湯けむりと硫黄の香りに包まれる明礬温泉
源泉数、湧出量ともに日本一を誇る別府温泉。個性あふれる温泉が点在する「おんせん県おおいた」のなかでも、ひときわ存在感を放ちます。多彩な湯が湧く別府温泉は8つの温泉郷から構成されていて、そのうちの最も標高の高い山あいに位置するのが「明礬(みょうばん)温泉」。地下30cm付近に温泉脈を持つ地熱地帯で、温泉の蒸気が勢いよく立ち上る光景が、そこかしこで見られます。
江戸時代中期から湯の花を作り続ける「みょうばん 湯の里」
(C)みょうばん 湯の里
辺り一帯に硫黄の香りが漂い、温泉地に来たことを全身で感じられる明礬温泉。江戸時代より温泉成分を結晶化させた天然の入浴剤「湯の花」が造り続けられており、今も昔もこの地の特産品として名を馳せます。
そんな歴史ある湯の花の製造工程を見学できるのが「みょうばん 湯の里」。創業は江戸時代中期にあたる1725年! およそ1万坪もの広大な敷地には、露天風呂や温泉噴気で蒸した玉子ちまき、とうもろこしを販売する「湯庵」、湯の花コスメをそろえる売店も併設され、明礬温泉の魅力が一同にそろうテーマパークのようなスポットです。
湯の花が造られるのは、敷地内に15棟点在する「湯の花小屋」。三角のわら葺屋根は風情たっぷり。見学専用の小屋もありますが、特別に職人さんしか入れない小屋に入らせていただくことに。
地面は小石がびっしり敷き詰められ、さらに上から青粘土で覆われています。これにより温泉の噴気が小石のすき間から青粘土の中に入り、化学反応を起こし、地表に結晶=湯の花として現れるのだそう。わら葺き屋根は雨をしのぐだけでなく、小屋内の余分な水分を外へ逃す役割もあるとか。
「湯の花の製造方法は江戸時代から全く変わっていません。当時は『豊後ミョウバン』として作られ、止血剤や染色剤、皮なめし、井戸水の浄化などに利用されるなど、人々の生活に欠かせないものだったようです」と16代目社長の飯倉里美さん。
今や全国で見かける湯の花ですが、そのほとんどは温泉の沈殿物や硫黄の塊を粉末にしたもの。一方、わら葺き小屋で湯の花を作るのは明礬温泉のみ。この江戸時代から守り受け継がれてきた技術は2006年、国の重要無形民俗文化財に。さらに立ち上る湯けむりと湯の花小屋という独特の風景も2012年、国の重要文化的景観に指定されました。
湯の花の成長速度は1日1ミリ程度。ゆっくりと結晶化されるため、採集するまでにおよそ2カ月かかるそう。地面を触ってみるとほんのり温く、地球が活動していることを実感します。
みょうばん湯の里では明治17年(1884年)から販売が開始された入浴剤「湯の花」。和紙袋に1回分ずつ小分けされていて、湯船に入れて揺らせば、あっという間に明礬温泉が完成! 入浴後の保温効果に優れ、皮膚や汗腺の脂肪や汚れを乳化する洗浄作用があるそう。売店では湯の花ほか、温泉成分を生かしたオリジナルコスメなども販売。お土産探しにも最適な場所です。
(C)みょうばん 湯の里
湯の花が造られる様子を知った後は、やっぱり温泉も楽しみたいところ。露天岩風呂があるのは標高350mと別府市内で最も高い場所。別府湾や明礬大橋などを見渡せる絶景の温泉として知られています。雄大な山々に包まれながら白濁の硫黄泉に浸かれば、身も心も解きほぐされることでしょう。
地獄蒸しプリン発祥の「岡本屋売店」
湯の花の歴史と温泉を体感した後はぜひ「岡本屋売店」へ。湯の里からは歩いて2分ほど。温泉蒸気で作る別府名物「地獄蒸しプリン」発祥の店で、温泉卵やさまざまなスイーツがそろいます。お店からは、もくもくと湯けむりが溢れ出し、湯の里同様、自然の息吹を感じられるはずです。
左から「地獄蒸しプリン」(330円)、「地獄蒸しプリンソフト」(550円)「地獄パフェ」(770円)
名物「地獄蒸しプリン」は玉子の味が濃厚で、固めながらなめらかな舌触りが絶妙。ほんのりビターな自家製カラメルとも相性抜群です。週末などは1,000個売れる日もあるとか。プリンを使ったソフトクリームやパフェはリピーターに人気だそう。いずれも「地獄」というネーミングとはほど遠い、幸福な味わいでした。
岡本屋の看板犬、ブルドックのチャーリー君。堂々とした佇まいとゆるやかな表情が印象的です。運が良ければ出会えるかも?
もくもくと立ち上る温泉蒸気、辺り一帯に広がる硫黄の香り。地球の鼓動を間近に体感できる別府・明礬エリアで、独特の風情を楽しんでみてはいかがでしょうか?
[Photos by Nao]