【金沢ミステリー】「あめ買い幽霊」伝説の寺と「ゲゲゲの鬼太郎」の関係

Posted by: 坂本正敬

掲載日: Feb 27th, 2020

金沢の名物お土産の1つに、江戸時代創業の俵屋『じろあめ』があります。ドラマ『半沢直樹』にも登場した人気のお土産。このあめ屋も遠からず関係した、あめにまつわる幽霊の話が残る金沢。そこで今回は金沢ミステリーの第2弾として、金沢に残る『あめ買い幽霊』を紹介します。

幽霊に関する物語が伝わる金沢のお寺とは


金沢の中心部には、お寺が密集したエリアが3つあります。1つは金沢城を中心に見て、西側を流れる犀川沿いの寺町寺院群。にし茶屋街が近くにあります。

もう1つは東側を流れる浅野川の近くにある卯辰山山麓寺院群。ひがし茶屋街が隣接していて、卯辰山と呼ばれる市民のいこいのスポットもあります。3番目は小立野寺院群、浅野川と犀川に挟まれた小立野台地に位置します。

その中でも今回は、卯辰山のふもとにある寺院群の1つ、光覚寺が主要な舞台となります。卯辰山山麓寺院群は、曲がりくねった路地とその街路沿いに林立する寺院から、江戸時代の名残が感じられる一帯で、何か全体にひっそりとした、陰影に満ちた世界観が広がっています。

金沢の東西と南(小立野台地)に寺院群が設けられている理由は、有事の際に外敵からの攻撃を食い止める砦にするためだと筆者は土地の人から聞いてます。


山門から坂道の下を振り返った様子

そんな寺院群の一角に、光覚寺(金沢市山の上町)と呼ばれるお寺があります。国道359号線(城北大通り)に分断されていますが、現在の森山町小学校から卯辰山に向かって坂道が伸びていて、その坂道を上った先に山門(寺院の門)を構える浄土宗のお寺があります。光覚寺といって、卯辰山の山腹に境内を持つユニークなお寺で、もともとは金沢城の新丸の内にあったとか。移転を繰り返して、現在の位置に落ち着きました。

この光覚寺には、金沢で有名な幽霊譚(たん)が伝わっています。幽霊譚の「譚」とは物語という意味。つまり、幽霊のお話が伝わっているのですね。しかも、境内には供養尊も安置されています。あながち、ただのつくり話ではないのかもしれません。

あめや坂に残る幽霊の話


光覚寺は、卯辰山の山腹につくられたお寺だと述べました。お寺に参拝するためには(さらに供養尊にお参りするためには)、光覚寺の山門に向けて続く坂道(と、その背後に続く斜面)を上らなければいけません。

そもそも金沢は犀川と浅野川が削ってつくった河岸段丘のまちで、高低差が多いため、坂道も数多くあります。プラスして卯辰山のふもとにも坂道が当然多く、この寺院に続く坂道(あめや坂)にも、独特の見応えがあります。

あめや坂沿いには江戸時代、言い換えればまだ加賀藩が存在していたころ、俵屋ののれん分けのお店や、弟子が開いたあめ屋が幾つか並んでいたと言います。俵屋とは冒頭でも触れました。金沢を代表する老舗あめ屋ですね。

そのためにこの坂道を「あめや坂」と呼ぶのだとか。漢字にすれば「飴屋坂」。この坂に面してあった1つのあめ屋が、幽霊譚の舞台。

そのお店に、ある夜1人の女性客が訪れます。まちが寝静まるころ、そのお客はあめを買い求めて帰ったそうです。翌日以降も連夜、同じ女性の買い物が続きます。しかも、人々が寝静まる時間帯と決まってます。さすがに不思議に思った店主が、後をつけていった夜があったそうな(昔話風に)。


境内の裏に、斜面を利用した墓地が広がっている

女性はあめや坂を上がり、光覚寺に入っていきます。店主がこっそりついていくと、女性がお寺の裏手に広がる墓地で不意に消えてしまったと言います。間もなく、赤ちゃんの泣き声が聞こえ始めます。

想像するだけで怖いシチュエーションですよね。裏手の墓地は木も生い茂っていて、月明かりや星明りも届きにくいと思われます。あめ屋の主人も怖くなって、住職のところに駆け込んだそう。住職は話を聞き、心当たりがあったため、翌日に住職はその女性の家族とおぼしき家に行き、夜の出来事を報告しました。

どうやらその幽霊は、子どもを身ごもったまま最近亡くなった女性だと、見当がついてきました。住職は女性の家族とともにお寺に戻り、お墓を清め、お経を唱えてから、土饅頭(どまんじゅう)のお墓を掘り返してみたと言います。土饅頭とは、土で盛り上げただけの塚(お墓)ですね。

掘り返した土饅頭の中に、女性の亡がらと元気な赤ちゃんが発見されたと言います。赤ちゃんの手にはあめが握られていました。状況から察するに、女性は棺桶の中で出産した後、生まれた子どもを何とか救おうと幽霊になって、三途の川の渡し賃である六文銭で、あめを買いに行き、母乳の代わりに赤ちゃんに届け続けていたのか。

類似の話は他の金沢のお寺にもある


光覚寺の墓地から斜面を見下ろした様子

実はこの伝説、金沢の他の寺院にも残っています。犀川の方にある寺町4丁目の日蓮宗立像寺、同じ寺町5丁目の天台宗の西方寺、そしてちょっと中心部から離れて、海の近くまで行った金沢市金石西3丁目の天台宗の道入寺です。

先ほど、光覚寺にはあめかい供養尊が安置されていると言いました。道入寺には幽霊になってあめを買いに現れた女性を描いた幽霊画のお軸があり、西方寺にはあめ買い地蔵菩薩があります。それぞれに似たような話が伝わっており、それぞれの場所に「物的証拠」が残っているのですね。


あめかい供養尊のある辺り

この幽霊の話については、もちろん否定する向きもあります。『伝統と革新の町・金沢を歩き解く!金沢の謎解き街歩き』(能登印刷出版部)によれば、

<妻帯を許されなかった僧侶が外で設けた子どもを跡取りにするため、捏造した伝説という意地悪な見方もある>(上述の書籍より引用)

という見方もあるそう。もちろん、これはこれで筋の通った見方です。しかし、この幽霊の話は、江戸時代の1726年(享保11年)編さんの『咄随筆』にも見られるなど、300年近くの歴史を生き抜いた言い伝えでもあります。

しかも、このあめ買い幽霊の話は、関西では落語になり、水木しげるの『ゲゲゲの鬼太郎』の主人公である鬼太郎が墓場で誕生するエピソードにも生かされていると言われています。

光覚寺は、ひがし茶屋街から徒歩で行ける距離感にあります。定番の観光スポットを周った後は、ちょっと足を延ばしてあめや坂と光覚寺まで行ってみてはどうでしょうか?

[参考]
道入寺 – 金沢旅物語
ゆうれいのあめ買い1 – 金沢市

[All photos by Masayoshi Sakamoto2(坂本正敬)]

PROFILE

坂本正敬

Masayoshi Sakamoto 翻訳家/ライター

翻訳家・ライター・編集者。東京生まれ埼玉育ち。成城大学文芸学部芸術学科卒。現在は、家族と富山に在住。小学館〈HugKum〉など、在京の出版社および新聞社の媒体、ならびに〈PATEK PHILIPPE INTERNATIONAL MAGAZINE〉など海外の媒体に日本語と英語で寄稿する。 訳書に〈クールジャパン一般常識〉、著書(TABIZINEライターとの共著)に〈いちばん美しい季節に行きたい 日本の絶景365日〉など。北陸3県のWebマガジン〈HOKUROKU〉(https://hokuroku.media/)創刊編集長。その他、企業や教育機関の広報誌編集長も務める。文筆・編集に関する受賞歴も多数。

翻訳家・ライター・編集者。東京生まれ埼玉育ち。成城大学文芸学部芸術学科卒。現在は、家族と富山に在住。小学館〈HugKum〉など、在京の出版社および新聞社の媒体、ならびに〈PATEK PHILIPPE INTERNATIONAL MAGAZINE〉など海外の媒体に日本語と英語で寄稿する。 訳書に〈クールジャパン一般常識〉、著書(TABIZINEライターとの共著)に〈いちばん美しい季節に行きたい 日本の絶景365日〉など。北陸3県のWebマガジン〈HOKUROKU〉(https://hokuroku.media/)創刊編集長。その他、企業や教育機関の広報誌編集長も務める。文筆・編集に関する受賞歴も多数。

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