
丘のすごさに気づく
北海道・美瑛町の「赤い屋根の家」の見える丘。ハウス食品「北海道シチュー」のCMでも知られる
そのことに気づいたのは、旭川空港から美瑛や富良野をめぐる車窓をぼんやり眺めているときでした。
何だか、丘が、すごい。
美瑛町の新栄の丘展望公園。360度美瑛の丘を見渡せ、夏~秋にかけて、サルビアやヒマワリの花が咲く
上富良野町の名もなき丘
なめらかな丘の稜線が、心をなでていく。
雄大なパノラマの世界を前に、心の凸凹がならされ、広く平たくなってゆく。
丘の絶景は、空と大地が、近い。
むくむく湧く雲に好奇心がくすぐられ、青々とした空に心が涼やかに彩られる。
美瑛町の四季彩の丘。夏は色鮮やかな花畑や雄大な景色を、冬は雪化粧した丘で迫力満点のアクティビティを楽しめる。筆者が訪れた6月は、サルビアが紫に丘を彩っていた
上富良野町のジェットコースターの路は、かみふらの八景の1つ。道路が波打つような丘に4.5kmに渡りのびている
ギャラリー「拓真館」で予感が確信に変わる

次々と車窓に現れる丘から目が離せなくなってしまった筆者。「一体この丘は何なんだろう、どうして丘の線にこんなに惹きつけられるんだろう。もしかして、丘って単なる絶景以上の力があるんじゃないか」。その予感は、その後訪れたフォトギャラリー「拓真館」で、確信に変わります。

半世紀に渡る丘の風景の写真が展示とグッズで展開されている、拓真館。吸引力のある作品たちを眺めながら、ふと窓に描かれた写真家の言葉が目に入ります。
「今の日本に この丘ほどの風景が 存在するであろうか。人それぞれの心に それぞれの旅があるように、この丘はいつまでも 私の心の一頁として 残しておきたいと考えている。」
まるで筆者の心を見透かしたかのような言葉にハッとします。そして、丘を唯一無二の風景とするその想いに、「やはりここの丘はすごいんだ、魅せられているのは自分だけじゃない」と実感。この丘を目にしたときの気持ちを持ち歩きたい、と思い一番印象的だったフィルムステッカーを1枚スマホケースに忍ばせたのです。
フィルムステッカー 1枚250円〜
拓真館入り口横のドリンクスタンド「SSAW BREW」。料理家たかはしよしこさんがSSAW BIEIで提供しているドリンクやお菓子などがラインナップ。季節のドリップコーヒー 600円、ハスカップラベンダーミルク 750円、エゾリスクッキー 400円など
フォトギャラリー 拓真館
旧千代田小学校跡地に、1987年開館。日本の風景写真の第一人者として、世界に知られる前田真三さんの作品を中心に、その息子・前田晃さん、孫・前田景さんと3代、半世紀に渡る丘の風景の写真が、無料展示およびカレンダーやポストカード、オリジナルプリントでグッズ販売されている
ストレス・フリーの牛は丘育ち「美瑛ファーム」
牛をありのままの姿で飼育する、という方針の「美瑛ファーム」。丘を利用した放牧場は、平地に比べて牛たちの運動量も増え、より健康的な牛が育つそうです
美しい丘を擁する豊かな大地。ここ美瑛は、唯一無二の素材を生み出す土地としても知られています。
例えば、新千歳空港で連日行列・完売の「美瑛選果」のコーンぱんやまめぱん。SNSでも話題沸騰の「BUTTER 美瑛放牧酪農場」のホットケーキやビスケット缶。素材にこだわる「フェルム ラ・テール 美瑛」のバターチーズサンド。
スイーツ好きならおそらく知っているであろう、これらの人気商品のブランド名に「美瑛」が入っているのは、この土地から生まれた素材を使っているから。

美瑛ファーム ラクレットトースト 1,200円、ソフトクリーム コーン 600円・カップ 500円
そして実はここ美瑛ファームは、渋谷の有名ブーランジェリー「VIRON(ヴィロン)」オーナーの西川隆博さんにより、本当においしいパンを作るため、理想とする乳製品を自社で開発・製造することを目的に設立されました。
先述の「BUTTER 美瑛放牧酪農場」や人気食パン専門店「CENTRE THE BAKERY(セントル ザ ベーカリー)」の運営元でもあります。さらに言えば、「美瑛選果」のコーンぱんやまめぱんは、VIRONとのコラボ。
だから当然のごとく、ここの乳製品はおいしい。ラクレットチーズやソフトクリームは濃厚でミルク本来のうまみが感じられますし、トーストのパンや、店内で焼くワッフルコーンも美瑛小麦の風味が活きています!
お土産にぴったりの「美瑛小麦ビスケット(80g)」1,400円は、東京・丸の内店の人気ビスケット5種詰め合わせ! 「びえいのラスク」8枚入り 800円や、ワッフルコーンの切れはし袋詰め 350円も
美瑛ファーム
東京ドーム4個分の広大な牧場に、4種類の牛が仲よく放牧されている。独自のブレンドによる生乳は、他では真似できない味わい。ショップでは牛乳、チーズ、ヨーグルト、ミルクプリン、バターなどの販売もあり。13時30分ごろには牛の行進が見られるかも(季節・天候によって変動あり)。入場無料
丘の上の「ノゾホテル」で野菜の奥深さに唸る

その日は、富良野の丘の上にある「Nozo Hotel(ノゾホテル)」に宿泊した筆者。そしてこのホテルで、大地の恵みにさらなる衝撃を受けることになります。
「かみふらのポークしゃぶしゃぶ+セミビュッフェ」。しゃぶしゃぶ用の野菜やサラダのほか、野菜の可能性を引き出すメニューの数々がビュッフェ形式で食べ放題。筆者が宿泊した日の野菜は、うすだ農園 ケール/春菊、東神楽産 ミニトマト、旭川産 サニーレタス、函館産 大根/白菜、たまねぎ、にんじん、水菜、レタスなど ©Nozo Hotel
地元の30種の食材を楽しめるしゃぶしゃぶディナー。好きな野菜を好きなだけビュッフェで選んで、しゃぶしゃぶしたポークで巻いて、特製だれをつけていただきます。
この日の自家製ドレッシングは「富良野産大豆の和風ドレッシング」「美瑛産とうもろこしのクリームドレッシング」「レッドバジルのレモンドレッシング」の3種
しかし筆者が強くおすすめしたいのは、ホテルの絶品自家製ドレッシングをかけて食べる方法。豚と野菜と自家製ドレッシングが、想像を超えるハーモニーだったのです。
「富良野産大豆とビーツのフムス」もお酒がすすむ秀逸な味わい
ふらのワインのスパークリングワインと富良野チーズ工房のチーズ
せっかくなら、お酒もおつまみも土地のものをいただきたい! 和食にも合うすっきり辛口のふらのワインは、しゃぶしゃぶや野菜とのペアリングも最高です。ミルクの濃厚なコクが感じられる富良野チーズ工房のチーズと合わせると、無限ループ。会話も弾み、富良野の夜の楽しみは尽きません。

大浴場「スギスパ」と客室「デラックスツイン」
ちなみに、ノゾホテルはおしゃれで機能性抜群の客室と、サウナ付き大浴場も魅力。平日やオフシーズンなら、1人素泊まり1万円台からインターナショナルホテルらしい世界観を味わえます。しゃぶしゃぶディナーは、2026年8月31日までは、宿泊しないゲストでも利用可能です!
>>【本当は秘密にしたい】ローカル野菜のおいしさが衝撃!富良野のスタイリッシュな「ノゾホテル」が実はコスパ抜群
富良野チーズ工房
チーズ工房見学はもちろん、試食もある直販店・低カロリーのアイスミルク工房・リピーター急増中のピッツァ工房など見どころ満載。日本で初めて赤ワインを練り込んで作られた「ワインチェダー」や、イカスミ入りのカマンベール「セピア」など、個性的なチーズ商品も魅力です。手作り体験もできます。
ローカルフードの素朴な楽しみ
朝食ビュッフェで特に印象的だったのはフライドポテト。あの甘みが忘れられません
翌朝は朝食ビュッフェで野菜の生命力を存分にチャージしてから、腹ごなしに散歩に出かけました。富良野の町は、自然に群生した花々があちこちで見られ、生命の逞しさが感じられます。


途中、北海道のローカルコンビニ「セイコーマート」でご当地スイカバーを食べ歩き。イチゴではなくスイカ、というところが、今回の旅の気分。スイカならではの、水彩画のような淡い甘みがじんわりしみ渡ります。
旅先では、ローカルスーパーやローカルコンビニで、その土地だけの食べ物を見つけて挑戦するのも、密かな楽しみです。
例えば「ナゥピー」や「摘果メロン」は、昨夜のディナーの際、ホテルのスタッフさんに教えてもらった富良野のローカルフード。早速マルシェで探していただいてみたところ……今までの人生で知らなかったことが悔やまれるほど、衝撃の食べ物たちでした。詳しくはこちら!
富良野盆地を流れる空知川

さらに歩くと「そらち川」の看板に出会いました。「そちらがわ」? って思わず脳内で読んでしまうけれど違います。正しくは「空知川」。
この丘が広がる大地では、空の大きさを知ることができるから? なんてロマンチックな由来を勝手に想像したけれど、それも違います。語源はアイヌ語の「ソ・ラプチ・ペツ」で「滝が・ごちゃごちゃ落ちている・川」という意味。昔の空知大滝が12条にも連なっていたことが由来だそうです。
空知川で川下りを体験! 穏やかな流れをのんびり下るリバーラフティングは、澄んだ川の水と静けさが魅力。日常からぽっかり切り離された時間と空間に浸れます。(集合から解散まで約1時間45分で1人6,000円。※5名で体験する場合)
ウッキーズ
20年以上続くアウトドアガイド。空知川で流れの穏やかな区間を選び、川下りラフティングやカヤック、SUP、カヌーなど1組限定の貸切ツアーが中心。子連れ旅や3世代旅の参加も多く、参加者のペースに合わせたツアーに定評がある。
自由に暮らす猫たちと遊ぶ「北海道風景画館」「風景画家の庭」

今回の旅で最後に訪ねたのは、40年以上この地を描き続ける画家・奥田修一さんの個人美術館「北海道風景画館」です。隠れ家的な美術館はノスタルジックな雰囲気。隣接する約2,300坪の「風景画家の庭」には、池や小さな教会もあり、絵になる風景が溢れています。


里山風の庭園では、放し飼いにされている十数匹の猫が自由に暮らしています。猫たちは人懐こく、抱っこしたり、膝に乗ってきたり。いつの間にか時が過ぎ、庭と猫たちから離れがたく、何度も訪れる人が少なくないというのも納得。いつかまた、もっとゆっくり時間をかけて訪れたい場所だと感じました。
>>【猫好き・レトロ建築好き必見!】廃校跡地の小さな美術館が絵になりすぎる「北海道風景画館|風景画家の庭」
北海道風景画館|風景画家の庭
1981年3月に廃校となった旧奈江小学校を、1995年に個人美術館「富良野風景画館」として開館、現在に至る。ユン・ソクホ監督の「心に吹く風」のロケ地となったり、「岩合光昭の世界のネコ歩き」富良野特集で紹介されたりしたことも。入館料 大人700円、中高生400円(画家の庭との共通券 大人1,000円、中高生600円)
あの丘の稜線を思い出す
拓真館「オーガニックハーブティー」15g 1,800円。北海道のLienfarmが拓真館をイメージしてブレンドしたオリジナル。エゾマツ、スペアミント、レモンバジル、ラベンダー、白樺、カレンデュラ、レモンタイム、コーンフラワー、タイム、ローズ
今、拓真館のお土産のハーブティーを飲みながら、あの丘の風景を思い浮かべている。命の神秘に少しだけ触れているような、情緒の深いところまでしみるような。生命力を感じるハーブの味わいは、今回の旅のイメージそのものです。

北海道の富良野&美瑛で丘とローカル野菜に浄化される旅。それは、今にして思えば、「丘に呼ばれて」いたのだと思います。

丘のある風景の中にいると、誰もが心の目で画角を切ってしまう。
でもそれは決して、一度見れば満足、という種類のインパクトある絶景ではなく、何度も訪れて自分だけの線を探したくなる、じわじわくる絶景。
いつかまた。いや、できれば毎年。そう約束したくなる、不思議な場所でした。

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©Aya Yamaguchi
