全国でチョコレートに対する支出が最多のまちは金沢市
全国で最もチョコレートにお金を使う人たちは、石川県金沢市に暮らす人たちと知られています。
過去にTABIZINEでは「日本一アイスクリーム好きな県、実は食べない県が意外な結果に・・【ちょっと面白い都道府県ランキング】」で、石川県民のアイスクリームの消費量の多さについて取り上げましたが、石川県の県庁所在地である金沢市民はチョコレートの消費量もNo.1なのです。
日本の総務省では毎年「家計調査」が行われます。
<国民生活における家計収支の実態を把握し,国の経済政策・社会政策の立案のための基礎資料を提供する>(総務省のホームページより引用)
目的で、県庁所在地や大都市、人口5万人以上の市、人口5万人未満の市、および町村など、全国の市町村に対して毎月実施されます。
その調査結果をベースに、2017年(平成29年)〜2019年(令和元年)の平均値を算出して、菓子類に支出した額が大きい地域(県庁所在地、政令指定都市、東京の都区部)をランキング化もしています。
例えば、せんべいに対する支出が多い地域は栃木県宇都宮市、ゼリーに対する支出が多い地域は岩手県盛岡市といった具合に、菓子類別にどの地域で最も支出が多いのか一覧にされているのですね。
その中で、各家庭におけるチョコレートへの支出額の大きい自治体が、石川県金沢市とされています。金沢市民は菓子類全体に対する支出が全国で最も多く、冒頭でも触れた通り、アイスクリーム・シャーベット、そしてケーキなどの支出も全国で最多です。
金沢市の様子 image by Masayoshi Sakamoto(坂本正敬)
さらに、今回のテーマであるチョコレートに対する支出も、2017年(平成29年)〜2019年(令和元年)の平均で見ると全国No.1。どうして金沢ではチョコレートに対する支出が、これほど多いのでしょうか?
江戸末期に大阪から送られた砂糖は北陸が全国でも多かった
ヒントは、日本アイスクリーム協会と大妻女子大学が作成した「金沢アイスクリーム調査報告書」が参考になるかもしれません。この報告書のテーマはあくまでもアイスクリーム。金沢でなぜアイスクリームがたくさん売れているのか、アイスクリームに支出する金額が大きいのかについて考察が述べられています。
この情報がチョコレートへの支出を考える際に、とても参考になります。例えばアイスクリームへの支出の多さとして、
- 1.スーパーで箱入りのアイスクリームがかなりの頻度で安売りされている
- 2.冬は積雪が多いために暖かい部屋で過ごす時間が長い(暖かい部屋でアイスクリームを食べる)
- 3.自由に使えるお金が多い(暮らしに余裕がある)
- 4.甘い食べ物への強い嗜好(しこう)がある
などが理由として挙げられています。
筆者は北陸に暮らし、北陸でウェブメディアを運営している関係から、冒頭に紹介したTABIZINEの過去記事「日本一アイスクリーム好きな県、実は食べない県が意外な結果に・・【ちょっと面白い都道府県ランキング】」で、どうして石川や富山でアイススクリームが多く消費されるのか、コメントを求められる機会に恵まれました。
その中で4については確たるデータがなかったため、なんとなく感じていたものの、コメントを控えていました。しかし、「金沢アイスクリーム調査報告書」では、金沢市民の甘い食べ物への嗜好が語られています。
同報告書によれば、江戸末期に大阪から全国に送られる各種砂糖の量を比較すると、一大消費地である江戸を除けば、加賀・能登(現在の石川)、越中(現在の富山)、越後(現在の新潟)など北陸が、筆頭だったといいます。
金沢、さらに富山県西部の旧加賀藩だったエリアなどでは、広い家に同居している家族が、常にアイスクリームを食卓に集って食べているイメージが、実際には筆者にもありました。北陸では甘い食べ物が昔から好まれていた(砂糖が消費されていた)というデータは、存在していたのですね。
和菓子に対する好みをチョコレートやアイスクリームが引き継いだ
この事情は、アイスクリームだけでなく、チョコレートに対する支出の多さでも、共通する背景になりそうです。
甘い食べ物への強い嗜好がもともと北陸にあり、その好みを自由に楽しむだけの経済的なゆとりが、同じく北陸の人たちにはあります。
中でも金沢はもともと、京都、松江(島根県)と並んで、日本三大菓子処といわれてきました。それこそ和菓子の文化が金沢ではとても盛んで、市内にはさまざまな和菓子の名店があります。その充実ぶりは、北陸3県の中でも突出しています。
筆者は北陸で『HOKUROKU』というウェブメディアの編集長を務めており、そのメディアで北陸に暮らす各界の人たちに「おもたせやお中元に利用している北陸のおやつは?」と聞きました。
金沢に関しては柴舟小出(金沢市)の「水てまり」や「白桃」、中島(金沢市)の「葛きり」など、さまざまな名店の和菓子が出てきました。TABIZINEの過去記事「ツウがこっそり教える、粋な金沢土産10選【銘菓編】」でも、たくさんの銘菓が紹介されていました。
江戸末期に大阪から大量に送られていた各種の砂糖は、こうした和菓子づくりに生かされていたと考えられます。もちろん和菓子はさまざまな形で、庶民の口にも入っていたはずです。
これらの食文化が明治時代になっても金沢では引き継がれ、さらに第二次世界大戦でも空爆を経験しなかったため、戦後には文化的継続性の中で市民の選択肢が早い段階で広がったと考えられます。
結果として、甘い食べ物への好みがアイスクリームやチョコレートにもシフトしていったのかもしれませんね。
残念ながら今は、新型コロナウイルス感染症の影響で、金沢に自由に旅行ができる世の中ではありません。
しかし、金沢には老舗の酒蔵「福光屋」がつくった「SAKE CHOCOLAT(サケショコラ)」や、老舗和菓子店「落雁諸江屋」の「千代古禮糖(ちよこれいとう)」など、金沢らしいチョコレートも多いです。
こうした商品を今年は自分用にも取り寄せて、日本一チョコレートへの支出が多い金沢のチョコレート文化を感じてみてもいいのかもしれませんね。
[参考]
※ 家計調査(菓子類 2017年(平成29年)~2019年(令和元年)平均) – 総務省
※ 日本アイスクリーム協会、大妻女子大学「金沢アイスクリーム調査報告書」
※ おもたせやお中元にも。あの人の夏のお菓子。(前編) – HOKUROKU
※ チョコレートの季節 – 総務省
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