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世界稀なる「陶板名画美術館」は、愛すべき画家たちへのオマージュ【徳島県・鳴門市】

Posted by: 鈴木幸子
掲載日: Dec 18th, 2019.
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2018年の大晦日、NHK紅白で米津玄師が「Lemon」を歌った中継場所は、徳島県鳴門市の大塚国際美術館でした。バチカン市国のシスティーナ礼拝堂の壁画を陶板で原寸大に再現した空間は、ライトアップされて神秘的な空気を醸し出していましたね。その影響もあってか、取材時、美術館は平日にも関わらず多くの人で溢れていました。世界の名画1086点が鑑賞できる大塚国際美術館、その驚くべき製作技術や楽しみ方をリポートします!


徳島の発展を願う、大塚グループの社会貢献


レオナルド・ダ・ヴィンチやミケランジェロ、ゴッホからピカソまで、陶器の板の表面に絵画の写真を転写して焼き上げる陶板名画が1086点。全世界の有名美術館から許可を得ている、世界に類を見ない唯一無二の陶板名画美術館は、鳴門海峡を臨む瀬戸内海国立公園内に建てられていますが、まずこの美術館の造りにご注目ください!


美術館は国立公園内のなだらかな山の傾斜地をうまく利用して建てられています。正面玄関から約40mのエスカレーターを上がったところが地下3階となっていて、展示スペースは全5階建て。1階の庭園からは鳴門の海が見渡せます。国立公園内であるため、景観を壊さないように一旦山を削り取り、地下5階分の構造物を造ったうえでまた埋め戻すという難工事が行われたそうです。


大塚グループといえば、ポカリスエットやオロナミンC、オロナイン軟膏、ソイジョイ、ボンカレーなど、超人気ロングセラー商品を世に送り出した大企業ですが、創始者は徳島出身ってご存知でした? 大塚グループ創立75周年事業として1998年にこの「大塚国際美術館」が建てられました。

同グループの社員2名が、鳴門海峡の砂を利用してタイルを作りたいとう思いから製造が始まり、さらに高度な技術を深めるために滋賀県信楽町の近江化学陶器と合併して、新会社「大塚オーミ陶業」を設立。徳島と大塚のために、という思いが大型陶板の開発へと導いたのです。

世界の美術が時代ごとに楽しめる展示


5階分の展示フロアは、地下3階が古代、中世、地下2階がルネサンス、バロック、地下1階はバロック、近代、1~2階は現代、という流れで展示されています。つまり、各階を順に回れば、ある程度世界の美術史が頭に入るようになっていますので、絵画好きの大人のみならず、子供たちの絵画の学習には最適といえるでしょう。


もしも我々が子供の頃に、このような世界の名画や作家たちについて学べる場所があったなら、今よりもっと美術についての造詣を深められていたかもしれない、と羨ましく感じます。

各時代の美術史家が選ぶ名作がズラリ

素晴らしいのは、とにかく、各時代の主要な、絶対に外せないスター作家たちの作品はもちろんですが、美術の教科書には出てこないような、たとえば、オランダのネーデルランド絵画、キュビズムやポップアートなどの現代美術に関しても、ジョルジュ・ブラックやファン・グリス、モンドリアンなどの展示があり大変趣味が良いのです。

学芸員の方に「全ての作品を選ばれるのはどなたでしょうか?」と尋ねると、「中世、バロックなどそれぞれの時代の美術専門家(絵画学術委員)の方々に選んでいただいています」との返事。資料を見てみると、たとえば東京大学名誉教授の青柳正規氏など錚々たる顔ぶれです。

陶板名画の製作過程

すべての作品は原寸大。陶器の表面は約1300度の高温で焼き付いているので、2000年は変色しないということ。半永久的な耐久性を持つ陶板名画は、貴重な美術品・文化財の記録保存という意味においても、現在世界から注目されている技術です。


絵画に近付いて、直接作品にそっと触ることもできます。たとえばイタリア、ポンペイの『秘儀の間』には、漆喰の上に絵の具を重ねていくフレスコ画が描かれていますが、表面はザラッとしています。ゴッホの『ヒマワリ』は、絵の具の盛り上がりがあったりと、画家のタッチや画材の素材感も実際手で触って感じられます。


この製作過程は下記です。地下3階の陶板紹介コーナーでこの過程が写真ともに紹介されています。

1、原画の著作権・所有者への許諾取得
2、パソコンに取り込んで色分解
3、転写紙に印刷する
4、陶板に転写
5、焼成
6、レタッチ(技術者の手作業により、作者の筆遣いなどを追及)
7、焼成
8、検品


最新のものは3Dの技術で計測し制作されているものあるそうです。立体的な火焔(かえん)土器なども再現されており、持ち上げて重さを感じることもできます。


なんと額縁までデザイン・素材ともできる限り同じものを再現しているというから驚きです。レオナルド・ダ・ヴィンチの『モナ・リザ』は、かつてルーヴル美術館で額縁ごと盗難に遭い、本物の絵が戻ってきてからは別の額縁に入れて展示を始めたそうですが、こちらでは盗難前に飾られていた額縁と同じデザインのもので展示されています。ある意味、大変貴重です。

『最後の晩餐』の修復前と修復後を比べられる!


この美術館でしかできないことがあります。地下2階にあるレオナルド・ダ・ヴィンチの『最後の晩餐』の修復前と修復後の比較です。上は修復後、下は修復前。


修復の成果はもちろんですが、修復された後に、たとえば中央に描かれているキリストの口元が少し開いることから、「裏切り者がいる」と話している瞬間が描かれたことが判明したそうです。また裏切り者はどの人物かというのも、顔に光が当たっていないことや、手の動作などから判別できるなど、間違い探し的な見方が楽しめるのもこの美術館ならでは。

カフェでいただきたい「ムンクのどら焼きセット」


レストランやカフェは全館に3つあり、今回は地下2階の「カフェ・ド・ジヴェルニー」で秋冬限定の「ムンクのどら焼きセット(600円)」をいただきました。叫んでしまうほどおいしい、とムンクの焼き印が入ったどら焼き。鳴門金時餡と小倉餡の2種が挟まったどら焼きは、確かに美味! 徳島名物の阿波晩茶が、独特な味わいの珍しい発酵茶(乳酸発酵)だったので、夜、阿波踊り会館で購入しました。


こちらは「カフェ・ド・ジヴェルニー」のテラス席。ここから海側に少し歩いていくと、屋外にモネの『大睡蓮』が展示してあります。


「自然光の下で見てほしい」というモネの願いを叶えるために外に展示したそうです。

再現とはいえ、リアルで迫力のある世界の主要な名画の数々を、時代順に、それも原寸大で一気に見られるという体験はなかなかできることではありません。

いつか世界各地や日本の展覧会で見た大好きな絵に再会して、違う感想や印象を持ったり、または「何度見ても、やっぱり好きだわ!」と改めて感じるのも、絵画鑑賞の醍醐味ではないでしょうか。


3300円という入館料にも関わらず、2018年には年間42万人が訪れた評判の大塚国際美術館。臨場感あふれるアーティスチックな展示方法、そして素晴らしい作品を生み出してくれた著名画家たちへのオマージュをぜひとも感じ取っていただきたいと思います。じっくりと時間を取って出かけてみませんか。

大塚国際美術館
住所:鳴門市鳴門町土佐泊浦字福池65-1
営業時間:9:30~17:00(入館券販売~16:00)※カフェ・ド・ジヴェルニーは、10:30~16:00 (フードメニューは14:30まで、要入館料)
休館日:月曜(祝日の場合は翌日休)※1月は連続休館あり、8月無休、その他特別休館あり
入館料:一般3300円、大学生2200円 、小中高生550円
電話番号:088-687-3737(代表)
HP:https://o-museum.or.jp/

鈴木幸子

sachikosuzuki 旅行記者、エディトリアル・ディレクター
出版社勤務や地球の歩き方編集を経て2001年に独立。世界60か国以上を頻繁に取材し、一期一会のハッピーな記事を書いています。JTBるるぶ「アンコールワットとカンボジア」初版制作。著書『もち歩きイラスト会話集タイ/池田書店』、『みやざきの自然災害』ほか。有限会社らきカンパニー主宰。「らき」はギリシャ・クレタ島の地酒の名前です。


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