市場移転で「兵どもが夢の跡」と化した築地を歩く
浮世は誠に移ろいやすく、「人の噂も七十五日」というのが世の常。たまに通っていた道沿いで不意に空き地を目にして「ここ、前は何があったっけ……?」などと、モヤモヤした気持ちになりつつも、3分もたてば忘れている。人間の記憶力などそんなものです。
つい先日、野暮用で築地を訪れた際のこと。かつての市場跡が白い衝立で塞がれている光景を見て、そんな感傷に浸る瞬間がありました。その前を歩く人もほぼ素通りで、活気に満ちた往時の雰囲気は皆無です。場外市場は相変わらず人通りが多いものの、その移ろいには戸惑いすら覚えました。
市場が豊洲に移って4年弱。当時は跡地利用だの道路の建設だのと持て囃され、昨年の五輪開催中は駐車場や関係車両の基地として使われたようですが、側から見る限り、有効活用されているようには見えません。目の前に勝鬨橋や隅田川が控え、浜離宮や銀座の街も近い立地ですから、現状の寂しさが余計に目立つような気がしてなりません。
釣りの前の大漁祈願。市場関係者に愛された神社へ
市場跡の周りをぐるりと歩き、裏手にある「波除稲荷神社」へと向かいます。ここは350年ほどの歴史を持つ由緒ある神社であり、災難除け・厄除け・商売繁盛・工事安全などを祈願する人が多く訪れます。
土地柄、市場関係者からの崇敬も篤く、その証拠に境内には「すし塚」「海老塚」「玉子塚」といった珍しい石碑が建立されています。
創業店が築地市場にあった牛丼チェーン「吉野家」の碑も奉納されており、何かと見所の多い神社でもあります。
住所:東京都中央区築地6-20-37
煌びやかな夜景に目をやりつつ、隅田の流れに「タイ」を追う
旧築地市場の周りをぶら歩きし、日が暮れかけた頃合いで勝鬨橋脇から隅田川の河原へ降りていきます。この周辺は「隅田川テラス」と名付けられ、ベンチなどが整備された親水護岸。
周辺の高層ビルや街灯のおかげで夜も明るく、ライトアップされた勝鬨橋などを眺められることもあって、夜も人通りが多い場所です。仕事帰りにおしゃべりを楽しんだり犬を散歩させたり、ジョギングを楽しむ人も頻繁に通ります。
隅田川に面したこの護岸は釣りも可能。通行人が多いため周囲の安全確認が欠かせませんが、公共交通機関のアクセスが良いこともあり、釣り人には知られたポイントです。
持参した道具を準備し、ハリにはアオイソメという虫エサを付けて足下の護岸際に落とし込みます。狙いはスズキとクロダイ。河川内とはいえ潮の満ち引きの影響が大きい「汽水域」ですから、釣れるのは海水魚が中心です。
仕事終わりの方々や学生グループが背後でおしゃべりを楽しむ中、竿を操りながら横移動を繰り返します。護岸際に居着いた魚を狙う釣り方ですから、移動しながら広く探って魚と出会うチャンスを待ちます。側から見ると非常に地味ですが、やっている本人は不意の魚信への待望に胸を高鳴らせているのです。
釣り初めて30分ほどが経過した頃、仕掛けを海底まで沈めている途中で「ブルルッ!」という振動が竿を通じて伝わりました。一呼吸置いてから弛んでいた糸をピンと張ってやると、「グングングン!」という手応え。大物ではありませんが、左右に泳ぎ回って楽しませてくれます。
掛かっていたのは30cm強の「クロダイ」でした。メタリックな体色ではあるものの、立派なタイの一種。最大で60cmほどまで育つため、このサイズはまだ若魚であり、釣り人からは「カイズ」と呼ばれます。
今回は食材確保を狙った釣行ではないので、ハリを外してリリースします。しかし、その直前に赤ら顔で上機嫌の通行人に見つかってしまい、しばし絡まれるハメに……。
その後もさらなる大物を狙って探り歩きましたが、魚の反応は得られませんでした。それでも夕涼みがてらの2〜3時間で十分楽しむことができ、有意義な時間を過ごせました。
住所:東京都中央区築地6-19-20 ニチレイ東銀座ビル
[All photos by オオモトユウ]