【北海道白老町】ポロト湖畔でアイヌ民族の文化を五感で学ぶ「ウポポイ」訪問ルポ

Posted by: 渡邊玲子

掲載日: Jun 29th, 2023

北海道白老町のポロト湖畔にアイヌ民族の歴史・文化を学び伝えるナショナルセンターとして、2020年7月12日にオープンした施設「ウポポイ(民族共生象徴空間)」。東京ドームおよそ2個分もの広さを持つ同施設は、先住民族アイヌを主題とした日本初の国立博物館「国立アイヌ民族博物館」のほか、多様なプログラムを通じてアイヌ文化を体感できる「国立民族共生公園」などで構成されており、北海道産食材を使用したスウィーツや工芸品を扱うカフェやショップも併設。半日あっても見足りない広大なエリアの中から、「ここだけは押さえておきたい」見どころをご紹介します!


無料エリアで完売必至のスウィーツをお取り置き!


「ウポポイ」とは、アイヌ語で「(おおぜいで)歌うこと」を意味する愛称。エントランスでは「ウポポイ」のPRキャラクターであるトゥレㇷ゚(アイヌ語でオオウバユリ)の女の子「トゥレッポん」がお出迎えしてくれます。


「歓迎の広場(無料エリア)」には、スウィーツやオリジナルグッズなどを扱う「sweets café ななかまど イレンカ」や、気軽にアイヌ料理が楽しめる「カフェ リㇺセ」などがあり、「花より団子」な人たちにもうってつけ。


甘いモノに目がない筆者は、「ななかまど イレンカ」で1日120個限定の「パピㇼカパイ(アップルパイ他季節のパイ)」と「クンネチュㇷ゚(カップチーズケーキ)」を取り置きし、いざエントランス棟へ。

下調べが肝心!まずは 公式サイトでプログラムをチェック


エントランス棟の入場ゲートを抜け、まずは案内図で施設の全体像を確認すると、ポロト湖を望む広大な敷地内に「国立アイヌ民族博物館」や「工房」、「伝統的コタン」が広がり、橋を渡った西エリアに、「体験交流ホール」や「体験学習館」などが点在しているのがわかります。


スケジュール的に今回滞在できるのはおよそ2時間弱と限りがあったため、事前に公式ホームページでタイムテーブルをチェック。まずは、ポロト湖畔の広場で行われる伝統的コタンの文化解説プログラム「ウパㇱクマ」に参加し、アイヌ文化の概要を目と耳で学ぶことに。

アイヌ伝統の子守歌とムックリの音色で一気にアイヌの世界観へ

屋外ステージで行われていたのは、ラッチさん(アイヌ語のニックネーム)によるコタンの暮らしぶりに関する解説と、「界 ポロト」の宿泊レポートでもご紹介した、アイヌ文化の実践普及業務に携わるシホロㇿさんこと高橋志保子さん(※本名の高は旧字体)による、アイヌ民族の伝統芸能のパフォーマンス。


「シンタ」と呼ばれる木製のゆりかごに赤ちゃんを寝かしてあやす時に歌う「イフンケ(子守歌)」をアイヌ語で披露してくださった後は、「ビヨヨ~ン」という独特の音が響くアイヌ民族の伝統楽器「ムックリ」の演奏も。


「ムックリ」には、竹や鉄、木製などさまざまな種類があり、今回演奏してくださったのは竹製のもの。竹の真ん中が彫られて弁になっていて、口にあててヒモを引っ張ることで、音が鳴る仕組みになっているのだそう。

口の形を変えたり、口の中で舌を動かしたりすることによってさまざまな音色が奏でられ、自然界に聞こえる雨や風の音、動物の鳴き声に加え、ご自身の感情なども表現されているといいます。

爽やかな風を感じながら聴く歌声や荘厳な音色はもちろんのこと、シホロㇿさんが身に着けている色鮮やかなアイヌ民族の伝統的な衣服や装飾品の数々もとても素敵で、「ウポポイ」に足を踏み入れてからわずか数分にして、一気に別世界へと誘われました。

「工房」でアイヌ民族に伝わる刺繍や木彫の手しごとに触れる


続いて足を運んだのは、アイヌ民族の伝統的な手しごとについて学べる「工房」です。アイヌ文化では男性と女性で手しごとの役割が分かれており、男性は狩猟に必要な道具を作ったり家を建てたりするなど、主に木彫を担当。女性は家事や育児をしながら刺繍をしたり、ゴザを編んだりしていたのだそう。


工房ではスタッフによる実演のほか、木彫や刺繍の体験プログラム(有料)もあるので、時間がある方はぜひチェックしてみてください。

チセを見学しながら伝統的なコタンの暮らしを学ぶ


屋外での解説にも登場した「コタン」という言葉は、アイヌ語で村や集落という意味で、「ウポポイ」の中にも「チセ」と呼ばれる住居が5棟建てられています。手前の2棟は、実際に白老の文化伝承者に職員の方たちが作り方を教わりながら建てたという、昔ながらの伝統的なチセ。安全上、このチセの中に入ることはできませんが、外観からも大きさやアイヌ民族の伝統的な生活様式を垣間見ることができます。


奥には、季節や天候問わず多くの来場者がプログラムや伝統的な生活空間が楽しめるように、現代の建築基準で作られたフローリングや床暖房などを施したチセが3棟あり、こちらは内部も見学可能です。

部屋の広さや屋根の高さは実物とは異なりますが、柱の組み方や窓の位置、宝物置き場などは、白老に伝わるものを再現しているそう。


中に入ると、東西に長い間仕切りのない一間の中央に大きな囲炉裏が。アイヌ文化では囲炉裏の火に「アペフチカムイ」と呼ばれる火のカムイ(いわゆる神)がいると信じられています。

ポロト湖上での丸木舟の実演も!


外に出ると、湖の上で昔ながらの丸木舟を器用に漕いで実演する男性スタッフの姿が。すかさず別のスタッフの解説に耳を傾けると、ここ白老では、長きに渡り人々が日常的に「チㇷ゚」と呼ばれる丸木舟に乗り、川を越えて交易に行ったり漁をしたりしていたのだそう。


ちなみにこちらの丸木舟は、「ウポポイ」の開業に合わせて職員の方が「ハリギリ」という木を切り出し、主に手彫りで1カ月くらいかけて作ったもの。昔ながらの技術を絶やさず次世代に伝えていくために、職員同士が教え合いながら、日々実演の練習をしているといいます。

オリジナルグッズやミュージアムショップの売れ筋商品は?


「国立アイヌ民族博物館」の中には、アイヌ民族の工芸品や博物館オリジナルグッズ、書籍などを取りそろえたミュージアムショップのほか、セルフサービスのドリンクコーナー(有料)も設けられていて、美しいポロト湖を眺めながら、館内でホッと一息つくことができます。


ミュージアムショップの売れ筋アイテムを伺ったところ、ウポポイオリジナル商品である「トゥレッポんボールチェーンマスコット」のほか、アイヌ文様入り小皿や、アイヌ文様入り今治タオルハンカチ、アイヌ文様ヘアゴムなど、各地域の作家さんが手掛ける工芸品も人気とのこと。

一部の商品はオンラインショップでも購入できるそうなので、気になる方はぜひともホームページ をチェックしてみてください。

博物館2階ロビーはポロト湖が一望できる絶景スポット!


博物館の受付の壁面には、アイヌ語をはじめとした多言語による館内案内が映像で表示されています。1階には、アイヌ文化を大画面映像でわかりやすく映像で紹介するシアター(96席)も併設されているので、時間に余裕がある人は、まず映像から入るのもおすすめですよ。

エスカレーターを上がった先にはガラス張りの空間が広がり、ポロト湖を一望できます。

まずは円の中からスタートし感性に従い自由に鑑賞


常設の基本展示室のなかには、「ことば」「歴史」「世界」「くらし」「しごと」「交流」の6つのテーマに分けて、「私たち」というアイヌ民族の視点でことば、歴史、文化について紹介しています。「私たちの歴史」では、およそ3万年前から現代に至るまで、アイヌ民族や周辺の民族が語り継ぎ、残してきた歴史が年表で紹介されています。施設内ではアイヌ語が第一言語になっているため、案内掲示板や解説パネルではアイヌ語が一番上に表示されているのも大きな特徴です。

中心から周りへ自由に展示室を回れる構成になっていて、時間に限りがある人は中央部のプラザ内を重点的に見学し、その上で興味を惹かれた展示へと向かうのが効率的。狩猟や漁、農耕などで使用される道具や衣服、装飾品などのほか、アイヌ語の語りが聴けるコーナーも。


なかでもひときわ目を引くのが、「界 ポロト」のトラベルライブラリーで手にした絵本でも学んだ、樺太のアイヌ民族の熊の霊送りの儀式で使用される「クマつなぎ杭」を復元した展示です。

アニメーションやドキュメンタリー映像などでもアイヌ民族に伝わる儀式や風習が紹介されているので、幅広い年齢層の人たちがそれぞれの感性でアイヌ民族の精神世界に触れることができます。

触れることでより一層好奇心が高まる探究型展示も


アイヌ語で「さわってね」という意味を持つ「テンパテンパ」というコーナーでは、アイヌ民族と関係の深い動物のぬいぐるみや図鑑、立体パズルなどを通じて、自ら手に取り体験しながら理解を深めることができるのも魅力的。子どものみならず、大人でも探究型の展示はワクワクします。※ 時間、エリアを限定して運用しています(2023年6月23日時点)。


取材当日、特別展示室では阿寒湖畔のアイヌ文化を紹介する企画展「地域から見たアイヌ文化展 アカント ウン コタン — 阿寒湖畔のアイヌ文化 — 」が行われていました(現在は会期終了)。

展示を通じて同じアイヌ民族であっても地域ごとに文化が異なることを知り、阿寒湖畔にもぜひ足を運んでみたくなりました。

お取り置きした北海道産の絶品スウィーツ堪能!

駆け足ながらも「界 ポロト」での滞在をきっかけに芽生えた「アイヌ民族の暮らしや世界観についてもっと知りたい」という知識欲が満たされ、気づけば小腹も空いてきました。

アイヌ料理が楽しめるという「カフェ リㇺセ」にも惹かれましたが、今回は入場時に「sweets café ななかまど イレンカ」で予約した人気No.1の「クンネチュㇷ゚」と自家焙煎珈琲をテラス席でいただき、「パピㇼカパイ」はテイクアウトすることに。

アイヌ語で「月」という意味を持つ「クンネチュㇷ゚」は北海道の濃厚なクリームチーズに白老産の卵を使用して焼き上げたチーズケーキで、カップ入りも納得のトロトロのなめらかな味わい。プレーン、いちご、チョコ味の3種類(280〜300円)がそろい、消費期限は冷蔵で3日間。お土産にもぴったりです。

定番のアップルパイはパイ生地がサクサクで、中身もギッシリ詰まっていて、その重量にも驚かされました。


お腹も心も満たされ、またいつかゆっくり来ることを「トゥレッポん」に誓い、後ろ髪を引かれながら帰路へ。入場時は出迎えてくれた「トゥレッポん」が、今度はお見送りしてくれているかのよう。五感を通じてアイヌの文化に触れられる、見どころ満載の施設でした。

ウポポイ(民族共生象徴空間)
住所:北海道白老郡白老町若草町2丁目3
開館時間:平日9:00~18:00、土日祝日9:00~20:00※季節によって変動あり。詳しくはウポポイ公式ホームページを確認
閉園日:月曜日(祝日または休日の場合は翌日以降の平日)
入園料:大人(一般)1,200円/大人(団体)960円、高校生(一般)600円/高校生(団体)480円、中学生以下無料
※障がい者とその介護者各1名は無料。入園の際に障がい者手帳等を提示
公式ホームページ:https://ainu-upopoy.jp/

[All Photos by Reico WATANABE]

PROFILE

渡邊玲子

REICO WATANABE ライター

映画配給会社、新聞社、WEB編集部勤務を経て、フリーランスの編集・ライターとして活動中。国内外で活躍するクリエイターや起業家のインタビュー記事を中心に、WEB、雑誌、パンフレットなどで執筆するほか、書家として、映画タイトルや商品ロゴの筆文字デザインを手掛けている。イベントMC、ラジオ出演なども。

映画配給会社、新聞社、WEB編集部勤務を経て、フリーランスの編集・ライターとして活動中。国内外で活躍するクリエイターや起業家のインタビュー記事を中心に、WEB、雑誌、パンフレットなどで執筆するほか、書家として、映画タイトルや商品ロゴの筆文字デザインを手掛けている。イベントMC、ラジオ出演なども。

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