第3回目は、ドイツのお話です。
「星の王子 ニューヨークへ行く 」(原題:Coming to America)という映画をご存知でしょうか。これは1988年公開のアメリカ映画で、エディ・マーフィー演じる架空のアフリカの王国の王子が、花嫁探しのためにニューヨークへやってくるというコメディ。身分を隠してハンバーガーショップで働くことから巻き起こるドタバタ劇で、大人から子供まで楽しめる作品です。けれど、この映画のような人生を送っている男性が実際にドイツにいると話題になっています。
西アフリカにある部族国Gbi
その噂の方は、西アフリカのガーナ出身、セーファス・バンサ氏(Céphas Bansah)67歳。ガーナは共和国制度を採用している国ですが、バンサ氏はガーナと隣国トーゴ国境あたりまでを統治するGbiという部族国の王でもあります。霊的な指導者でもある伝統的な王は、今でも部族にとっては重要な役割を果たす存在なのだとか。
この地図の右下あたりにガーナとトーゴが見えます。しかし小国とはいえ、30万人もの民を従える王様がドイツで何をしているかというと・・・。
利き腕がもたらした数奇な運命
なんと、自動車整備場のオーナーとして働いているのです! もちろんご自身も現場で、油まみれになってフルタイムで働いているそう。一体どうしてそのような数奇な人生になったのでしょうか。
実はバンサ氏は、まだ20代前半だった1970年に、前国王であるおじい様から「自動車整備の技術を学ぶように」と勧められたことがきっかけでドイツに移住されました。研修期間を終え、ドイツの市民権(国籍と同等の権利)を取得したことでドイツ西部の街にご自身の整備場も立ち上げ、順風満帆な日々を送っていました。
しかし1987年のある日、一枚のFAXを受け取ったことからバンサ氏の運命は永遠に変わります。そのFAXに書かれていたのは、祖父である前王の訃報と、「バンサ氏が王位を継承するように」との驚きの指示でした。実はGbiでは「左利きは不浄である」とみなされているのですが、バンサ氏の父上もお兄様も左利きだったために王位継承が認められず、順番でバンサ氏に王位が回ってきたのだとか!
ITを駆使したパートタイムの王様
しかし既にベルリンで自分の整備工場を構え、生活の基盤を築いていたバンサ氏はGbiには帰らず、遠隔&パートタイムの王様になることを決心しました。
驚いたことに、国民とのコミュニケーション手段はスカイプ。パソコンやスマートフォン越しに統治を行っているのだとか。しかし年に8回くらいはドイツからGbiに戻っているそうなので、2か月に一度は国民に直接会っていることになりますね。さすが王様、責任感があります!
そして2000年には、10歳年下のドイツ人のガブリエルさんとめでたくゴールイン! 二人のお子さんも生まれ、今も整備工の仕事を続けられているそう。
そして王様として現在取り組んでいるのは、故郷での学校建設と女性用の刑務所設立プロジェクト。ご自身でビールをプロデュースし、その売り上げをプロジェクトの資金にあてているのだとか。バンサ氏はお酒を飲まないそうですが、ビール大好きなドイツ国民に合わせた戦略的な方法ですね。
こちらのリンク先 からバンサ氏が王様のコスチュームに身を包んだ姿が見られますが、面白いのはこっそりと肌の色に合わせた茶色のセーターを着ていらっしゃること。北国ドイツでは、故郷のスタイルは寒いですよね。そんなところからも、バンサ氏が二国の間でバランスをとっている様子が見て取れます。これからも、故郷とドイツをつなぐ存在として頑張ってほしいものです。
[All photos by Shutterstock.com ] [King of the road: The African monarch who works as a German mechanic (when he’s not ruling his people via Skype)]
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