北海道ガーデン街道というルートを知っていますか? 国立公園にも指定される大雪山系の丘陵地帯から、旭川、富良野、十勝平野、帯広へと続く国道に沿って、8つの個性的な庭園があり、庭園巡りを楽しめるようになっています。
個人的に帯広には縁があるため幾つかのガーデンに訪れた経験がありますが、今回は旭川にある「上野ファーム」に行ってきましたので、その魅力を紹介したいと思います。
お米農家がスタートした英国式の北海道ガーデン
北海道の旭川と言われたら、何を思い浮かべますか? 動物園、家具、しょうゆラーメン、北海道第二の都市など、さまざまなイメージがあるかと思いますが、今では上野ファームも旭川を代表する観光スポットになっています。
そもそもこのファーム、元々は米農家だったというユニークな歴史があるそう。お米の個人販売をスタートしたところから全てが始まり、個人販売をすると、顧客が直接農場に足を運んでくれる機会が増えてきたと言います。その人たちに美しい農村風景を楽しんでもらおうと、田んぼのあぜ道や農道の脇に花を植えて魅力的な景観づくりを始めたところから、庭園としての歴史がスタートするのだとか。今から30年くらい前の話ですね。
その後、散策のために石畳の小道が作られたり、一年草に加えて宿根草(しゅっこんそう)が600坪ほどのエリアに植えられたりと庭園は充実していきます。さらに都市と農村の交流地点にしたいというオーナーの思いから、900坪の休耕地がダンプ500台ほどの土で埋まり、排水対策が行われ、堆肥(たいひ)が入り、ガーデンは広がっていきます。2001年には一般公開がスタート。来場者が増え、庭園に咲いている花を求める来場者に対して、苗の直材所もオープンします。さらに敷地内に雑貨店、カフェが誕生し、庭園も大きくなって、今では北海道を代表する庭園の1つになりました。
射的山の傾斜も味わい深い
正直に言えば、筆者はヨーロッパの庭園よりも日本庭園の方が好みです。池泉式庭園にせよ、石庭にせよ、露地にせよ、日本庭園には独特の静けさとたたずまいがあって、飛び石や踏み分け石1つをとっても非対称的で、いびつな曲線を描きながら配置されているところなどが、見ていて落ち着きます。
しかし、ヨーロッパの庭園と言っても、幾何学的なフランス式と異なり、英国式の庭園は自然の風物を生かした曲線と起伏の多い庭園作りが特徴だと言います。10個のゾーンで構成された上野ファームも例外ではありません。
庭園内の一部には「ミラーボーダー」、「サークルボーダー」など左右対称に作られたゾーンもありますが、基本的には緩やかな曲線と起伏で構成されており、記念撮影のスポットとして多くの観光客が立ち止まる「ノームの庭」には、野草と花が混じり合って咲いています。
敷地内にある標高171mの射的山に設けられた「ノームの散策道」も、歩きやすさを考慮してウッドチップが敷き詰められていますが、自然な森の中を歩いているような感覚になれます。山の頂上からは上川盆地が一望出来て、斜面には花が咲き誇っていました。自宅にイングリッシュガーデンを造りたい、あるいは造っていると思しき年配の女性が、「まねしたい」と盛んに声を漏らしていました。
しゃがんで花と同じ「目線」になってみる
訪問に先立って、知人で庭に詳しい友人に、ヨーロッパ式の庭園の眺め方も聞いておきました。その人によれば、花の美しいヨーロッパ風の庭園は、全体の景観を眺める視点と、立ち止まって花の細部に注目する2つの視点が必要になってくるのだとか。
敷地の広い北海道のガーデンは、全体の景観も美しいですが、パッと見て周るだけでは、すぐに鑑賞が終わってしまいます。極端な話、何の印象も残らないまま終わってしまう恐れもありますので、立ち止まってしゃがみこみ、花の「目線」になって、花とじっくりと向き合うと、また異なる楽しみが満喫できるみたいですね。
筆者もその通り、気になる花の前でしゃがんで、花をじっくり眺めてみました。特別な知識がないため、突っ込んだ何かを感じられたわけではありませんが、よくよく眺めてみると、花の細部は極めて神秘的な作りになっていると気づきます。
普段は気にも留めない花の細部に小さな虫がついていたりして、生命の営みも感じられます。耳元を横切るハチの羽音が余計に大きく聞こえてきたり、初夏の道北の風が草木を揺らす様子がいつもより鮮明に見えたり。全体だけでなく、細部に注目する効果の1つなのかもしれませんね。
NAYA café
以上、旭川にある上野ファームについて紹介しましたが、いかがでしたか? 園内にはガーデナーのためのアイテムや小物が並んだガーデンショップ、古い納屋を生かした「NAYA café」もあります。
JR石北線「桜岡駅」から徒歩圏内、旭川の市街地、道央自動車道の旭川北I.C.、さらには旭山動物園も比較的近所にあります。4月~10月中旬と同園が開園している時期の旭川旅行では、無休で開いていますので、ぜひとも立ち寄ってみてください。入園料は大人800円、小学生以下は無料です。
上野ファーム
http://www.uenofarm.net/index.php 住所 北海道旭川市永山町16丁目186番地
(射的山という小さな丘のふもとにあります)
電話 0166-47-8741
営業時間
●ガーデン公開期間
2018年度 4月21日〜10月14日
●ガーデン公開時間
10:00〜17:00
●定休日
ガーデン公開期間中は休まず営業
入園料
・大人800円 小学生以下は無料です
(中学生から大人料金となります)
・団体割引 大人700円(15名様以上)
小学生以下は無料
●ガーデンパスポート・・・1,000円
四季折々に変わるガーデンに一年中通して何度でも入場できる特典も付いた、お得な年間パスポートです。いつも見に来てくださる皆様には是非こちらをお勧めします。
●ガーデンパスポート特典
ガーデンの閉園期間(10月〜4月)NAYAcafeでフードやデザートをご注文の際にパスポートを見せていただくと対象ドリンクが飲み放題になります。
[All Photos by Masayoshi Sakamoto]
Masayoshi Sakamoto 翻訳家/ライター
翻訳家・ライター・編集者。東京生まれ埼玉育ち。成城大学文芸学部芸術学科卒。現在は、家族と富山に在住。小学館〈HugKum〉など、在京の出版社および新聞社の媒体、ならびに〈PATEK PHILIPPE INTERNATIONAL MAGAZINE〉など海外の媒体に日本語と英語で寄稿する。 訳書に〈クールジャパン一般常識〉、著書(TABIZINEライターとの共著)に〈いちばん美しい季節に行きたい 日本の絶景365日〉など。北陸3県のWebマガジン〈HOKUROKU〉(
https://hokuroku.media/ )創刊編集長。その他、企業や教育機関の広報誌編集長も務める。文筆・編集に関する受賞歴も多数。
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