「十分」の意味
「十分」は、満ち足りていて、不足がないこと。漢数字の「十」が使われていることからもわかる通り、一、二、三……と順番に満たされていき、十になって初めて不足がない状態となったことを表しています。数や量が満たされていて、客観的に見ても満たされていることがわかる、というニュアンスがあります。
また、あるものを10に分けること、という意味もあります。
食料の買い出しはこれで十分でしょう
「十二分に力を発揮してください」のように、「十分」の代わりに「十二分」を使うと、意味をより強調することができます。十分は100%、十二分は120%と覚えておきましょう。
「充分」の意味
「充分」も、満ち足りていて不足がないこと。基本的には、「十分」と同じ意味ですが、「充分」には「十分」のように数や量が満たされているというニュアンスはなく、もっと感覚的・主観的に満たされているというニュアンスがあります。プラスのニュアンスが強く、「充分に気を付けて」という使い方はしません。
そう言っていただけるだけで、私には充分です
「十分」と「充分」の簡単な覚え方
「十分」と「充分」は基本的に同じ意味。文科省では「十分」を使うことを推奨していて、「充分」は当て字であるとしています。ただし、「充分」を使っても間違いではありません。
基本的には「十分」を使うようにして、「感覚的・主観的に満ち足りている」というニュアンスを表現したいときは「充分」を使う、と使い分けるとよいでしょう。
また、「十分時間をかけて説明します」などのように、文字だけでは「じゅうぶん」か「じゅっぷん」かわかりづらい場合には「充分」を使うとよいでしょう。あるいは「じゅうぶん」→「不足のないように」、「じゅっぷん」→「10分」と書き換えるのも一つの方法です。
【クイズ】適切なのはどっち?
1→充分
2→十分
1の正解は充分。幸せという主観的な尺度に対して使っているので、「充分」がしっくりきます。もちろん、「十分」も問題なく使えます。
2の正解は十分。蓄え(=貯金、資産)という数量的な尺度に対して使っていますし、警告のニュアンスが強いので、「充分」より「十分」がいいでしょう。
国語講師。都内大学受験塾・カルチャースクールで講師を務める他、書籍執筆、講演、企業研修、三鷹古典サロン裕泉堂の運営などの活動に取り組んでいる。NHK Eテレ『知恵泉』、NHK‐FM『トーキングウィズ松尾堂』など、テレビ・ラジオにも出演。著書に『大人の語彙力が使える順できちんと身につく本』(かんき出版)や、『大人に必要な読解力が正しく身につく本』(だいわ文庫)など多数。