金沢の由来になった霊泉が兼六園にある
犀川 提供:石川県観光連盟
金沢という地名、何から来ていると思いますか? 『ブラタモリ』(NHK)でも取り上げられた話で、言われてみれば簡単なのですが、金の出る沢から来ています。
金沢の中心部を流れる犀川の上流に、倉谷鉱山という金銀を産出する鉱山が1608年、地元の農民によって発見されました。地理的に言えば、現在の金沢市の中心部からみてずーっと山の奥、富山との県境も間近の犀川ダムの近くです。この鉱山は以後、100年以上にわたって加賀藩により管理・採掘が行われます。
鉱山の発見は1608年ですが、もちろんそれ以前にも、人間の歴史に関係なく鉱脈を含む一帯の山々は存在し続けていまいた。壮大な歴史の中で土砂が下流に流され続け、約1万年前には犀川の平野部に台地を作りました。その大地を現在は小立野(こだつの)台地と呼びます。
もちろん、犀川の流域、さらに小立野台地は鉱脈を含んだ山の土砂が流れ下って作った土地ですから、地面に砂金が含まれている場合が多いです。あちこちの沢で金が採れる土地ですから、金沢とはとてもお似合いの地名ですよね。
兼六園の地面には砂金が含まれている!?
金沢城公園 提供:石川県観光連盟
鉱脈を含んだ山の土砂は平野部まで流れ下って、台地を作りました。この小立野台地は現在、犀川と浅野川の二級河川に挟まれながら、舌の先を伸ばすように平野部に盛り上がっており、台地の先っぽには金沢城公園と兼六園があります。
金沢を歩くとすぐに分かるように、金沢城は平地から見ると盛り上がった土地の上にあります。兼六園も広坂など坂道を登らないといけません。その高低差がある理由は、金沢城と兼六園が台地の先端に作られたからなのですね。
金沢神社 提供:石川県観光連盟
この台地、先ほども言いましたが、砂金が含まれた土砂でできています。言い換えれば、兼六園の下にもたくさんの砂金が含まれている可能性があります。兼六園の一角には金沢神社があり、その敷地内には金城霊沢(きんじょうれいたく)と言われるミステリアスな呼び名の水たまりがあります。
数ある金沢(金の採れる沢)のうち、この沢(霊泉)こそが、まさに金沢の語源となった場所だとされています。
金城霊沢に残る言い伝え
金城霊沢 提供:石川県観光連盟
金城霊沢には、言い伝えがあります。現地の案内板にも軽く紹介されている通り、加賀国の山科(現在の金沢市郊外)という場所でイモを掘って生計を立てている実直な藤五郎という男が居ました。
その男のもとへ、都(大和)から美しい姫(和子)が「嫁にしてくれ」と大量の持参金とともにやってきまたといいます。観音様が和子の夢枕に立ち、山科の地に住む藤五郎に嫁ぐようにと言ったからですね。
この持参金には砂金袋も含まれていました。しかし男はその砂金袋を珍しがらず、畑に群がっていた鳥を追い払うために、投げつけてしまいました。妻が落胆していると、男は「こんなもの、イモを掘ればいくらでも根っこについているぞ」と言います。実際に畑で掘って見せると、イモの根に砂金が本当にいっぱい絡まっていたのだとか。
金城霊沢 提供:金沢市
藤五郎と和子がイモを洗った場所が、先ほどの金城霊沢とされています。2人は長者になると、砂金を惜しみなく貧しい人に分け与えたとも言われています。その縁起の良さを頼って、いつのころからか沢にお金を投げ入れる祈願者が現れ、後を絶たないようになったのです。
現在では霊泉を覆うように、宝形(方形)づくりの屋根が印象的な小屋(東屋)があります。幕末のころ加賀藩の藩主に仕えた市河米庵という書の達人による「金城霊沢」と書かれた横額も掲げられています。
真ん中をくり抜いた金沢産の戸室石が浅い沢の底に置かれ、その穴から水がわき出しています。水はどこまでも澄んでいて、投げ入れられた小銭が光を鋭く反射させるほど。
屋根の天井に描かれた広田百豊(ひゃくほう)の『龍の絵』も神秘的で、その場の厳粛な雰囲気をさらに引き締めています。まさにこのパワースポットに、金運アップを求めて多くの人が足を運んでいるのですね。
本多の森公園 提供:石川県観光連盟
金城霊沢のある小立野台地には、兼六園はもちろん金沢城公園、県立能楽堂、本多の森公園など、観光客にとって見どころがいっぱいです。
その河岸段丘の坂道を下ると金沢21世紀美術館、中央公園、香林坊などもあります。観光客には絶好の場所にありますから、金沢旅行の際にはぜひとも立ち寄って、その神聖な雰囲気とミステリアスな由来を楽しんでみてくださいね。
[参考]
北國新聞社出版局『金沢めぐり とっておき話のネタ帖』(北國新聞社)
能登印刷出版部『伝統と革新の町・金沢を歩き解く! 金沢謎解き街歩き』(実業之日本社)
北國新聞社出版局『よく分かる 金沢検定受験参考書』(時鐘舎)
きんぱーく – 金沢箔技術振興研究所 いもほり藤五郎 – 金沢市
Masayoshi Sakamoto 翻訳家/ライター
翻訳家・ライター・編集者。東京生まれ埼玉育ち。成城大学文芸学部芸術学科卒。現在は、家族と富山に在住。小学館〈HugKum〉など、在京の出版社および新聞社の媒体、ならびに〈PATEK PHILIPPE INTERNATIONAL MAGAZINE〉など海外の媒体に日本語と英語で寄稿する。 訳書に〈クールジャパン一般常識〉、著書(TABIZINEライターとの共著)に〈いちばん美しい季節に行きたい 日本の絶景365日〉など。北陸3県のWebマガジン〈HOKUROKU〉(
https://hokuroku.media/ )創刊編集長。その他、企業や教育機関の広報誌編集長も務める。文筆・編集に関する受賞歴も多数。
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