東京都立水元公園へ
韓国ドラマ「冬のソナタ」に登場した並木道…といえば覚えている方もいらっしゃるのではないでしょうか。その樹木が今回ご紹介する「メタセコイア」です。とはいえ訪ねたのは韓国ではありません。日本、それも東京都立水元公園です。
場所は東京都北東部の葛飾区。埼玉県との境界にあります。JR常磐線または東京メトロ千代田線金町駅で下車。京成バス(戸ヶ崎操車場または西水元三丁目行き)に乗車して4つ目の「水元公園」バス亭で下車。そこから歩いて5,6分で水元公園に到着します。
公園に入るとのどかな光景が広がります。しかも日本とは思えない風景。北欧のスウェーデンかフィンランド、またはアメリカのボストン郊外の風景のようにも感じます。東京でこんなに広々とした自然の光景と青空が広がっているとは。気持ちのいい公園です。
水元公園 メタセコイアの森へ
水元公園は、その名前の通りもともとは水源になっていたところで、古利根川支流でした。徳川家光の江戸川改修で川の流れが変わり、河川敷を耕作地に、支流に水を蓄えて水源とし「小合溜(こあいだめ)」といったそうです。そして戦後、東京都が土地を買い上げ水郷公園として整備したのです。
散歩する方や憩う方、釣りを楽しむ方など地域の方々の憩いの場所になっているようです。
そしてこちらはメタセコイアの森。東京都内でこれほど気持ちのいい場所はそうそうありません。まっすぐに伸びるメラセコイアが気持ちをおおらかに、心を洗ってくれるようです。
公園となって1969(昭和44)年に1900本の苗木が植樹されたそうです。間伐されていまでは1500本ほどだそうですが、都内では最大規模。植樹50年ですっかり成長してりっぱな森が出来上がっています。
じつは今年10月の台風19号の影響でメタセコイアの倒木の恐れがあり、しばらくの間この森は立ち入り禁止となっていました。
この土地がかつては湿地で軟弱地盤だったこともありますが、成長の早いメタセコイアは根の張りが弱く,倒れやすい可能性があるのだそうです。
美しいメタセコイアの森
メタセコイアは落葉する針葉樹で和名はアケボノスギといいます。ふつう針葉樹は紅葉しませんが、メタセコイアの葉は11月~12月黄色から赤味がかったレンガ色に紅葉して落葉します。
葉はモミの木のように細長くなっています。年末になるとその葉先から黄色から赤みを帯びてきます。そして1月には落葉してしまいます。今が見ごろなのです。
「生きた化石」と呼ばれるメタセコイア
戦前の日本にはメタセコイアは1本もありませんでした。当時、植物学者の三木茂博士は岐阜や和歌山などの古い地層から出土するメタセコイアの化石を研究し、論文を発表していました。
そしてメタセコイアは100万年前に絶滅したと考えられたのです。セコイアとはヒノキやスギの仲間の常緑針葉樹。メタセコイアのメタとは「後の」とか「変わった」という意味の言葉なのだそうです。
ところが三木博士の論文から5年後の1946年に中国四川省でメタセコイア、現地の呼び名で「水杉(スイサン)」が「生きている化石」として発見されます。研究者たちは驚きました。絶滅種が生きていたのですから。
そして内戦中だった中国で現地調査を行ったアメリカ・カリフォルニア大の古植物学者チェイニー教授が種子をもらい、挿し木の手法で苗木を増やします。その後1950年に100本の苗木が日本へ贈られました。
日本に贈られた100本の苗木は殖やして各地で挿し木の手法で増やされ、全国各地に広がることになったのです。
また1952年から1954年にかけて、大阪の教科書会社である大阪書籍が同社の教科書を採択した西日本の学校700から800校にメタセコイアを2,3株ずつ寄贈したといい、その数は合計で1万本以上にのぼったそうです。
昭和天皇とメタセコイア
さらにメタセコイアは昭和天皇のもとにも贈られました。昭和天皇は植物学者ですから、贈られたメタセコイアの成長をずいぶんと気にかけていたようです。昭和天皇は最後の出席となった昭和62年の歌会始で「わが国のたちなほり来し年々にあけぼのすぎの木はのびにけり」と詠んでいます。
「あけぼのすぎ」とはメタセコイアの和名です。戦争で荒廃した日本が復興していくさまを「あけぼのすぎ」に例えて詠んだ思い入れ深い歌だったといいます。このメタセコイアはいまも吹上御苑の花陰亭近くにあり、高さ20m以上、幹の周りも2mを越えているといいます。
ちなみにアメリカから日本に贈られた100本のうちの1本が大阪府交野市にある大阪市立大学理学部附属植物園で今も育てられています。いつかそのメタセコイアにも会いに行きたいと思っています。
住所:葛飾区水元公園3-2
電話(水元公園サービスセンター):03-3607-8321
HP:https://www.tokyo-park.or.jp/park/format/index041.html
[All Photos by Masato Abe]