夏休みの自由研究のように、心惹かれることについて、じっくり調べてみる。考えて、試行錯誤し、また考えて、まとめて、発表する。TABIZINEにもそんな場がほしいと思い【TABIZINE自由研究部】を発足しました。部員ライターそれぞれが興味あるテーマについて自由に不定期連載します。
今回は、TABIZINEライター、坂本正敬の自由研究「地元の町に外国人観光客を集める方法」をお届けいたします。
今までこの自由研究では、どんな文化財を中心に、どんな人を呼びたいか、また一緒に町を盛り上げる仲間とどうやって対話を重ねていくのかを考えてきました。
では実際に呼びたいと思っていた国の人たちが来てくれたとして、どのような観光商品を提供すれば満足してもらえるのでしょうか? 遠い国からはるばるやってきてくれたのに、がっかりさせて帰すわけにはいかないですよね。
そこで今回は一流の講師陣によるオンライン講義を無料で受けられるgaccoの「文化財を活用した観光拠点形成」をテキストに、自分たちのアイデアを具体的な商品に落とし込んでいく際の注意点を紹介したいと思います。
観光客を満足させる仕組み作りのポイント3つ
上述の講義ではJTB総合研究所の主任研究員である河野まゆ子さんが、実際に来てくれた観光客をどのように満足させるか、具体的な商品作りを考える際の注意点を教えてくれています。
その主なポイントは3つ。
(1)旅行者が理解できるか
まずは単純に、提供する商品が旅行者に理解できるかどうかを注意するべきだと言います。
特に今回のテーマは外国人観光客を自分の町に呼び込むという話。せっかく町に来てもらったのに、誰もコミュニケーションがとれない、外国語の説明文もない、体験プログラムの流れを満足に説明できないという状況では、話になりませんよね。
(2)納得感があるか
文化財を中心としたストーリーが、旅行者を十分に納得させられるか、その点も大切だと言います。観光商品がいかにも付け焼刃の後付けでは駄目で、核となる物語から自然に派生していると納得させられなければ駄目なのですね。
もちろん、費用に関する納得感も重要。滞在中の費用に関して「こんなに高いの?」と思われたら、一気に旅行者の満足度は下がってしまいます。
特に海外から来ている人たちは、日本に来るだけでもかなりのお金を使っています。文化財の入場料は適切か、宿や街中の飲食店のメニューの値段設定は適切かなど、似たような観光地の金額を参考に、一度チェックしてみるといいのかもしれませんね。
(3)特別感はあるか?
特別感も旅行者の満足度を高める大きなポイントになるそう。何年に一度しか見られない特別拝観などは、旅行者の満足度を高める分かりやすい例だと言えます。
河野さんによれば、岐阜県白川郷の雪に埋もれた合掌造りなど、季節的な要因も特別感を演出する1つの決め手になってくるとか。
確かに京都の清水寺でも、秋の紅葉の時期に行くと、特別感が増しますよね?
今回の自由研究で題材として取り上げている富山県南砺市井波にある瑞泉寺は冬の間、門前町の参道を含めてほとんど人通りが消えてしまいます。
普通なら北陸の冬の気象条件は観光客を呼ぶ足かせになると考えてしまいがちですが、逆手にとって雪を特別感の演出に使ってしまうといった考え方もあるのですね。
地域の魅力を磨く5つの方法
地域に来てもらった観光客に満足してもらうための切り口や注意点は、他にもあるそう。河野さんによれば、地域の“5つの力”を磨くという考え方も大切だと言います。
1.商品力を磨く(文化財そのものや関連施設の魅力を磨く)
2.場の力を磨く(文化財周辺の景観や見せ方、演出方法を磨く)
3.人の力を磨く(観光ガイドの技能や地域住人のおもてなし力を磨く)
4.仕掛けの力を磨く(体験プログラムやイベントを仕掛ける力を磨く)
5.情報の力を磨く(プロモーションや口コミを広める力を磨く)
といった点ですね。今までの自由研究では、自分たちの町にどういった人を呼びたいのか、どういった人であれば来てくれそうなのかを考える作業が大切だと紹介してきました。
売り込む相手が見えてきた段階で、今度はその人たちの顔を思い描きながら、文化財や周辺の環境をどのように磨き込んで見せていくか、どういった特別感のある体験プログラムやイベントを行い、プロモーションをしていけばいいのか、上述の5つのポイントに沿って考えればいいのですね。
自由研究の舞台として挙げている南砺市の井波では、呼び込みたい観光客のターゲットの1つとしてタイ人を候補に挙げてきました。
World Wide Systemの作成した『タイ・インドネシア・ベトナム訪日外国人旅行動向調査』という資料を見ると、タイ人は日本の観光で「日本食を食べる」、「街歩きをする」といった体験を望んでいると分かります。
宗教心の深く根差した人々の暮らしをテーマに、その人々に支えられる瑞泉寺、さらには瑞泉寺から広まった彫刻文化と門前町の町並みを一体的に売り出そうという井波の戦略と、タイ人の好む「日本食」というキーワードを掛け併せて考えてみる・・・。
すると、例えば報恩講料理と呼ばれる、地域に根差した宗教行事で出される精進料理が思いつきます。四季折々の地元の食材を使った、おもてなし料理の1つですね。
一方で「街歩き」について。国土交通省が行った『訪日旅行のブランド・イメージに関する調査研究』を見ると、タイ人は日本の歴史・伝統文化について、神社仏閣を強くイメージすると分かります。
また、歴史と文化がある日本独自の町並みの雰囲気を連想するとともに、着物を思い浮かべているのだとか。
そうなると、井波でも瑞泉寺や門前町を散策してもらう際に、着物レンタルのサービスがあるといいなどの発想も出てきますよね。
もちろんタイ人の想定する日本食が、上述した素朴な味わいの精進料理を想定しているのか、他の地域でタイ人はどれくらい着物レンタルを利用しているのかなどを、突っ込んでリサーチしなければいけないはず。
ですが、このように物語を軸に売り込みたい相手を想像しながら5つの力に着目すると、町の魅力を磨き上げる商品アイデアが、あれこれと出てきやすくなるのですね。
以上、実際に自分たちの町に来てもらった人に、どうやって満足をしてもらうか、その満足感を高めるためのポイントを紹介しましたが、いかがでしたか?
仲間たちとあれこれ議論をする際には、上述したポイントに沿って話を進めると、実のある議論になりそうですね。
[文化財を活用した観光拠点形成 – gacco]
[タイ・インドネシア・ベトナム訪日外国人旅行動向調査 – World Wide System]
[訪日旅行のブランド・イメージに関する調査研究 – 国土交通省]
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