年の瀬がせまり、なんだか落ち着かない気分になっているあなたに、つかの間非日常にトリップする記事を1週間毎日お送りいたします!
TABIZINE「世界の謎」特集、どうぞお楽しみください。
全国にはミステリースポットと呼ばれる場所がいくつもありますよね? さまざまな研究から秘密の謎が解明されてもなお、訪れる人々の想像力をかきたててやまないスポット。そんな場所が筆者の暮らす富山県にもあります。
そこで今回はTABIZINEの「世界の謎」特集の一環として、富山県立山町にある尖山(とがりやま)を紹介したいと思います。
古代ピラミッドとのうわさも流れた美しい円すい形の山
富山県の東部には北アルプスの山並みが続いており、その山々を横断する形で、国際的に人気の山岳観光スポット・立山黒部アルペンルートが整備されています。その国際的な観光地にアプローチするルートの入り口に、ポッコリと地表から盛り上がった円すい型の低山があります。
この山容を形容して地元の方は「とんがりやま」と呼んでいますが、正式名称は尖山(かつては布倉山)、その標高559.4mの三角形の山に、数々のミステリアスなうわさが持ち上がっているのですね。
尖山の杉林
例えば古代ピラミッド説。国立国会図書館に所蔵されている野崎雅明著『肯搆泉達録』(1815年)にも、
<此山は諸国に稀なり一つ山にて急なること手を立たるが如し>(『肯構泉達録』より引用)
と書かれているように、尖山は極めて特徴的な山容を見せています。その勾配といい山のサイズ感といい、言われてみればまさにピラミッドそのものに見えてしまいますよね。
尖山周辺ではUFOの目撃も相次いでおり、尖山周辺で商売を営む地元の男性に聞くと、今でこそ落ち着いたものの、1970年代くらいから目撃情報を盛んに耳にするようになったと言います。
尖山の登山道
さらには山頂付近で方位磁石が狂う、河童を目撃した、山頂から天空に向かって逆さ向きに雷が立ち上った(逆さ雷)などミステリアスな逸話が次々と生まれています。
全国に広がる祭祀の遺跡を学術調査する國學院大學考古学資料館が平成8年に行った尖山の調査では、山頂で山岳信仰に関連した平安末期から鎌倉時代にかけての祭祀の遺跡が発見されています。
河童やUFOなどの真偽は別としても、昔からその山容をもって、人の心に何事かの特別な感情を抱かせてきた山である点は間違いがなさそうですね。
少なくともピラミッドではないらしい・・・
尖山の登山道
ただ、専門家によれば、独特な山容の正体は、少なくともピラミッドではないと断定されています。孫引きになりますが、中日新聞の記事には立山カルデラ砂防博物館の学芸員のコメントが掲載されています。
尖山は約2千万年前の海底火山の噴火が原型となっていて、今から2万年前に現在の形になったと紹介されています。なるほど火山だと言われれば、典型的な火山の形をしていますよね・・・。
洞爺湖の中島の様子
例えば支笏洞爺国立公園の一角、洞爺湖の中島を構成する火山と並べると、そっくりの形をしています。尖山は公平に見れば、火山の噴火跡と見るべきなのかもしれませんね。
不思議な山だと思う人の心が不思議な現象を次々と生み出す!?
横江駅の駅舎
しかし、人の気持ちとは不思議なもので、尖山を不思議な山だと思い込んで登ると、全ての現象がミステリアスに見えてきます。
この記事を書くにあたって尖山に登ってきましたが、最寄りの富山地方鉄道立山線の横江駅を降りて空を見上げると、両翼のない円柱状の飛行体が音もなく空を西から東へ移動している光景が目に飛び込んできます。
白い飛行体が横切った空
「飛行機でしょう」と自分に言い聞かせるものの、思わず足を止めて半信半疑で空を食い入るように眺める自分が居ました。UFOに関しては、高校生時代に所属していたサッカー部の練習後、部員集団で目撃している過去があるため、どこか否定できない気持ちがあったのかもしれません。
駅前にある駐車場と登山道入り口
駅前を横切る県道6号線(富山立山公園線)を横断すると、5台ほどのスペースがある駐車場があります。その横から登山道の入り口に入れるのですが、横江の集落に入ると間もなく、豊富なわき水の影響か空気の質感がガラリと変わります。その変化を今度は「何かのエネルギーだ」と感じてみたり・・・。
挙句の果てには、登山道の行く手をさえぎるように空中で制止してホバリングしながらこちらを注視しているハチを目にして、何かの警告と受け止めてみたり・・・。
「これ以上先は人の踏み込む場所ではない。立ち去れ」
と、本気でハチが警告しているような気がして、思わず逃げ出すところでした。
ハチに行く手をさえぎられた尖山へ通じる登山道
そういった心理状況になると、もう大変です。バッタやトカゲが筆者の接近に驚いて動く物音を、何かの超常現象だと勘違いしたり、筆者の数歩先を誘導するように飛び続けるキタキチョウの蠱惑(こわく)的なリードに不吉な裏の意図を感じてしまったり、何もかもが怪しく見えてきます・・・。
他の登山者の存在が「魔法」を解いてくれる
山頂へ続く階段
とはいえ、そんな「魔法」も、他の登山者とすれ違い挨拶を交わすたびに薄れていき、人の集まる頂上に到着すると、霧が目の前から一気に立ち消えてしまうような感覚がありました。
筆者が標高559.4mの山頂にたどり着いたとき、軽登山者の愛好家たちがお互いの健闘をねぎらい、気さくな会話を楽しんでいました。山頂から北西を見ると、暴れ川の異名を誇る常願寺川の作った扇状地・富山平野の一部が一望できます。東を見ると立山連峰、大日連山、剣岳などの名峰が織りなす絶景が眺められます。そうした景観の開放感も手伝って、気分は一転して晴れやかになっていきました。
山頂の様子
ちょうど筆者が登った日は、県内東部の小学校が休みの平日で、山頂には広島東洋カープのベースボールキャップを被った地元の少年が、三角点の脇にある大きな石に腰を下ろし、空を眺めていました。聞くと一緒に登り始めた家族を置き去りに山頂へ一人で先に来てしまったそう。
尖山にちなんで妻に三角型に作ってもらったお手製のサンドウィッチを山頂で筆者が食べていると、しばらくして少年の幼い弟と妹が母に手を引かれ、登ってきました。
低山と言ってもピラミッドのように急な斜面は、子どもの足には大変な負担です。その苦労が分かる他の登山者たちからは、少年少女の登頂に思わず拍手が起こりました。そうした温かい登山家たちの交流に触れていると、ミステリアスなスポットとして好奇な目で見ていた山が、実は一方で極めて親しみのある名山なのだと気づかされます。
山頂から眺める立山連峰
尖山はミステリアスなスポットとして好奇なまなざしの対象になりがちですが、気軽に北アルプスの絶景を満喫できる爽快な登山コースとしての姿も、忘れてはいけないみたいですね。
上述した最寄りの横江駅から200mほど歩いた場所には、知る人ぞ知る超穴場のローカルコンビニエンスストア『サンダーバード』もあります。
芸能人も立ち寄るローカルコンビニエンスストア
尖山の名水とデロンギのエスプレッソマシンを使って入れたコーヒーを110円で楽しませてくれますので、尖山の伝承を信じる人も信じない人も、コーヒー片手に店外の椅子と机を陣取って山頂上空を眺めてみては? 運が良ければ何か未確認飛行物体を目撃できるかもしれませんね。
尖山近くの山道
[Photos by Masayoshi Sakamoto and shutterstock.com]