
犀川 写真提供:金沢市
住職の夢枕に立つ飼いネコ

武家屋敷 写真提供:金沢市
観光地として人気の金沢の市街地は、「浅野川」と「犀川」という2本の河川に囲まれた土地に広がっています。
今回の舞台である「法船寺」は、2本あるうちの犀川の河川敷沿い、武家屋敷なども近いエリアにあります。境内の立看板によると、1631年(寛永8年)の大火の前は別の場所にありました。
1701年(元禄14年)に現在の場所に建立されたので、今回取り上げる「怪鼠之伝話」が享保年間(1716年~1736年)に起きた出来事を記述しているとすれば、新しい土地にお寺が移ってから20年後くらいのエピソードですね。今からおよそ300年くらい前の話です。
この当時の住職・存誉上人は、寺中の器物がネズミに食い荒らされて困っていたそうです。そこで飼いネコに対して、
「ネズミを捕まえてもらうためにネコは飼われている。その職を忘れるとは何事だ」
というように説教したといいます。すると、ネコは居なくなってしまったのだとか。しかし、失踪したネコはふてくされたのではなく、むしろ反省したみたいです。住職の夢枕に立ち、
「今、この寺に居る老ネズミは普通じゃない。あのネズミを倒せるネコは金沢に居ないので、能登の鹿島に暮らすなんとかさんの家のネコに援軍を頼んで来てもらう。力を合わせて老ネズミを退治する」
と宣言したのだとか。すると、数日後に住職の飼いネコが本当に別のネコを伴って寺に戻ってきました。その夜、飼いネコが住職の夢枕にまた立って、
「この前、話していたネコを連れてきた。ぜひ、もてなしてほしい。明後日に老ネズミを退治する」
とあらためてメッセージを伝えてきました。
ネコを埋葬した塚が境内に現存する

金沢のネコ(写真はイメージです)
奇妙に感じながらも住職は魚を買い求めてネコに与えます。すると、予告した日にネコたちは仏殿の天井へ飛び上がり、天井裏を駆け回って戦いを始めたのだとか。寺の者たちもネコに加勢しようと、棒を手に持ち、声を張り上げ、ネコを後押しします。
2匹のネコは勢いに乗り、天井の破れ目から老ネズミをたたき落します。寺の者たちは落ちてきたネズミに群がり、棒で殴りつけ、打ち殺しました。しかし、天井の破れ目から老ネズミの死骸を興奮してにらみつける2匹のネコも、間もなくその場で息絶えてしまったのだとか。
老ネズミとかみつき合う死闘の中で毒にあたられ、死んでしまったと考えられています。
もちろんこの「怪鼠之伝話」には、つじつまの合わない細部が多々含まれているとも言います。そもそも論として、「怪鼠之伝話」に出てくる当時の住職・存誉上人の名前が、お寺の正式な記録に残っていないとの話。
約54.5cmもある怪ネズミが近所のネコをかみ殺したという越中国砺波郡五社村(現在の富山県西部)由来の奇談を下敷きにした創作話ではないかとも言われています。
しかし、この一連の出来事を、寺の近所に暮らす吉田屋庄左衛門という人が繰り返し語り、多くの人が知るエピソードとなりました。
さらに、亡くなった2匹のネコを埋葬したとされる塚が法船寺の境内に残っています。
同じ北陸でも富山市や福井市と違い、第二次世界大戦で空爆をまぬかれた金沢市です。次の金沢旅行で武家屋敷を巡る機会があれば、近所の法船寺まで足を延ばして、現存する塚を見物させてもらってはどうでしょうか。
金沢の歴史がまた異なる形で体感できるかもしれませんよ。
[参考]
※ 金沢古蹟志
※ 法船寺のねずみたいじ 1 – 金沢市
※ 金沢検定受験参考書(時鐘舎)
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Masayoshi Sakamoto 翻訳家/ライター
1979年東京生まれ、埼玉育ち、富山県在住。成城大学文芸学部芸術学科卒。国内外の媒体に日本語と英語で執筆を行う。北陸3県を舞台にしたウェブメディア『HOKUROKU』の創刊編集長も務める。
https://hokuroku.media/
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