夏休みの自由研究のように、心惹かれることについて、じっくり調べてみる。考えて、試行錯誤し、また考えて、まとめて、発表する。TABIZINEにもそんな場がほしいと思い【TABIZINE自由研究部】を発足しました。部員ライターそれぞれが興味あるテーマについて自由に不定期連載します。
今回は、TABIZINEライター、坂本正敬の自由研究「地元の町に外国人観光客を集める方法」をお届けいたします。
自分の暮らす町に多くの外国人を呼んで滞在してもらうためには、文化財を中心とした地域全体で、1つの物語を伝えていく必要があると学びました。
では具体的にその物語を、どうやって人を呼び込む仕掛けに落とし込んでいけばいいのでしょうか?
自由研究第4回の今回は、地域のストーリーをいかに膨らませて、具体的なサービスに落とし込んでいくのか、その方法をオンラインレッスンgaccoの『文化財を活用した観光拠点形成』から学びたいと思います。
物語を作ったら、誰が気に入ってくれるのかを考えてみる
自分の町にある文化財を中心に、地域全体を貫くようなメインストーリーを作る、その大切さを何回かにわたって紹介しました。
ただ、ストーリーを作っただけでは、具体的なイベントやサービスづくりのアイデアもなかなか出てこないですよね? 出てきても、思いつきのちぐはぐな発想で終わる可能性が高いです・・・。
どうして首尾一貫した効き目のあるアイデアが出しにくいのか、その理由はもちろん、どのような国のどのような人が来てくれるのか、観光客の顔が具体的に見えていないからですね。
自分たちの町に呼び込む人を考える方法
誰が自分たちの町に来てくれるのか、誰を呼び込みたいのか、ターゲットとなる観光客はどうやって考えればいいのでしょう?
そのヒントは、JTB総合研究所の主任研究員である河野まゆ子さんによってgaccoの講義中で紹介されています。
ちょっと聞きなれない言葉で、STPマーケティングと説明されていますが、
・今町に来てくれている人はどんな人たちなのかではなく、今後誰に来てほしいのか
・自分たちの町が持つ文化財は、どのような年齢、性別、地域、国に暮らす人たちに関心を持たれそうなのか
といった点を考えるといいみたいです。
今回の自由研究では、富山県の南砺市井波を題材に取り上げてきました。信仰心に根差した人々の暮らしを地域のテーマと設定し、文化財である瑞泉寺とその門前で発達した木彫刻の物語を考えてきましたね。
その彫刻の町と信仰心が深く根差している人々の暮らしに、どのような旅人であれば興味を持ってくれるのか、ちょっと考えてみましょう。
関西在住の寺社仏閣巡りが好きな人!?
今回の研究では外国人旅行者を呼び込む方法を考えていますが、まずは練習を兼ねて日本人を想定してみましょう。
いろいろ切り口はあるかと思いますが、そもそも南砺市井波の核となる文化財は、お寺。ならば「寺社仏閣巡りを愛好する世代の人々がターゲットになるのでは?」という仮説はどうでしょうか。
2016年に28,900人の個人を対象にして行われた全国新聞総合調査によれば、過去1年で寺社仏閣巡りをした人を性別ごとに見ると、男性の50~69歳(24.4%)、女性の50~69歳(28.6%)が最も多いと分かっています。
さらに同調査によれば、過去1年間に寺社仏閣巡りをした人の住む自治体も明らかになっています。
1位が奈良、2位が京都、3位が大阪、4位が和歌山、5位が滋賀。関西は近所に名刹が多いせいもあるのでしょうか。寺社仏閣巡りを愛好する人が関西に多いと分かります。
北陸新幹線が2015年に東京方面から開通した富山では、東京方面から人を呼び込もうと頑張っています。ただ、上述の仮説からすると、関西方面から人を呼ぶ努力をした方がいいのかもしれませんね。
「関西に暮らす寺社仏閣巡りを愛好する50代以上の男女」とターゲットの顔が見えてきたら、今度はその人たちが喜んでくれそうな仕掛けを、地域の物語に絡めて考えていけばいいのです。
相手の顔が見えてくると、宣伝の方法も変わってきますよね。
外国人旅行者は欧米人が狙い目!?
外国人観光客に関しては、どういった人たちをターゲットにするといいのでしょうか?
さまざまな切り口が考えられますが、上述の南砺市の例を言うと、やはり最大の売りはお寺、さらに門前に栄えた彫刻などの伝統工芸と町並みです。
ならば、日本に来ている外国人旅行者の中で、日本の伝統文化や社寺を目当てに来ている人が、どの国の人に多いのかを調べてみるといいのかもしれません。
観光庁が作成した平成26年の『訪日外国人消費動向調査』によると、香港や台湾、中国、韓国の人と比べて、欧米人の方が日本の歴史や伝統文化体験を期待して訪日していると分かります。
日本の歴史や伝統文化体験を期待して訪日した韓国人は、全体の13.2%と少数派。
一方の欧米の人は54.7%と半数以上の人が、日本の歴史や伝統文化体験を期待していると分かります。
オーストラリア人も34.7%と多くの人が日本の文化、伝統、歴史に興味を持っているみたい。
日本の歴史や伝統文化体験が社寺仏閣巡りと完全にイコールとは言い切れませんが、ヒントにはなりそうですよね。
国土交通省の『訪日旅行のブランド・イメージに関する調査研究』も役立つかもしれません。
この研究では、外国人の持つ日本に対するイメージが、ビジュアルで整理されています。
一例としてフランス人の連想する日本のイメージが紹介されていますが、歴史・伝統文化の中に「寺」というキーワードが入っていました。
こうなってくると欧米人の中でも、フランス人は主なターゲットになるかもしれません。もしもフランス人を呼びたいと思うならば、英語だけでなくフランス語の看板も観光地に用意しようなど、自然とアイデアも出てきますよね。
仏教徒のタイ人も来てくれるかも
もちろん、仮説の切り口は他にもあります。
たびたび例に出してきた南砺市井波では、瑞泉寺やその門前に発展した彫刻の町、さらには人々の暮らしを貫くテーマとして、信仰心を挙げていました。
その設定が間違っていないとすれば、同じく信仰心のあつい国の人々を招けば、仮に宗教が違っても、文化財の根本にある部分に興味を持ってもらえるのではないかという仮説も立てられそう。
GALLUPという調査会社が行った世界の信仰心の強さランキングを見ると、タイには信心深い人が多く暮らすと分かります。
先に紹介した国土交通省の『訪日旅行のブランド・イメージに関する調査研究』では、タイの人たちが連想する日本のイメージとして、「社寺仏閣」というキーワードがどんぴしゃりと挙げられていました。
信仰心が強く、しかもほとんどが仏教徒、日本の社寺仏閣にも強い印象を持つタイの人たち、確かなターゲットになってくれそうですよね。
タイからの観光客数は、年間で90万人(2016年)と十分すぎるボリュームもあります。
東日本旅客鉄道とNTTデータの『訪日外国人旅行者移動実態調査結果』を調べてみると、2016年6~8月に訪れてくれたタイ人のうち、その半数が関東に滞在、3割が関西に滞在していると分かります。
ならば関東や関西に訪れたタイ人の滞在日の一部を、北陸方面に振り向かせる、そのための仕組みや魅力づくりを、地元の町の物語をベースにして考えていけばいいのですね。
以上のように、地域のストーリーから具体的なサービスを作っていくためには、誰なら来てくれそうなのか、ターゲットを具体的に考えていく作業が大切だと分かります。
皆さんの暮らす町、町が持つ文化財がどのような人に興味を持ってもらえそうなのか、仮説を立てて考えてみると、次に進むべき道も見えてきます。
その道をたどりながら、仲間たちで頭を使って考えてみるといいかもしれませんね。
[訪日外国人消費動向調査(平成26年1-3月期) – 観光庁]
[2015年国籍別/目的別訪日外客数 – 日本政府観光局]
[What Alabamians and Iranians Have in Common – GALLUP]
[訪日旅行のブランド・イメージに関する調査研究 – 国土交通省]
[「1年間に寺社・仏閣めぐりをしたことがある人」都道府県別ランキング]
[1.4.国別分析(関東入国) 〜タイからの旅行者の広域移動実態 – 東日本旅客鉄道、NTTデータ]
[All Photos by shutterstock.com]