宮沢賢治のふるさと 花巻
岩手県花巻市の周辺には、たくさんの温泉があります。温泉通の方にはよく知られた大沢温泉や鉛温泉も花巻郊外。花巻温泉郷と一般に呼ばれています。この花巻は宮沢賢治が生まれ育った故郷で、いまも賢治ゆかりのものが残されています。花巻駅西口から徒歩10分ほどの材木町公園に移築された「市民の家」は旧花巻町庁舎で、昭和8年賢治が亡くなった際に追悼集会が開かれた建物です。
その市民の家の隣りにあるのは賢治の時代、花巻郊外の温泉地を結んで走っていた花巻電鉄の車両です。車両が細長く「馬面電車」とも呼ばれ、この電車をヒントに「銀河鉄道の夜」が書かれたともいわれています。
この材木町公園から10分ほど、花巻駅の東口近くにあるおしゃれなカフェ「林風舎」は宮沢賢治の弟・清六の孫である宮沢和樹さんがオーナーを務めています。1階は賢治ゆかりの品々などが置かれたギフトショップ。そして2階がカフェ。ステンドグラスがキラキラ輝いてとてもきれいなお店でした。
カフェに上がって、賢治ゆかりの名がつけられた「イギリス海岸バウムクーヘン」と柚茶のセット1100円を頂きました。遠くから訪ねてきたと思われる賢治ファンの若い方や地元の名士たちが優雅にお茶を頂いていました。
花巻駅の東口からは花巻温泉郷各旅館に向かう送迎バスが発着します。今回訪ねる山の神温泉優香苑への送迎バスも花巻駅から30分ほど。かつては花巻電鉄の馬面電車が走っていた路線です。
宮大工が建てた こだわりの温泉宿
今回山の神温泉を訪ねたのは、宮大工がこだわりを持って建てたという希少な建物を見たかったからです。宮大工とは神社仏閣を建てる大工さん。すでに建ててから30年経つそうですが、不覚にもこれまで知らなかったのです。
建物に近づくとその大きさは予想以上のもので驚きました。玄関ロビーも広々としています。天井は折上格天井と呼ばれる作り。碁盤目に組んだ角材の上に裏板を張った天井を格天井といいますが、折上格天井は、さらにその中央部を一段高くした格式高い作りなのです。
折上格天井は江戸時代、将軍や大名の部屋にも採り入れられました。また格式の高いお寺の本堂などにも用いられ、仏画が描かれた様式もみられるといいます。
建築には7年以上かかったそうです。廊下の装飾にもこだわっています。しかもロビーだけではなく、すべての客室に格天井をほどこしているのだそうです。
客室は格天井だけでなく、襖や欄間の細工にも宮大工の技とこだわりが光ります。卓越した職人の技も見事ですが、木の温もりもいいものですね。
ちなみにこの優香苑は「第40回プロが選ぶ日本のホテル・旅館100選」に選ばれています。また「じゃらんのnetランキング2018泊って良かった宿大賞 岩手県第一位」を獲得した、人気と実力を兼ね備えた宿なのです。
肌になめらか 美人の湯
山の神温泉の泉質はアルカリ性単純泉ですが、成分分析表を見ていくとナトリウム成分と硫酸成分が高く、以前は「芒硝泉」と呼ばれていたナトリウム-硫酸塩泉。
PHは9.4のアルカリ性で、肌がツルツルするような印象です。メタケイ酸もあるので、肌の新陳代謝が進む、美肌のお湯。男女とも大小2か所の浴室があり、それぞれに内湯と露天風呂がありますが、露天風呂は男女合わせて50畳もの広さがあるそうです。
そして浴室の壁面を飾っているのは、陶板を組み合わせて作った立体的な陶板画です。小浴場の壁画はふたりの天女を描いた美しい陶板画。湯気で曇って見えづらいのですが、中国で作られた陶板画だといいます。ちなみに大浴場の壁を飾っていたのは、緑豊かな中国の名勝・桂林を描いた山水画でした。
手の込んだ料理の数々
山の神温泉優香苑の魅力は宮大工による建物、また美肌の湯、そして料理でもあるのだそうです。ロビー奥に構える食事処での夕食となります。料理長は国内外の料亭、旅館、ホテルで長年腕を磨いてきた本格派の料理人ということで、期待大ですね。
キレイなお皿が並び、美しい盛り付け。懐石風の創作料理といった印象ですね。前菜にお造り、蒸し物、焼き物、揚げ物、それぞれがちゃんとしています。
特に美味しく珍しかったのは、カボチャをスープ仕立てにしたお鍋です。三元豚や野菜をスープの中に入れて煮立て、トマトポン酢でいただきます。〆は豆ごはん。ごちそうさまでした。
帰りもJR花巻駅と東北新幹線の新花巻駅まで送迎バスがあります。
ちなみにいまや花巻を代表するのは宮沢賢治だけではありません。新花巻駅には花巻ゆかりのふたりの大リーガー、大谷翔平選手と菊池雄星選手を紹介するコーナーがありました。温泉や宮沢賢治とともに東北の宝であり日本の宝でもあります。
[All Photos by Masato Abe]