
鹿の首を捧げる御頭祭

神道は、血や死を穢れとして忌み嫌う。だが、それらをまったく排除するかといえば、そうではない。神道には各地方の土着信仰も含まれており、なかには血や死と密接なものもある。 人間を生贄として山や川などの自然に捧げる人身御供も、そうした風習の一つだったと考えられる。
また、人間とまではいかなくとも、動物の首や体を供物にしていた神社もある。その一つが、長野県にある諏訪大社(すわたいしゃ)だ。
諏訪大社は、諏訪湖に四つの境内を持つ、国内有数の古社である。「記紀」にもその由来が記されており、古くからこの地に土着の巨大勢力があったことを窺わせる。7年ごとに巨大な柱が坂を下る御柱祭(おんばしらさい)を行うことでも知られているが、「御頭祭(おんとうさい/酉の祭)」という、いわば生贄の儀式もこの社には残っているのだ。
御頭祭は、毎年4月15日に諏訪大社の上社で実施される、五穀豊穣を願う儀式だ。御霊の宿った神輿を担いだ人々が本宮から前宮までを練り歩き、神前に供え物を捧げる。ここで供え物とされるのが、なんと鹿の首である。
現在でこそ剥製が使われているものの、かつては75頭ほどの鹿が神事のたびに狩られていた。このとき、串刺しにされたウサギも一緒に供物にされていた。
江戸時代の紀行家・菅江真澄はこの儀式を目にしており、その記録を残している。もちろん、菅江が見たのは本物の鹿の首が使われていたころの神事である。その場には、白鷺(しらさぎ)やウサギ、雉(きじ)、山鳥、鯉、鮒などの肉の塊もあったという。
この他にも、諏訪大社上社では年始に「蛙狩(かわずかり)」という生贄の神事が行われる。こちらも現在も続く神事で、本物のカエルを矢で貫いて神前に捧げる。
このような動物を供物とする神事は、諏訪大社以外でも行われてきた。千葉市の香取神宮の「大饗祭(たいきょうさい)」でも、神官が自ら鴨を捌いた鴨羽盛(かものはもり)や鮭の身で作った鳥羽盛(とぼもり)などが供えられるし、宮崎県西都市の銀鏡(しろみ)神社では、毎年緒の首を奉納する神事が残っている。
土着信仰の名残を残すミシャグジ神

現在でこそ諏訪大社は諏訪明神を祀っているが、元々諏訪の地は土着神ミシャグジ神への信仰が強い土地だった。ミシャグジ信仰は、古代の関東一帯に広まっていた原始信仰の一種だが、諏訪住人の信仰心は一際強く、諏訪大社が創建してからも神事などに強い影響を与えていた。狩猟関係の神事も原始信仰の名残であるようだ。
ミシャグジ神は祟り神としての力も強く、一説には若者を生贄として求める一面もあったとされる。岩手県花巻市の諏訪神社にある供養塚には、かつては若い娘を諏訪神に人身御供として捧げていたが、やがて鹿を代わりに捧げるようになり、最後は魚で代用したと記されている。すでに廃れた神事だが、鹿が供物となるという点は、まさに御頭祭と瓜二つである。
こうした伝承を踏まえた、大胆な仮説もある。御頭祭は、ミジャグジ神に人間を捧げる儀式から変化した、というものだ。
先述した紀行家・菅江真澄の記録に、人身御供の儀式を再現したかのような寸劇について記されているというのが、その根拠の一つである。江戸時代にも生贄説は一部で信じられ、珍しがられていたという。
しかし、それが事実であったかは疑わしい。1778年に高島藩から受けた質問状で、諏訪大社は寸劇に登場する人物が生贄であることを否定している。偽りである可能性もあるが、そもそも、江戸時代以前の儀式は記録が残っていないため、諏訪大社における人身御供説に、確かな根拠はない。
高島藩から諏訪大社への質問状には、諏訪大社に伝わる不思議な儀式を問いただす内容になっている。それはつまり、江戸時代の人々の間でも、諏訪大社の儀式が注目を浴びていたということなのかもしれない。
【出典】
『本当は怖い日本の神話』(古代ミステリー研究会・編/彩図社)
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