が外国旅行気分!?TABIZINE自由研究部【地元の町に外国人観光客を集める方法】その3

スタートとして「文化財を活用した観光拠点形成」の講師・丁野朗さんによれば、文化財を中心とした地域に根差す、住民が誇りに思うようなテーマを探すといいそう。

例えば前回までの自由研究では、富山県南砺市井波の例を出してきました。

核となる文化財として、浄土真宗の瑞泉寺があります。お寺自体にも特別な歴史と物語があり、そのお寺を中心とした門前町も広がっています。

1762年に焼失し、その再建のために呼び寄せられた御用彫刻師の技術が地元の大工に伝わり、彫刻の町としても発展して、今も多くの日展作家や人間国宝を輩出するユニークな歴史があります。

その彫刻技術は日光東照宮や東本願寺・東京築地本願寺などの社寺彫刻を手掛けるほど。

しかし、現状では残念ながら、町全体、暮らし全体で統一した物語や世界観を伝えきれているとは言えません。

毎日が外国旅行気分!?TABIZINE自由研究部【地元の町に外国人観光客を集める方法】その3

(C)南砺市観光協会

実際に「もの足りない」という評価があると、「【TABIZINE自由研究部】地元の町に外国人観光客を集める方法 その2」で紹介しましたね。

町の持つポテンシャルに比して、外国からはもちろん、日本国内からも多くの観光客を呼びこめていない現状も紹介しました。年間の観光客数は国内外の人を含めて11万人(平成25年)。1か月に9,166人ほどで、1日に295人ほどです。ちょっと寂しい数字ですよね。

では、瑞泉寺を中心とした井波の町、暮らし全体で世界観を作り上げていくために、土台となるテーマは何なのでしょうか?

文化財を中心に住民に深く根ざす物語の共通テーマ・・・。よくよく考えてみると、例えば“信仰心”が挙げられるのではないかと思いました。

井波は信仰心の深い人々の暮らしがある

毎日が外国旅行気分!?TABIZINE自由研究部【地元の町に外国人観光客を集める方法】その3

(C)南砺市観光協会

そもそも北陸の富山は真宗王国と呼ばれるほど、信仰心のあつい人が多く暮らす場所。

井波は人口8,800人、世帯数3,000ほどの小さな町にもかかわらず、“お東”の瑞泉寺以外に、“お西”の真宗本願寺派西別院もあります。その他にも社寺が幾つも点在する点を見ても、信仰の深さがうかがえますよね。

大学時代の同級生で浄土真宗の僧侶でもある友人を井波に招待したとき、地元の人が見向きもしない町の入り口に立つ看板の「信仰と木彫りの里」というキャッチコピーに感動していました。

一般のお宅に招かれる機会もあったのですが、各家庭内には信じがたいほど立派な仏壇があるため、僧侶の友人は大いに驚いていました。

不謹慎なたとえかもしれませんが、大きい仏壇になると、駅のホームに建つキヨスクほどのサイズがあります。その一方で立派な神棚まで各家庭にあるのですから、神仏に対する信仰心の深さが分かりますよね。

毎日が外国旅行気分!?TABIZINE自由研究部【地元の町に外国人観光客を集める方法】その3

各家庭では仏事を大切にし、檀家制度も発達しています。檀家とは、

<一定の寺院に属し、これに布施をする俗家>(広辞苑より引用)

とあります。要するに、門徒によるお寺のサポート体制ですね。その檀家の熱心さにも、上述の友人の僧侶は感動をしていました。

そうした信仰心の根っこにある場所の1つが瑞泉寺であり、その瑞泉寺から広がった彫刻の技術が、町に点在する社寺の装飾に生かされ、さらには門徒たちの住宅や暮らしにも深くかかわっています。

毎日が外国旅行気分!?TABIZINE自由研究部【地元の町に外国人観光客を集める方法】その3

(C)富山県観光連盟

筆者の知る篤信家の住居には、巨大な仏壇や神棚はもちろん、天井とかもいの間に立派な欄間(らんま)彫刻が施され、床の間には当たり前のように井波彫刻の獅子頭が飾られています。

そう考えると、「この人々の信仰心から派生し、信仰心に支えられるさまざまな文化や建築、行事、イベントを一体的に磨き上げていけばいいのではないか?」という仮説が成り立ちそうですよね。

テーマをベースに物語を整理してみる

毎日が外国旅行気分!?TABIZINE自由研究部【地元の町に外国人観光客を集める方法】その3
 

土台となるテーマを想定したら、今度は具体的なストーリー展開を考えてみます。講師の丁野朗さんによれば、物語である以上、起承転結を考えるといいそう。

例えば信仰心をテーマに、核となる文化財の瑞泉寺を中心に地域全体の物語を整理すると、

起・・・5代・綽如(しゃくにょ)が1390年に瑞泉寺を開き、信仰が人々の生活に根を張る

承・・・1763年に火災が起き、瑞泉寺が消失。その再建時に京都から御用彫刻師が呼ばれる

転・・・彫刻技術が地元の大工に伝わり、発展して、後に日展作家や人間国宝を次々と生む

結・・・彫刻技術が信仰深い人々の生活に入り込み、住居や各人の美意識に大きな影響を与えている。

などといった起承転結が考えられるはずです。瑞泉寺の背景については、「【TABIZINE自由研究部】地元の町に外国人観光客を集める方法 その2」でも触れましたね。

なるほど、こうしたテーマや物語を整理してみると、具体的に何を磨き、何を伸ばせばいいのか、町を見る目が鋭くなり、アイデアがわいてきます。この物語に沿ってベースとなる町全体の見せ方を、構想していけばいいのですね。

 

以上、観光客に消費させる物語作りについて学びましたが、いかがでしたか?

とはいえ、現段階では物語を作ったにすぎません。この物語から具体的にどのような観光戦略を打ち立てていけばいいのでしょうか・・・。

テーマを設定して物語を作ると、確かにアイデアが次々と浮かんできますが、思いつくままに何かを打ち出していけば成功するほど、甘い世界ではないはず。

そこで次回は物語を作った後、その物語をベースに町をどのように商品化していくか、その方法を学びます。

毎日が外国旅行気分!?TABIZINE自由研究部【地元の町に外国人観光客を集める方法】その3
 

[文化財を活用した観光拠点形成 – gacco]
[観光・交流 人口定着 井波地区(富山県南砺市) – 国土交通省]
[住民基本台帳地域別人口の推移 – 南砺市]
[井波彫刻とは – 井波彫刻協同組合]

PROFILE

坂本正敬

Masayoshi Sakamoto 翻訳家/ライター

翻訳家・ライター・編集者。東京生まれ埼玉育ち。成城大学文芸学部芸術学科卒。現在は、家族と富山に在住。小学館〈HugKum〉など、在京の出版社および新聞社の媒体、ならびに〈PATEK PHILIPPE INTERNATIONAL MAGAZINE〉など海外の媒体に日本語と英語で寄稿する。 訳書に〈クールジャパン一般常識〉、著書(TABIZINEライターとの共著)に〈いちばん美しい季節に行きたい 日本の絶景365日〉など。北陸3県のWebマガジン〈HOKUROKU〉(https://hokuroku.media/)創刊編集長。その他、企業や教育機関の広報誌編集長も務める。文筆・編集に関する受賞歴も多数。

翻訳家・ライター・編集者。東京生まれ埼玉育ち。成城大学文芸学部芸術学科卒。現在は、家族と富山に在住。小学館〈HugKum〉など、在京の出版社および新聞社の媒体、ならびに〈PATEK PHILIPPE INTERNATIONAL MAGAZINE〉など海外の媒体に日本語と英語で寄稿する。 訳書に〈クールジャパン一般常識〉、著書(TABIZINEライターとの共著)に〈いちばん美しい季節に行きたい 日本の絶景365日〉など。北陸3県のWebマガジン〈HOKUROKU〉(https://hokuroku.media/)創刊編集長。その他、企業や教育機関の広報誌編集長も務める。文筆・編集に関する受賞歴も多数。

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