自然と文化が共存する島・江田島
瀬戸内海に浮かぶ江田島(えたじま)は、日帰りでも気軽に足を運べる島。古くから牡蠣養殖が盛んに行われているほか、明治期に建てられた赤レンガ造りの重厚な建物「旧海軍兵学校」など歴史的スポットも点在。本土からのアクセスも良いことから、休日にはのんびりとした島時間を求める人々でにぎわいます。
そんな今回の舞台である江田島ですが、実はさまざまなモノづくりが行われているクラフトマンシップにあふれているスポット。今回は数ある中でも歴史の深い「紙布」と、島内唯一の陶芸工房で作られる「江田島焼」の手仕事を見るために訪ねました。
呼吸する布「紙布」
「紙布(しふ)」は、和紙や洋紙を細かく裁断して糸状に撚り、それを織り上げて布にする、歴史ある手仕事のひとつです。かつては全国各地で製造されていましたが、時代の変化とともに数を減らし、現在国内で現存する織物製造会社はわずか2社。そのひとつが、今回訪れた「津島織物製造株式会社」です。

左:撚糸の原料となる和紙 右:引っ張っても切れない強度に和紙を機械で何度も撚っていく
同社の紙布は、針葉樹から作られた紙を原料に使用。軽やかで柔らかく、通気性に優れるうえ湿気にも強いことから、“呼吸する布”と呼ばれています。昔から衣類や袋物、生活用品、壁紙など幅広く用いられ、暮らしに寄り添う布として重宝されてきました。光に当てるとほのかに輝き、使い込むほどに手に馴染む風合いも魅力です。
近年では、伝統技術を活かしながら現代生活に合う製品も展開。バッグやランチョンマット、ランプシェードなど日常に取り入れやすいアイテムが揃い、地元学生とのコラボレーションによって若い世代への認知も広がっています。
工房では、紙を糸にする工程や織りの一部を見学できるほか、オリジナルのうちわや栞を作る体験プログラムも実施。自分の手で紙が布へと変わる過程を体感すれば、ただの土産物ではなく、紙布に込められた歴史や職人の技を感じながら、特別な思い出を持ち帰ることができます。
津島織物製造の紙布は、長年培われてきた技術と現代の感性が融合した布。江田島を訪れた際には、手で触れて、その温もりを旅の思い出に加えてみてはいかがでしょうか。
牡蠣の釉薬が生み出す素朴な風合い「江田島焼」
続いて伺ったのは、島内で唯一の江田島焼の窯元「沖山工房」。京都で修行を積んだ帰郷した陶芸作家・沖山努さんによって平成初期に完成(復興)された、比較的新しい工芸品。
最大の特徴は、素朴で温かみのある風合い。江田島の名産品である牡蠣の貝殻を釉薬に混ぜた「カキ肌釉」を使うことで、独特の質感が生まれるとのこと。たとえ同じ型で作っても微妙な色の濃淡や模様が出るわけではなく、ひとつとして同じ器は存在しないのも面白いところ。
沖山工房では、ろくろなどさまざまな実験を実施。傍で丁寧にレクチャーをしてくれるため、陶芸の経験がなくても大丈夫。完成した器は本焼きを経て後日配送してもらえます。
工房内には食器や花器など大小さまざまな作品が並び、その場で購入することも可能です。訪れた際には、作り手である沖山さんとの会話も魅力のひとつ。気さくでおしゃべり好きな人柄に触れれば、器の背景にある物語や制作の想いが、より深く感じられるはず。
広島県江田島市江田島町宮ノ原3-14-1
電話:0823-42-4309
[photo by tsuchidayosuke]