皇后美智子さまが園遊会などでご愛用していたことでも有名な、ホワイトローズのビニール傘。江戸時代創業の老舗メーカーである同社が開発した“世界初のビニール傘”について、ホワイトローズの工房にお邪魔して、代表の須藤 宰さんにお話を聞かせていただきました。
今回は、後編です!
皇后美智子さまに見る、日本の“相合傘の文化”
雨が降ってくると、そっと傘を差してあげたくなる。これは須藤さん曰く“日本独特の文化”とのこと。園遊会でも美智子さまに天皇陛下が傘を差し掛ける御姿が見られましたが、これこそ日本的風景なのですね。2018年11月9日に行われた平成最後の園遊会でも、美智子さまが御使いになっていたのは、ホワイトローズが美智子さまにお作りしたビニール傘でした。その傘を一般販売用に若干の仕様変更をしたものが「縁結(えんゆう)」です。
女性に人気のエレガントなビニール傘「縁結」
両陛下が必ず出席されていた「全国植樹祭」で、両陛下がカテールを使っていただけたことが縁で、宮内庁から注文が舞い込みます。平成22年の園遊会で初めて使われたビニール傘がのちの「縁結」です。美智子さまが御使いになっている時に、傘が風に煽られないようにと考え出されたのが、傘に穴を開けた“逆支弁システム”でした。持ち手にはフェミニンな防水サテン生地をあしらい、皇室に相応しいエレガントなビニール傘が誕生したのです。これまでどうしても「ビニール傘=安物で使い捨て」というイメージを払拭しきれずにいましたが、園遊会の傘という由緒あるステイタスを得ることとなったのです。その気品あるビニール傘は、名実ともに世界に誇れる一流品となりました。
修理工房で繋がる、お客様との対話で得られるもの
ホワイトローズが発明したビニール傘ですが、市場ではすぐに海外の安いコピー商品が出回り、コンビニなど、どこででも手に入る量産型の商品となっていきました。そうなるとメーカー間の価格競争が始まり、コストを下げた壊れやすい商品が広まって、ビニール傘はすっかり使い捨てのイメージがついてしまいました。しかも、海外の低価格商品には勝てず、最盛期には50社以上あった国内のビニール傘メーカーが、現在ではホワイトローズ一社になってしまいました。
お話を伺ったホワイトローズの工房では、自社製のビニール傘の修理を受け付けています。「傘を作っただけじゃダメ。傘は壊れるということを想定しながら、うちでは5年10年と長持ちする傘をつくっています。カバーも骨も壊れたら取り替えられます。ホワイトローズではすべて国内で手作りしているので、自社で修理ができるっていうのが実は強みなんです」
「もちろん我々は、最良のものを作っているんですけど、修理をしてみないと欠点がわかりません。というのは、お客様は想定外の使い方をしていたりするんですよ。『なんでこんな壊れ方したんですか?』って聞くと『実はこういう使い方をしたんです』と。そこで初めて『そういう使い方をする人がいるんだ』ということに気づけば、ここを補強しなくちゃとか、ここの作り方じゃマズいなとか。そういう反省をするきっかけになる。つまり、壊れてみないと傘の悪いところは、我々にはわからないんですね。通常の販売では、どんなお客様が使っているのかわからない。だけど、修理にいらっしゃれば、そこでお客様の顔がわかります。『こういう人が使ってるんだ』ってわかれば参考になりますよね」
作っているのは「売るため」ではなく「使うため」の傘
「ネット社会になって、BtoC(一般消費者向けビジネス)がやりやすい世の中になりましたが、ものづくりの前提として、できるだけBtoCでやりたいんです。うちの場合どんなに頑張っても年間1万2000~3000本しか作れない、でもそれはBtoCでやるには強味なんです。うちのビニール傘は透明で色も柄もなくて、値段は飛び切り高い。でも必要な人は買ってくれます。
杖としても使える傘「信のすけ」
一般の傘屋さんの場合は、来年の傘を企画する時、次のシーズンの流行色とか、柄や重さ、いろんな要素から『来年はこういう傘を作ろう』と企画する。要するに“売るために作る傘”を考えるわけです。だけどうちの場合は、もともと要望を持った一人の方のためだけに作った傘を、同じような環境の方がいそうだなと思ったら企画・商品にするというやり方。なので、流行もシーズンも考慮していません。あくまで“使うために作る傘”なのです。そして、お客様が傘を使い始めてからコミュニケーションが始まるのです。そこがほかの傘屋さんとは違いますね」
山ガールも絶賛!アイデアが詰まった傘の未来へ
ホワイトローズの新作には、山登り用のビニール傘もあります。「シンカテール」や「テラ・ボゼン」と比べると、可愛らしいサイズの傘です。「例えば、女性4人ぐらいで高尾山に登って、帰りに足湯に浸かって、美味しいものを食べて解散という女子会的な登山。スマホで自撮りをした場合、普通の傘だと、あとから見た時にバックの風景が写らないから、どこなのかわからない。でも透明な傘なら風景も写りますよね。もちろん登山の際に前も見えます。濡れた雨合羽を脱ぎ着するより傘の方が扱いやすいから、登山に折り畳み傘を持っていく人は意外と多いんです。この商品は、傘袋にマジックテープが付いているから、リュックサックにそのままくっつけて持ち運びすることもできちゃうんです」ひとつの商品にアイデアがつまっています。
山ガールに人気の「カテール・ピッコロ」
「うちのビニール傘は“進化していくものづくり”です。お客様の要望にただ応えるだけじゃなく、もうひとつ踏み込んで“えーこんな傘ができちゃったの?!”と常にびっくりさせるような、要望を超えるものづくりをしていきたいと思っています」歳月をかけて開発された、大人気の最新式折り畳みビニール傘も、サイズを小さくして軽量化するなど、さらに使い勝手の良いものへと改良中。さて今後は?「透明だけど紫外線カット機能をつけるとかですね。まだ様々なニーズがあるので、いろんなビニール傘を開発していきたいと思っています」
2018年11月には台東区より“江戸時代に創業した企業”として長年の功績を表彰された、ホワイトローズ。世界初の「ビニール傘」を生み出し、現在唯一の国産ビニール傘製造メーカーでありながら“お客様の要望に応えた上でもっと驚かせたい”と新商品の開発に励む、今日も未来へと進んで輝いている企業でした!
https://whiterose.jp/
[All Photos by SACHIKO SHIMOMURA]
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『【日本発祥の意外なもの】日本製のビニール傘はNYで火がついた。<世界初のビニール傘を作った工房にお邪魔しました!前編>』『【日本の不思議特集】日本が誇る意外な世界一、日本発祥、日本独特の文化まで』もぜひご一読を。