“お札の工場”国立印刷局
私たちが日々使うお札を製造しているのは、「独立行政法人 国立印刷局」。
その歴史は明治4年(1871年)までさかのぼります。そして現在、お札はもちろんのこと、官報やパスポート、切手など、社会インフラとなる製品を製造しているんです。
そんな国立印刷局では、お札の製造現場の見学に加え、映像やパネル展示、体験装置を通してお札について楽しく学べる工場見学を実施しています!
2024年7月3日の新しいお札の発行が迫る中、東京工場での工場見学を取材させていただきました。
東京工場で工場見学!
普段は立ち入り禁止の工場内へ!
東京工場へのアクセスは、東京メトロ南北線「西ケ原駅」から徒歩1分、またはJR京浜東北線「上中里駅」から徒歩10分。住宅街の中に、広々とした敷地が現れます。
工場南門で手続きを行い入場。構内を通って、奥行3~4mはありそうな大きなエレベーターに乗り、建物の2階へ向かいます。
工場見学はこちらのビデオ視聴室からスタート。国立印刷局の業務やお札についての紹介VTRを鑑賞します。
映像では、お札のデザインができるまで、そして実際にお札が印刷されていく過程をわかりやすく説明してもらえます! この時点で、すでに初めて知ることばかりです。
新しいお札って何が変わるの?知られざる肖像の秘密も
また、同室には新しいお札を紹介するパネル展示もあります。
こちらに展示されるのは、肖像の「コンテ画」。写真をコンテ画におこし、そちらをもとにして、実際にお札に採用される原版が作製されます。
この手順を踏むことで、写真そのままに顔を描くのではなく、描かれる偉人のイメージも加味した肖像ができあがるんです!
新しいお札の肖像に選ばれた人物の復習も兼ねて、肖像について紹介します。
- 一万円札は、渋沢栄一。複数枚の写真を参考に、各方面で活躍した躍動感や若々しさを表現するため、60歳代前半をイメージして描かれているのだそう。
- 五千円札は、津田梅子。お札の肖像は、女子英学塾を創立した年齢であり、津田梅子の教育者としてのキャリアが確立した年代である30歳代の写真等複数枚を参考として描かれています。
- 千円札は、北里柴三郎。お札の肖像は、学者としての地位が確立し、働き盛りで充実した様子がうかがえるため、50歳代の写真等複数枚を参考として描かれています。
新しいお札で特に驚きなのは、新たな偽造防止技術。
中でも、ストラップ型のホログラム部分に描かれる肖像は、なんとお札を眺める角度によって3Dで表現された肖像が回転します。こちらの技術のお札への採用は、世界初とのこと。
常に偉人と目が合ったら、偽造する気も起きませんね!
また、目の不自由な方が識別しやすいよう、識別マークの位置をお札の種類によって変えたり、外国の方でもわかりやすいよう、アラビア数字を大きくしたり。新しいお札では、ユニバーサルデザインが採用されているんです!
体験しながらお札を学ぶ展示室へ
お札ができあがるまでを体感
続いてお隣の展示室へ。こちらではお札の製造工程や偽造防止技術について、体験装置を使いながら、楽しく学ぶことができます。
日本のお札は、紙の原材料の配合から独自のもので、インキも一貫して独自の製造。これは海外ではかなり珍しいそうですよ。
印刷工程の説明には、凹版印刷・オフセット印刷だけで作られたものが。実際の製造工程では、この2工程を1度に行うことができる、独自の機械が使われています。
そして完成するお札。写真内でコンベアに乗っているのは金額にして40億円、手前の束は1億円だそう。さすがお札の工場、途方もない数字です。
お札の”設計図”も展示!匠の技を目撃
お札のデザイン作製を行うのは、国立印刷局職員の「工芸官」という方たち。
手作業で描いたこちらの超細密な「原図」を、これまた手彫りで忠実に刻み込み、「原版」ができあがります。
実際に使われる道具と一緒に展示されている原図・原版を見ても、手作業とは思えません!
こんなに高度な技術を持っている工芸官ですが、お札のデザインや彫刻などをどなたが担当したかという情報は一切非公開なんです! 匿名の匠の技が、お札に活きているんですね。
巨大な一万円札とご対面
展示室の中央には、巨大に再現された一万円札が。普段は気づかないほどの細かさで施されている、お札の偽造防止技術を体感できます。
たとえば「壱万円」の部分の特殊なインキの盛り上がりも一目瞭然です。
1億円をその手に!体験型フォトスポット
展示室内には、1億円分がパッキングされた札束も展示されています! もちろんレプリカですが、縮尺や重さは本物と全く同じです。
この札束は実際に持つことができ、重さを体験しながら記念写真が撮影できるコーナーになっていますよ。
筆者も挑戦しましたが、思ったよりは軽いかも? お札は1枚1g相当なので、単純計算で10kgとのことでした。ただレプリカであっても、1億という響きには緊張します!
アウトローな映画でよくある、アタッシュケースに札束ぎっしり〇億円! なんて運び方をしてしまう悪役は、実は重くて苦労しているかもしれません。
歴史を感じる建物にも注目
展示室を見学し終わったら、構内を通って、お札が刷られている現場へ向かいます。
この道中の建物も、注目したいスポットなんです。ただ注意点として、展示室を除く構内は撮影や通信機器の使用はNG! 移動の際は、ビデオ視聴室のロッカーで、携帯電話やカメラ機能のある機器は預かりになりますよ。この写真は許可をいただいて撮影しています。
昭和6年(1931年)に建造されたこちらの建物。近代化産業遺産に登録されています。
アールデコ様式の美しい曲線が特徴的で、落成した当時は「白亜の神殿」なんて呼ばれていました! 写真でご覧のように、今は可愛いピンク色ですよ。
建物内の、重厚な造りのホール。ちなみにまだまだ現役で稼働中です。
入り口横の大きな鳳凰の像は、建物よりもさらに歴史が長いんです。実はこちら、明治9年(1876年)に落成した初代の印刷工場「朝陽閣」のシンボルだったもの。大手町にあったその工場は関東大震災で崩壊してしまったものの、鳳凰像は奇跡的に現存しています。
ちなみに鳳凰は、国立印刷局のロゴマークにも採用されていますよ!
お札が生まれる現場へ!圧巻の印刷現場を見学
いよいよ実際にお札が印刷されている現場の見学へ!
また別の建物の2階に向かい、見学施設へ。ここからは、実際にお札の印刷が行われているフロアを見渡すことができます。機械が稼働する低い音が響き渡り、いかにも工場見学という雰囲気です!
注意事項や紹介のビデオを見たのち、振り向くと……!
残念ながら、撮影はNG! お見せできるのはここまでです……。
巨大な機械が動く中、刷られたばかりのお札の束が運ばれていく様子は圧巻でした! できたてほやほやの新しいお札が、ここから私たちのもとにやってくるんですね。
この様子はぜひ、実際に工場見学に参加してご覧ください!
新しいお札の発行にあわせて行きたい工場見学!
今回は取材ということで、筆者1人で別日にお邪魔しましたが、本来は幅広い年代から人気という工場見学。実施されるのは、火曜日・木曜日の10:00~と13:40~。所要時間はそれぞれ90分が目安です。
注意点として、東京工場では新しいお札に対応した見学施設のリニューアル工事のため、2024年6月以降の工場見学は休止中。明確な再開時期は、記事執筆時では未定なものの、新しいお札の発行開始に合わせて準備を進めている、とのことでした。
工場見学の予約受付は希望日の2カ月前からですが、新しいお札の発行でお札に関心の集まっている今年は、約40人の定員がすぐに埋まってしまうことも多かったそう。再開時期・予約状況と合わせて、構内入場時にはセキュリティ上の決まりなどもありますので、詳細は国立印刷局ホームページをご確認ください。
普段立ち入りのできない場所で貴重な体験ができる、国立印刷局・東京工場の工場見学。日々何気なく使うお札ですが、高度な技術が込められていることを楽しく学べて、7月3日からの新しいお札への見方も変わったように思います。
今回写真ではお伝えできなかった印刷工場内の様子や、リニューアル後の展示内容は、みなさんが実際に目にしてみてくださいね!
所在地:東京都北区西ケ原2-3-15
電話番号:03-5567-1102
ホームページ:https://www.npb.go.jp/index.html
工場見学概要
実施日:毎週火曜日、木曜日(祝日及び年末年始を除く)
時間:10:00~/13:40~(所要時間:約90分)
受付人数:1回約40人まで
対象:小学生以上
料金:無料
インターネット又は電話による事前予約が必要です。
見学予約サイト:http://npb-plant-tour.resv.jp/direct_calendar.php?direct_id=1
[All Photos By ぶんめい]