フランスやイタリアなど、西ヨーロッパの観光大国に飽きた人が目指す場所、それがコーカサス。南コーカサスに位置するジョージア(旧グルジア)、アルメニア、アゼルバイジャンは「コーカサス三国」と呼ばれ、ヨーロッパに分類されることもあれば、アジアに分類されることもある、独自の立ち位置を築いています。ミステリアスな雰囲気に包まれた秘境、「コーカサス三国」とはどんなところなのか。基本情報とその魅力をご紹介します。
文明の交差点・ジョージア
コーカサス三国の筆頭に挙げられるのが、ジョージア。旧呼称の「グルジア」のほうに馴染みがあるという人も多いかもしれませんね。日本政府は、ジョージア政府の要請を受けて、2015年に「グルジア」から「ジョージア」へと呼称を変更しています。
ジョージアは、コーカサス三国のなかで最も北西に位置する国。北はロシア、南はトルコ、黒海を挟んで西は東欧諸国と接していることから、古くから東西の文明が行き交う文明の交差点でした。かつてはソ連の構成国でしたが、1991年に共和制国家として独立を果たしています。
国土面積は北海道より少し小さい6万9700平方キロメートル、人口約370万人という小国ながら、東西が融合した街並みと、雄大な自然が旅人たちを魅了してやみません。物価が安く、治安が良く、人も親切なことから、バックパッカーのあいだでは「沈没地」としても人気があります。
ワイン発祥の地としても知られ、周辺諸国の食文化の「いいとこ取り」をしたようなジョージアは、実は世界有数の美食国家。食材が多彩で、調理法もバリエーション豊か、おまけに味つけもマイルドなので、日本人の口によく合います。
『古代のワインを東京でも!8000年前の味を守り続ける「グルジアワイン」』もあわせてどうぞ。
首都トビリシ
ジョージアの首都が、南東に位置するトビリシ。100万以上の人口を抱え、地下鉄も通っている都会ながら、19世紀の街並みが残る旧市街には、時が止まってしまったかのような風景が残っています。
三方を山に囲まれ、中央をムトゥクヴァリ川が走る風情ある街には、イスラム式の浴場やモスク、ユダヤ教のシナゴーグ、ジョージア正教の教会、ペルシャ風のバルコニーをもつ家々などが点在し、文明のモザイクさながら。
トビリシ旧市街のランドマークが、4世紀に建造が始まったというナリカラ要塞。現在はほとんど廃墟のようになっていますが、ここからの眺めは絶対に見逃せません。三方を山に囲まれ、山の斜面に家々がへばりつくようにして建つ、トビリシの風情あふれる街並みは感動ものです。
ジョージア軍用道路
ジョージア旅の醍醐味が、神々しいまでの雄大な自然。北に大コーカサス山脈、南にはメスヘティ山脈が走るジョージアは、国土の5割以上が山地、3割以上が山麓地帯という山岳国なのです。そんなジョージアの大自然に触れられるスポットのひとつが、荒々しい山肌を行くジョージア軍用道路。
帝政ロシアが軍事用に切り開いたジョージア軍用道路は、現在ではジョージアの自然の絶景が楽しめる観光ルートとして人気を集めています。
ジョージア軍用道路沿い、ロシアとの国境に近いカズベギ村にあるのが、「限りなく天国に近い教会」と称されるツミンダ・サメバ教会。万年雪を冠する5000メートルの山々をバックにして、2170メートルの山頂に建つ教会は、言葉を失うほどに神秘的な光景です。
ジョージア軍用道路へは、首都トビリシからたくさんのツアーが出ていて、トビリシから日帰りで、ツミンダ・サメバ教会の絶景を拝むことができます。
世界最古のキリスト教国・アルメニア
ジョージアの南に位置するのが、「世界最古のキリスト教国」といわれるアルメニア。その異名からわかる通り、国家として、民族として、世界で初めてに公式にキリスト教を受容した国です。
国土面積は九州より少し小さい2万9743平方キロメートル、人口は297万人と、面積・人口ともにコーカサスで最も小規模。1991年のソ連崩壊に伴って、共和国として独立を宣言しました。
世界最古のキリスト教国だけに、信仰心の篤い国民が多く、各地に点在するアルメニア使徒教会がアルメニア旅のハイライトのひとつ。エチミアジンの大聖堂やハフパット修道院やなど、世界遺産に登録されている宗教施設も複数あり、厳しい自然のなかでひっそりとたたずむ教会は、「聖地」の名にふさわしい、荘厳な雰囲気を醸し出しています。
国土は山がちで、9割以上が標高1000メートルを超える高地。旧約聖書に登場する「ノアの箱舟」がたどり着いたアララト山(現在はトルコ領)はアルメニア人の心のよりどころです。
首都エレヴァン
アルメニア中西部に位置する首都エレヴァンは、その歴史を紀元前8世紀にさかのぼる、世界で最も古い都市のひとつ。標高5165メートルのアララト山を望む、穏やかな空気が流れる計画都市で、バラ色の凝灰岩でできた建造物に囲まれた共和国広場がその中心です。
古くから交通の要衝だったエレヴァンには、アルメニア人をはじめ、ロシア人、クルド人などさまざまな民族が共存。キリスト教の教会はもちろん、オスマン帝国によって築かれたブルーモスクもあります。
街並みは近代的ながら、長い歴史を有するだけに、博物館が充実。世界最古の革靴などを展示する「アルメニア歴史博物館」に加え、アルメニア人の悲劇を後世に伝える「アルメニア人虐殺博物館」で、決して平坦ではないアルメニアの歴史に触れてみてください。
エチミアジン
エレヴァンの西約20キロメートルに位置するエチミアジンは、117年創設の古都。「エチミアジン」という名には、「神の唯一の子が降りた」という意味があります。この街の代名詞が、アルメニア使徒教会の総本山として名高いエチミアジン大聖堂。303年創建の歴史ある教会で、2000年には世界遺産に登録されました。
アルメニア最古の教会というだけでなく、世界各地の大聖堂の原点といわれるエチミアジン大聖堂。「アルメニア建築の傑作」と称される堂々たるたたずまいからは、人智を超えたパワーが感じられます。
エキゾチックなイスラム教国・アゼルバイジャン
ジョージアとアルメニアの東に位置するアゼルバイジャンは、コーカサス三国唯一のイスラム教国。キリスト教が主流のジョージアやアルメニアとは、ずいぶん雰囲気が異なります。
とはいえ、中東のイスラム教国ほどイスラム色が強いわけではなく、ヨーロッパ的な雰囲気も感じられるのが面白いところ。アゼルバイジャンに行けば、「ここは東西が出会う場所なのだ」と実感させられます。
国土面積は、北海道より少し大きい8万6600平方キロメートル、人口は約980万人。ジョージア・アルメニアと同じく、1991年にソ連から共和国として独立した歴史をもち、コーカサス三国では最も人口の多い国です。
石油や天然ガスを埋蔵する資源国家でもあり、2000年代に入って、オイルマネーによって次々と奇抜な現代建築が建てられた首都バクーは、「コーカサスのドバイ」とも呼ばれました。
アゼルバイジャンの魅力は、圧倒的な異国感と多彩な風景。高層ビルと古い街並みが同居する大都会のバクーに、隊商宿が残る古都、郊外にぽつんとたたずむモスクや寺院、「マッドボルケーノ」をはじめとする、地下資源が生み出す独特の自然風景にいたるまで、小さな面積に驚くべき風景がたくさんあります。
首都バクー
アゼルバイジャンの東端に位置するバクーは、人口200万人を超えるコーカサス最大の都市。カスピ海で採掘される石油によって発展し、次々に高層ビルや前衛的な現代建築が建てられ、毎年風景が変わっています。なかでも、バクーの新ランドマークとなった「フレイム・タワー」や、ザハ・ハディド氏設計の「ヘイダル・アリエフ・センター」が有名です。
オイルマネーによる建設ラッシュで注目を浴びたバクーですが、古くはシルクロードの中継地として栄えた土地。城壁に囲まれた旧市街はまるごと世界遺産に登録されており、隊商たちが行き交った当時の面影を今に伝えています。
砂漠色の中世の街並みの向こうには、近未来的なビル群。こんなコントラストが今のバクーです。
『【バクー】未来と過去が融合した東ヨーロッパのドバイ!?に注目』もあわせてどうぞ。
ゴブスタン
ゴブスタンは、バクーの南西約60キロメートルの地点に広がる遺跡。石器時代の人々が描いた岩絵6000点が発見されており、「ゴブスタンの文化的景観」として世界遺産に登録されています。
荒涼とした大地に巨石が横たわり、その岩壁にはさまざまな動物や狩りの場面、舟をこぐ人など、当時の暮らしぶりがわかる絵が描かれているのです。5000~20000年前にさかのぼるという岩絵が、これほどまでにはっきりとした形で残っているなんて驚き。スターウォーズを思わせる非日常的な環境もあいまって、異次元の世界に迷い込んだような気分になれることでしょう。
ヨーロッパ的であり、アジア的でもあるコーカサス。この地を訪れれば、まったく知らなかった新しい世界に出会えるはずです。
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