
地獄寺は何のためにつくられた?
本連載では、タイにいくつも存在する「地獄寺」をテーマに、筆者が実際に訪れた寺院を紹介しつつ、その魅力をわかりやすく伝えていきます。全12回の連載、第2回となる今回は「地獄寺は何のためにつくられたのか?」という疑問から出発しましょう。
タイの地獄寺では、このようにコンクリート像を用いて立体的に地獄の世界が表現されています。



こうした地獄空間には、地獄の釜があったり、

棘の木があったり、

日本人が「地獄」と聞いてまず思い浮かべるであろう閻魔様(的な存在)がいたりします。

地獄寺はタイ全土、特に農村部に多く存在していて、その数は現時点でわかっている限りでも70か所以上にのぼります。タイの人たちにとって、このような地獄空間は決して物珍しいものではありません。地獄は日常の風景に溶け込んでいて、なかには地獄寺で遊んでいる子どもたちもいます。

―地獄で遊ぶ子ども。怖いもの知らず過ぎる。
日本人の目には、こんなグロテスクで、キッチュで、笑いを誘うような空間が日常に存在していることが「物珍しい」と映るかもしれません。となると、タイの人たちはなぜこのような地獄空間をつくっているのか?という疑問がまず浮かびます。
そもそもタイでは、地獄の思想は仏教に基づいています。タイの地獄思想を形づくったとされる経典『三界経(さんがいきょう)』には、「僧侶や両親に対して悪口を言った者は、象のように大きな4種の犬に追いかけまわされる」「魚を殺し市場へ運んだ者は、肉屋のナイフで切り刻まれ売り物のように陳列される」などと、「悪いことをすると地獄へ堕ちる」ということが細かく説かれています。
こうした地獄思想は、昔から寺院の壁画などに描かれてきました。地獄を描いた壁画はタイ全土にあって、もちろん今でも見ることができます。


―目がキョロキョロしているのも特徴。この人たちは本当に苦しんでいるのか。
そして、この壁画を見せながら、僧侶は人々に「悪いことをするとこんな地獄へ堕ちます」と解説してきました。そうやって「地獄に堕ちないように善い行いをしましょう!」と促していたのです。この壁画が現代になって立体化し、コンクリート像で空間としてもあらわされるようになりました。それが地獄寺です。
こういった歴史の延長線上に地獄寺はあるといえます。つまり、「悪いことをするとこんな地獄へ堕ちます、だから地獄に堕ちないように善い行いをしましょう!」と人々にわかりやすく教えているのです。
地獄寺は何のためにつくられたのか?-それはこうした「教育」のためであるといえます。
それでは、実際に地獄を見てみましょう。アーントーン県にあるワット・ムアン(ワットは寺院の意)という寺院は、地獄を柵で区画分けしてあらわしています。


柵の前にはタイ語で解説が書かれ、この人たちがどんな罪で地獄に堕ちたかがわかるようになっています。

―「生前の罪 他人の夫を奪うことを好んだ」二人の女性が真ん中の男性を奪い合っている。タイの女性は強い。
このようにワット・ムアンでは、僧侶の解説に代わって、文字で解説がなされています。
余談ですが、このワット・ムアンには地獄以外の見どころもたくさんあります。
本堂は鏡張りで異世界のようにキラキラとしていたり、

―これは感動モノ。魔法の世界みたい。
蓮の花びらの形のお墓があったり、

―こんなかわいいお墓なら今すぐにでも入りたくなる。
そして何より、世界最大級の大仏があります。

―大きすぎて全貌がわからない。

この大仏の指先に触れるといいことがあるようで、タイの人たちはみんなこぞって触っています。ワット・ムアンは筆者がはじめて訪れた地獄寺でもあり、地獄寺ビギナーにはおすすめの場所です。
ワット・ムアンの地獄には解説が書かれていますが、これは比較的珍しいパターンです。なので、ほとんどの地獄寺ではその人が何の罪で地獄に堕ちたのか、見て判断するしかありません。そもそも解説があったとしてもタイ語なので、観光で訪れる日本人にはなかなか理解しづらくもあります。
なので、やはり少しだけ前知識を入れておくと、地獄寺をもっと楽しめるのではと思います。次回はそうした「地獄の基本」について紹介していきます。また来週。
次回「タイの地獄めぐり③ オーソドックス地獄 ―基本となる5つの教え―」へ続く。
Ayaka kurahashi 地獄研究家
1993年東京生まれ。早稲田大学大学院文学研究科にて美術史学を専攻、現代タイにおける仏教表現を研究テーマとする。2016年修士課程修了。現在、同研究科博士後期課程在籍。現代になり新出した立体表現「地獄寺」に着目し、フィールドワークをもとに研究を進めている。著書に『
タイの地獄寺』(青弓社)。
タイの地獄寺Twitter
https://twitter.com/jigokudera
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