アクセス便利な「霧ヶ峰・八島湿原」へ
沼にハマってしまいました。そう、まさに沼、湿原なのです。高層湿原。高層湿原とは標高1,200m以上の高所にある湿原のことで、あの尾瀬ヶ原も高層湿原です。尾瀬ヶ原へ行くには1時間は歩かなくてはなりませんが、八島(やしま)湿原はすぐ近くまで車で乗り付けられる、とてもアクセスのよい湿原なのです。
八島湿原へ車で出かけるなら、中央道の諏訪ICから40分ほど。また、上信越道の佐久南ICからでは1時間ちょっとでアクセスできます。
公共交通機関では、7月から10月までJR中央本線茅野駅と上諏訪駅からアルピコ交通のバスが運行されています。茅野駅からだと1時間20分ほど。上諏訪駅からは45分ほどでしょうか。
茅野駅や上諏訪駅から霧ヶ峰高原への長い急斜面を車で上っていきます。高原の木立の中を走るこの道は気分が良いものです。八島湿原入り口の前に大きな駐車場があり、無料で開放されています。ビジターセンターもあるので、ここを見学してから歩くのがおすすめです。
八島湿原は1万2,000年前から長い時間をかけて形作られた古い湿原といい、総面積は43.2ha。泥炭層は地下8mにも達しています。もっとも下の層はヨシやスゲが泥炭化したもの。中間はオオミズゴケやワラミズゴケなどのヌマガヤ湿原。上の部分はミズゴケなどで構成されているといいます。
八島湿原では年間360種もの花が咲く
湿原の周囲に木道が張り巡らされているので、両脇の花々を観察したり、写真を撮ったりしながら歩きます。
毎年7月から8月上旬が花々の最盛期。筆者が訪れたのは7月の上旬で、ちょうど上の写真、ニッコウキスゲの花が咲き乱れていました。尾瀬などの湿原でも咲いていますね。ちなみに学名は「Hemerocallis(ヘメロカリス)」といい、ギリシャ語の「hemera」(1日)と「callos」(美しい)を合わせた言葉といいます。訳すとしたら「美人薄命」でしょうか。
ハクサンフウロも、高山に咲く可憐な花。石川・岐阜両県にまたがる白山で確認されたことから名付けられました。上の写真では淡いピンクの色でしたが、紫がかった花もあり、濃淡はさまざまです。
上の写真はキバナヤマオダマキ。オダマキはときどき庭に咲く花として見かけることがありますが、上の写真は山に咲く黄色のオダマキなので、この名が付けられているのでしょうね。
下の写真はグンナイフウロ。初めて見ました。北海道西部、本州の磐梯山から伊吹山に分布しているそうです。グンナイ(郡内)とは山梨県にある地名だそうで、たぶんそこで確認されたのでしょう。
トイレを心配する人も多いかもしれません。駐車場のほかにも湿原の周囲に2カ所トイレがあります。バイオトイレできれいに管理されていました。チップ制なので100円を目安に。
住所: 長野県諏訪郡下諏訪町八島湿原10618(八島ビジターセンターあざみ館)
電話:0266-52-7000
公式サイト:https://shimosuwaonsen.jp/yashima/
八島湿原でちょっと休憩するなら「ヒュッテみさやま」
上の写真は八島湿原の近くにある御射山(みさやま)神社です。湿原から歩いてすぐ。以前TABIZINEでご紹介した「ヒュッテみさやま」がすぐ隣にあります。
御射山神社は、古くは御柱祭の諏訪信仰と関わりが深く、鎌倉幕府の時代には、この広い草原では全国から集まった武士たちによって「狩り」の神事が行われたそうです。そして彼らが故郷に戻り、諏訪大社や御柱の信仰を広めたともいわれています。
ちなみに、この御柱祭は7年に一度しか行われません。その節目が2022年の今年。4月から6月15日まで諏訪市、茅野市、下諏訪町にある諏訪大社の上社、下社の四社殿などで行われています。ただコロナ禍のために、注目の木落しは中止となったそうです。
さて、その御射山神社にお隣にあるのがヒュッテみさやま。
散策に疲れたら、こちらで休憩です。この時はパウンドケーキとコーヒーをいただきました。こちらは宿泊もでき、夏のランチでは、ピラフやカレーを味わうこともできます。
八島湿原を歩きお茶をいただいていると、時間が止まったような、ぜいたくな気分になります。
もう少し足を運べば、車山高原。そこからは雄大な八ヶ岳や富士山の姿も望むことができますよ。
住所:長野県諏訪郡下諏訪町八島湿原10618
電話:0266-75-2370
公式サイト:http://park19.wakwak.com/~misayama/html/top.html
下諏訪温泉の老舗「かめや聴泉閣」へ
下山後に向かったのは、諏訪湖畔。八島湿原から車で1時間もかかりません。諏訪湖畔には近代的なビルの上諏訪温泉と古くからの下諏訪温泉があります。今回は、宿場町の風情が残る下諏訪温泉に宿を取りました。
「聴泉閣かめや」はなんと創業300年という歴史のある宿です。今では経営は変わったそうですが、江戸から29番目の宿場町の本陣だった宿といいます。本陣とは身分が高い者が泊まった宿舎で、大名や旗本、幕府役人、勅使、宮門跡たちだけが宿泊を許された宿です。
すぐ隣には諏訪大社の下社秋宮があります。
宿の玄関前が中山道と甲州街道の合流地点となっています。周辺には古い宿場町の街並みも復元されていました。
宿の注目は上の写真の「上段の間」。実はこの部屋は、仁孝天皇の第八皇女だった和宮 親子内親王が江戸幕府第14代将軍・徳川家茂に嫁ぐとき、京都からの旅の途中に宿泊した部屋なのです。当時のまま残されていて、宿泊客は見学することができます。
建物は2013年にリニューアルしたそうで、玄関ロビーは和モダンな雰囲気。落ち着いた大人の宿です。
ロビーには古い宿帳などの記録が展示されていました。この宿には小説家の島崎藤村もしばしば宿泊したといいます。また芥川龍之介や与謝野鉄幹・晶子夫妻、西条八十、宇野浩二などの文学者たちも宿泊し、彼らの名前を残していました。
客室もゆったりとしています。すぐ隣には歴史ある諏訪大社の下社秋宮の杜。窓の向こうに鬱蒼とした木立が広がります。
そして最上階に展望風呂があります。下諏訪温泉は「綿の湯」と呼ばれてきました。その昔神さまが化粧水を浸した綿を置いた場所からお湯が沸いたと伝えられるそうです。その「綿の湯源泉」と、共同浴場でもある「旦過の湯」の源泉「旦過第一源泉」の混合泉とのことで、泉質は弱アルカリ性の単純泉。
大きなガラス窓の向こうの諏訪大社に思いを寄せながら、柔らかなお湯を味わいました。
夕食は見た目も味も絶品
夕食は個室でいただきました。まずは付出(先付)。野菜のお寿司や無花果の生春巻き、嶋鯵南蛮漬に太刀魚のアスパラ巻きなどなど。とてもきれいに盛り付けられています。
上の写真はおすすめの地酒セット。信州諏訪は酒蔵の街として知られています。500mの間に「真澄」や「本金」、「麗人」、「信州舞姫」そして「横笛」の5つもの蔵元があります。
玉蜀黍をすり流した真丈やジュレを乗せた夏野菜の含め煮に冷やし素麵、信濃雪鱒などのお造りなど、手をかけた逸品が続きますが、和風だけでは飽きてしまうだろうと工夫もしています。上の写真は丸茄子のグラタン。
こちらは信州牛とレタスのお鍋。高原レタスも信州の特産ですね。新鮮でさっぱりして、いくらでも牛肉を食べられる感じでした。
そして〆は鮎ごはん。上品な味わいで絶品。ごちそうさまでした。
宿の周囲には諏訪大社だけでなく、宿場町の風情が残っていて、散策にもぴったりです。翌日は歴史ある街並みを歩いてみました。
[All Photos by Masato Abe]