知ってた?今年で125周年のノーベル賞は「新聞の誤報」で誕生した説

Posted by: 坂本正敬

掲載日: Oct 4th, 2026

世の中の誰もが知っている出来事やスポットの裏側にある意外な歴史を深掘りする「知ってた?」連載。今回は、新たな受賞者の発表が間近に迫ったノーベル賞が、新聞の誤報をきっかけに生まれたのではないかという意外な説を紹介します。

ストックホルムの定番土産・ノーベル博物館のダイナマイトキャンディ

ノーベル博物館のダイナマイトキャンディ

直接的な動機は『遺言』にもない

毎年10月上旬(2026年は10月5日~12日)、物理学、化学、生理学・医学、文学、平和、経済学の分野で受賞者が発表されるノーベル賞。誰もが知っている、世界で最も権威のある賞の1つです。

※アルフレッド・ノーベルの遺言が定めたのは、物理学、化学、生理学・医学、文学、平和の5賞。ノーベル経済学賞の正式名称は「アルフレッド・ノーベル記念スウェーデン国立銀行経済学賞」。

アルフレッド・ノーベル 画像:英語版Wikipediaのパブリックドメイン

ノーベル賞の「ノーベル」とは人名。ダイナマイトの発明者として広く知られる科学者・発明家です。

1833年、スウェーデンのストックホルムに生まれ、サンクトペテルブルクで教育を受けた後に、爆薬の研究と開発に取り組み、土木工事や鉱業など、民間用途の需要にも支えられて、巨万の富を築いた発明家・実業家です。

今日の本題は、その科学技術者がなぜ、ノーベル賞の設立に動いたのか、その直接的な動機についてです。

もちろん、ノーベル財団の公式ホームページには、ノーベルが生涯を通じてかかわった分野(物理学、化学、生理学、医学)、関心を持った分野(文学・平和)についてのカテゴリーが同賞には設けられているとの説明があります。

ノーベルの遺言 画像:Wikipediaのパブリックドメイン

賞の趣旨としては、亡くなる1年前の1895年に確定された、財産に関する扱いと、ノーベル賞の設立を指定した『ノーベルの遺言』に、

“dem, som under det förlupna året hafva gjort menskligheten den största nytta”(ノーベル財団の公式資料より引用)

と、スウェーデン語で書かれています。日本語にすると「過ぎ去った1年間に、人類のために最大の利益をもたらした人たち」に贈る賞といった意味です。

さらに、生前の膨大な手紙には、自分の開発した爆薬が軍事利用され、軍事技術の向上を生んでしまった事実に対する思いや、人類に利益を残したい、人類の状況を改善したいという願い、人生の目的についても記述が発見されているといいます。

しかしながら、そうした間接的な背景ではなく、ノーベル賞という仕組みをなぜ立ち上げたのか、その直接的な動機については『ノーベルの遺言』にも記述が存在しません。膨大な手紙からも、1つに特定できる理由が確認されていないのだとか。

逆に、明確に本人が動機を語っていないからこそ、さまざまな推測が行われてきました。その説の1つとして、新聞の誤報が引き金になったと、まことしやかに言われているのです。

「人類の恩人」とはとても言い難い

その推測の出所は、フランスの新聞『Le Figaro(フィガロ)』がアルフレッド・ベルンハルト・ノーベルの死亡を報じた誤報だとされています。

後日、訂正記事まで出た誤報の詳細としては、アルフレッドの兄、ルートヴィヒ・ノーベルがフランスのカンヌで死亡した話を、

“Un homme qu’on ne pourra que très difficilement faire passer pour un bienfaiteur de l’humanité est mort hier à Cannes. C’est M. Nobel, inventeur de la dynamite.”(『Le Figaro』の公式ホームページより引用)

と誤って報じた記事が、1888年4月に史実として世の中に発行されました。日本語にすると「人類の恩人とはとても言い難い人物が昨日、カンヌで死亡した」といった意味です。

『フィガロ』の誤報 画像:英語版Wikipediaのパブリックドメイン

ダイナマイトなどの爆発物を発明した結果、マイナスの側面として、戦争利用による人類の死傷者を生んだという批判の意味が込められていたと考えられます。

この誤報により、パリに暮らすノーベルの下へ弔問客が実際に訪れたとも、『フィガロ』の別日の紙面に報じられているそうです。

言い換えると、自分が死んだときにどのように世間に記憶されるかをノーベルは目の当たりにしました。その出来事が、ノーベル賞設立の直接的な引き金になったのではないかという推測につながっているのです。

第1回のノーベル賞授与が1901年に行われてから今年は125年です。今年は、どのような人が選ばれるのでしょう。

受賞者たちの顔ぶれを楽しみながらも、ノーベル賞設立の真の動機は何だったのか、『フィガロ』の誤報が引き金となって、過ぎ去った1年間に、人類のために最大の利益をもたらした人たちに対する賞が生まれたのか、真相について思いを巡らせると、ノーベル賞の発表から12月の授賞式までの一連のニュースをより深く楽しめるかもしれません。

 

【参考】
※ Hitler candidat, la légende de la dynamite, un prix très masculin… L’histoire des Nobel en cinq anecdotes – Le Figaro

※ What is Alfred Nobel famous for? – Encyclopaedia Britannica

※ Prix Nobel : comment sont sélectionnés les lauréats? – FURUTA

※ Is there any record of the premature obituary of Alfred Nobel? – History

※ The Nobel Peace Prize: from peace negotiations to human rights – The Nobel Prize

※ Full text of Alfred Nobel’s will – The Nobel Prize

 

PROFILE

坂本正敬

Masayoshi Sakamoto 翻訳家/ライター

翻訳家・ライター・編集者。東京生まれ埼玉育ち。成城大学文芸学部芸術学科卒。現在は、家族と富山に在住。小学館〈HugKum〉など、在京の出版社および新聞社の媒体、ならびに〈PATEK PHILIPPE INTERNATIONAL MAGAZINE〉など海外の媒体に日本語と英語で寄稿する。 訳書に〈クールジャパン一般常識〉、著書(TABIZINEライターとの共著)に〈いちばん美しい季節に行きたい 日本の絶景365日〉など。北陸3県のWebマガジン〈HOKUROKU〉(https://hokuroku.media/)創刊編集長。その他、企業や教育機関の広報誌編集長も務める。文筆・編集に関する受賞歴も多数。

翻訳家・ライター・編集者。東京生まれ埼玉育ち。成城大学文芸学部芸術学科卒。現在は、家族と富山に在住。小学館〈HugKum〉など、在京の出版社および新聞社の媒体、ならびに〈PATEK PHILIPPE INTERNATIONAL MAGAZINE〉など海外の媒体に日本語と英語で寄稿する。 訳書に〈クールジャパン一般常識〉、著書(TABIZINEライターとの共著)に〈いちばん美しい季節に行きたい 日本の絶景365日〉など。北陸3県のWebマガジン〈HOKUROKU〉(https://hokuroku.media/)創刊編集長。その他、企業や教育機関の広報誌編集長も務める。文筆・編集に関する受賞歴も多数。

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