北海道でいちばん長い路線「根室本線」
日本の最東端の駅「東根室」を通る根室本線は、北海道でいちばん長い路線です。その長さは443.8km。根室本線の中でも、北海道らしい風景を楽しめる”道東”と、静かで美しい”道央”をご紹介。
道東を走る・根室本線で「かきめし弁当」を食べる
釧路と根室を結ぶ根室本線は、「根室東線」と呼ばれ、花咲港や花咲ガニをイメージして「花咲線」という愛称がついています。
製紙工場の白煙の匂いがする釧路の町を出た列車が、釧路川を渡り、別保駅を過ぎるころ、風景もガラリと様変わりします。牧場や樹木の間を抜け、列車はラムサール条約登録湿原地の「別寒辺牛(べかんべうし)湿原」を走ります。
足を踏み入れたら吸い込まれそうな湿原の中に鉄路が続いているので、驚きです。極寒の早朝は周りの木々が寒さで凍り、びっしりと霧氷がついて、白銀の世界が広がります。
湿原を過ぎると、厚岸(あっけし)駅に到着です。「あっけし」はアイヌ語で、”牡蠣の獲れる場所”の意味。厚岸湖上には、牡蠣島弁天神社があり、牡蠣で有名な場所です。
厚岸駅を降りると、目の前に「氏家待合所」という「かきめし弁当」の小さなお店があります。炊き立てのご飯と牡蠣をその場で詰めてくれて、ほっかほかのお弁当がいただけます。
住所:北海道厚岸郡厚岸町宮園1-15
列車は東に進み、最東端の駅・東根室駅に続きます。途中で、落石(おちいし)海岸三里浜沿いを走り、車窓は大海原になります。鉄道撮影地としても有名ですが、太平洋の大海原を見ながら丘陵を歩いて向かうのは、浜風を全身に受けるため、容易ではありません。
熊笹以外は何もなく、たくさんの鹿の群れが移動するのを見かける程度です。輝く夕陽の光に目を細めながら歩き続けると、壮大な風景に出逢えます。
道央を走る・富良野〜東鹿越の四季折々の絶景
観光地でも人気のある北海道の”へそ”富良野。少し足を伸ばして、根室本線で東鹿越駅まで乗車して戻ってくる旅に出かけてみませんか?
富良野駅から下り列車に乗ると、木造駅舎の布部駅を通ります。映画『北の国から』の第一話で、“始まりの駅”として登場する駅です。車窓は、進行方向右側に芦別岳が見え、空知川を越えると、長い直線に入ります。
山部駅を過ぎると、今度は、芦別岳を後ろに背負いながら山間部へと進み、登り勾配にかかります。
列車が、何度も、ブロロロと唸りながら坂を上るので、座席に深く身を任せ、全身でエンジンを感じるようにします。自然と体にも力が入ってしまうのですが、列車が軽くなったな、と感じて、体の力が抜ける頃、下金山駅に到着します。
鉄路が、空知川の最上流部にある金山ダムを通過すると、いよいよ次は、人造湖の「かなやま湖」です。
トンネルに侵入する直前の警笛の音を聞くと、左の窓にへばりつき、車窓に「かなやま湖」が広がる瞬間を楽しみに身構えます。冬は、トンネルを抜けると、窓いっぱいに一面凍った「かなやま湖」です。
「ピャー」と警笛の音が聞こえ、列車はたびたび徐行します。「鹿だ!!」と辺りを見渡すと、線路から逃げる鹿の白いふわふわのお尻が、ちょろり。どうやら、「かなやま湖」付近は、鹿の通り道のようです。
東鹿越駅付近の早朝は、鹿だけでなく、キタキツネも遊びに来ます。動物しかいない静かな朝に、灯りのついた列車の音が、コトコトと響いていました。
秋は樹木が見事に紅葉するので、何度も「かなやま湖」を楽しみに行きました。この素晴らしい富良野〜東鹿越も、2024年3月末で運行を終了します。
富良野で食べ歩き!駅そばと「へそ歓楽街」
富良野駅の待合室の中には、駅蕎麦屋が併設されています。時間のない時や乗り換えの時に、さっと食べられる駅そばを、いつもアテにしています。定休日もまちまちなので、「圭子ちゃんの店」の暖簾が出ているのを見かけた時は、ほっとします。濃い出汁に少し平たく太めの麺は、寒い日の体に沁みて温まります。
カウンターでのろのろと、食べる場所を迷っていると、圭子ちゃんが「座りな」と、待合の椅子をすすめてくれました。長年、カウンターから旅人を見送ってきたのでしょう。今では、“圭子ちゃん”というより、母のような方です。
住所:北海道富良野市日の出町1-30
時間のある時は、「ふらのへそ歓楽街」付近を歩き、ランチにします。『魔女のスプーン』というカレー屋さんの名前に惹かれて入ってみました。薬膳カレーを頼んでみると、地元の野菜をふんだんに使っている贅沢なカレーで、鶏肉もお箸で崩れる柔らかさでした。
住所:北海道富良野市日の出町12-29
『魔女のスプーン』の隣にあるのが、お決まりの鯛焼き屋さん『甘太郎』です。素朴で、少しこぶりなのが、ちょうどいいのです。
決まって、“あまたろうやき”の黒あんと、“ハムたい”をいただきます。“ハムたい”は、マヨネーズとハムの入った鯛焼き。しょっぱい味に、ほんのり甘い生地とマヨネーズの具合がいいのです。富良野駅で、列車を待つ時間に買って、列車に乗ることにしています。
住所:北海道富良野市日の出町12-30
映画『鉄道員(ぽっぽや)」のロケ地を訪ねる
東鹿越駅から先にある幾寅駅は、台風の被害で不通区間となっていますが、映画『鉄道員(ぽっぽや)』のロケ地である「幌舞駅」として愛されています。春にはお花が咲き、資料館として手入れが行き届いています。
映画の中で使用されたキハ40の車両も保存されており、重い扉をスライドすると、車内に入ることができます。たくさんの旅人が腰掛けてきた座席にしばらく座ってみました。
キハ40の車両のすぐ後ろには、映画ロケの際に記念植樹された木が大きく育っていて、時の流れを感じます。
2024年3月末に、東鹿越〜新得間も同時に廃止となり、富良野〜東鹿越間も、運行終了となってしまいます。最後の紅葉と、冬にもう一度行きたいと思っている大好きな場所です。
住所:北海道空知郡南富良野町
[All photos by Hiromi Ito]
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