第1話/人生のレールを外れると、何が始まる?
第3話/人間も愛しかたも一色じゃない
第4話/幸せにならなきゃ
第5話/ココ二、スワリマセンカ?
第6話/恋に落ちたのは・・・
私はニューヨークなんか、興味がなかった。
なのに、私は今ニューヨークに滞在している。会社は不本意な退職だったけど、退職金も貰えたし、人生巻き直しってとこね。
私の名前は、白雪ひとみ(しらゆきひとみ)。まるで、漫画の主人公みたいな名前よね。通称「ヒメ」。苗字がなんたって白雪でしょ。名前についてからかわれるのは、もう慣れっこ。だって、32年間もこの名前をやっているわけだしね。
ブルックリンの老舗ステーキ屋には、昔の温泉旅館並みの帳場があった
ニューヨークに来て、3日目。
今日はニューヨーク駐在の友人鈴子夫婦が、老舗のステーキ屋に連れて来てくれたの。ニューヨークで今一番トレンドのエリア、ブルックリン。そこにある「ピーター・ルーガー」は、ニューヨークで一番ステーキが美味しいらしい。予約を取るのが大変だったんですって。予約の確認をする受付は、昔の温泉旅館の帳場みたい。手書きの予約受付簿を抱えたバアサマたちが、鼻眼鏡ごしに「ふんふん、アンタたちの予約はこの帳簿にありますよ。あと、20分ほど待ちなさい」とか言っているらしい。私、正直英語はあんまり得意じゃないのよね。特に聞き取りが苦手。え、あなたもそうですって? 鈴子のご主人は商社マンで海外駐在になるくらいだから、英語は堪能。ここは、彼にお任せ。
アメリカの古き良きレストランって感じなのかしら。お客は予約の時間まで、バーで飲んだり、サーバーが次々と運ぶステーキに見惚れたりして待つの。やっとテーブルに案内してもらって、着席。あーあー、お腹すいちゃった。さてさて、何が食べられるのか楽しみ。食べることは大好き。
チョー美味のオニオン・ブレッド
うわ、何これ。最初に出てきたパンが、チョー美味しいんだけど。鈴子に「ステーキが入らなくなるわよ」と止められるまで、4個も食べちゃった。数種類カゴに盛られているのだけれど、お気に入りはオニオン・ブレッド。外側はパリッと、内側はしっとり、もっちり。頼めばお代わりも持ってきてくれるの。あなたにも食べさせてあげたいくらい。
薔薇色のステーキに夢心地
いよいよステーキのお出まし。名物のTボーンステーキ。外側は焦げ目がしっかり、内側は薔薇色のステーキ。サイドに頼んだジャーマン・フライドポテト(Luger’s Special German Fried Potatoes)と一緒に、男性のサーバーが各自に取り分けてくれるの。ピシッと糊のきいた白シャツとエプロンがプロって感じで素敵。
ステーキは、日本の柔らかいサシの入った肉とはまったく別物。ワイルドな気分にスイッチが入る、噛みしめるステーキ。うまッ!
「白雪さん、気持ちの良い食べっぷりですね」そうだった。忘れてた。鈴子夫婦が連れてきた人がいたんだった。
独身の商社マンとチーズケーキ
鈴木亮平にちょっと似た彼は、鈴子のご主人の後輩。海外駐在も、最近は身軽な独身が選ばれることが多いみたい。
「僕は甘いものに目がなくて。ここのチーズケーキは美味しいから、絶対食べなきゃ。デザートは別腹」
ステーキでお腹がはち切れそうだけど、大賛成。クリーミーで、まろやかなチーズケーキは、人生で一等賞に輝く美味しさ。大満足!
年下の彼とブルックリンのフリーマーケットへ
腹ごなしのため、ブルックリンのフリーマーケット(Brooklyn Flea Market)へ。このマーケットは週末だけ開催していて、春、夏はアウトドア、秋、冬はインドアで開催しているみたい。
鈴子夫婦は二人で並んで歩いているので、私は鈴木亮平似の彼と歩くことに。
「白雪さんは、ニューヨークはお好きですか?」
「まだ来たばかりだからよく分からないけど、想像より面白そう。」
「僕はニューヨークへ来たくて、海外赴任の希望を出していましたから本望です。学生時代から、ニューヨークが大好きでした」
彼の横顔は生き生きとしていた。東京のオフィスでは、こういう覇気がある人を最近見なかった気がするな。
地下鉄でスカウトされる?
「ヒメ、彼って素敵だと思わない? 今日はヒメのために、彼を誘ったのよ」と鈴子が私に話しかけたと同時に、「ハーイ」とアメリカ人の女性にも話しかけられた。
鈴子のご主人の通訳によると、私に「あなたは独身なの?」と聞いているらしい。頷くと、「You’ve been spotted!(あなたを発見しちゃった!)」と名刺を渡されたの。
い、いったい何事?
彼女は独身者の恋人探しを手伝ってくれる、マッチメイカー(恋人紹介業)。主催のTrain Spottings(トレイン・スポッティングス)は、多くの乗客が乗り降りするニューヨークのアイコン地下鉄(トレイン)こそ、最大の出逢いの場と考えているのですって。現在、ニューヨークは中国系アメリカ人や日系アメリカ人が増加、アジア人の恋人依頼が多くなっていて、私が恋人候補としてお目に留まったらしいの。彼女のマッチングにより、結婚した人もいるそう。「ヒメ、面白いじゃない。素敵な人と出会えるかもよ」って、鈴子は面白がっているし。そんなビジネスがあるなんて、ニューヨークって変わっているわねえ。
ニューヨークは、いろんなことが起こる街。鈴木亮平似の彼やマッチメイカーの話の続きは、またこの次に話すわね。
第1話/人生のレールを外れると、何が始まる?
第3話/人間も愛しかたも一色じゃない
第4話/幸せにならなきゃ
第5話/ココ二、スワリマセンカ?
第6話/恋に落ちたのは・・・
[All photo by Hideyuki Tatebayashi]
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(注)この物語は、フィクションです。