
加賀百万石の文化を映す、雅な大名庭園

延宝4年(1676年)、加賀藩5代・前田綱紀が金沢城に面した土地に別荘と庭園を築いたのがはじまりの「兼六園」。その後、歴代藩主の好みに応じて整備され、文久3年(1863年)には現在の庭園の形となったとされます。明治7年(1874年)より市民に開放され、大正11年(1922年)に国の名勝に指定。昭和60年(1985年)には特別名勝に格上げされました。
兼六園と命名されたのは、文政5年(1822年)のこと。これは宏大、幽邃、人力、蒼古、水泉、眺望といった優れた景観の代名詞「六勝」を兼ね備えていることから、その名が与えられたといいます。

約11万平方メートルという東京ドーム約2.5個分の広大な敷地に、池や曲水、築山、茶室が点在。およそ約160種、8,200本もの樹木が植えられ、四季折々に訪れる人々を魅了しています。
特筆すべきは、江戸時代に作られた庭園がほぼそのまま残っていること。というのも、石川県は第二次世界大戦での空襲をほとんど受けておらず、兼六園においては無傷で残されたのです。水戸偕楽園や岡山後楽園は空襲により多大な被害を被り、一部が復元されていることからも、往時の姿が残る兼六園は奇跡的な場所とも言えるでしょう。

中心部にあるのが「霞ヶ池」。約5,800平方メートルと園内ではもっとも大きい池で、前田家13代・斉泰が以前の3倍に拡張し、現在の形となったそう。ちなみに12代・斉広が自身の隠居所として部屋数200を超える超豪華御殿をこの地に造ったものの、完成後わずか2年で急逝。一説によると、幕府から浪費を指摘されたことで取り壊しに至ったとか。
徳川家に次ぐ巨大な石高を有していた加賀藩。幕府からの警戒を和らげるため、経済力を文化政策に投入し保身に努めたことで知られますが、やはりお金があるとそれもそれで大変であったとうかがえますね(笑)。
霞ヶ池のシンボルといえばほとりに佇む徽軫灯籠(ことじどうろう)。片足が池の中に入った2本脚の石灯籠で、琴の絃を支える琴柱に似ていることが名の由来。記念写真の定番スポットでもあり、人がいない時は早々に撮影しておくが吉です。
迫力満点の松も必見

8千本を超える樹木の中で、特に美しいと称されているのが「唐崎松(からさきのまつ)」。13代・斉泰が松の名勝地であった琵琶湖畔の唐崎から、種子を取り寄せたのがはじまりなのだそう。

水面を這うように広がる枝ぶりは実にダイナミック。松の上にあるのは雪の重みによる枝折れを防ぐ「雪吊り」。例年10人以上の庭師らが集まり、取り付け作業を行うようです。

唐崎松とともに人気を誇るのが、同じく13代・斉泰が植えたと伝わる「根上松(ねあがりのまつ)」。高さ約15mもの巨大な黒松で、40本以上の根が土から盛り上がった壮観な立ち姿は圧巻そのもの。成長後に根元の土を徐々に取り除いたことでこの形状になったとか。
他藩を圧倒していた土木技術

標高53mの高台にありながら水が豊富なのは、10kmも離れた川の上流から用水を通して取水しているから。この用水は「辰巳用水」と呼ばれ、寛永9年(1632)に3代・利常によって、金沢城の防火・防衛のために造られました。庭園に流れてきた水を逆サイホンの原理で城へ導くという、当時としては極めて高度な技術が用いられたそう。

こちらは文久元年(1861年)に造られた日本最古と言われる噴水です。13代・斉泰が金沢城の二の丸に水を引くために試作させたもので、高低差による水圧で噴き上がるという仕掛けです。水の高さは約3.5mにも及び、往時の技術力に驚くばかり!

園内でもっとも古い時代に作庭されたと伝わる「瓢池(ひさごいけ)」。広大な霞ヶ池とは異なる落ち着いた趣もまた魅力。高さ6.6mの翠滝(みどりだき)から流れ落ちる水音も風情たっぷりです。
茶の湯文化を今に伝える茶亭

園内にいくつもの茶室が点在。かつて藩主は園内を散策しながら、茶室を巡り茶の湯を楽しんでいたとか。瓢池(ひさごいけ)のそばに佇む「夕顔亭(ゆうがおてい)」は、安永3(1774)年に11代・治脩が建てた園内最古の建物。室内の壁に夕顔(瓢箪の古名)の透彫りがあることが名前の由来です。
以上、筆者の独断と偏見による兼六園のおすすめをご紹介しました。かつての栄華に想いを馳せながら、殿様気分で優美な景色を愛でてみてはいかがでしょうか。
[All photos by Nao]

Nao ライター
メーカー、ITベンチャー勤務を経てフリーランスに。
学生時代から旅を続け、渡航国は現在50カ国。
特技は陸路国境越え。グルメレポート翌日に大学の最先端研究を取材したり、ロシア州知事にインタビューしたり。幅広い対応力とフットワークの軽さが自慢。日本ソムリエ協会認定資格ワインエキスパート保有。
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