
棘の木は地獄のシンボル
本連載では、タイにいくつも存在する「地獄寺」をテーマに、筆者が実際に訪れた寺院を紹介しつつ、その魅力をわかりやすく伝えていきます。全12回の連載、第5回となる今回は、前回に引き続きタイにおける「浮気の罪」についてみていきます。
タイの地獄寺では、前回ご紹介したように、浮気の罪を犯すと死後「無頭人」になるといわれています。ですが、浮気の罪による罰はもうひとつあります。それは地獄の主要モチーフである「棘の木」に登らされるというものです。

棘の木に登らされているのは生前浮気をした者で、男女ともに罰を受けます。獄卒という地獄の役人に責め立てられながら、針のような棘のついた木を登ったり降りたりさせられて、血だらけになるのです。また、木の根元には犬が、木の頂には鳥が待ち構えていて、それぞれ噛みついたり突いたりして、さらに罪人を追い立てていきます。
地獄寺の多くはこの棘の木をつくっているのですが、その表現には寺院ごとにかなりの個性がみられます。
たとえば、本物の木をコンクリートで固めて棘の木をつくっていたり、

かなり鋭く棘をつくっていたり、

木の色が赤だったり茶色だったりします。


そして何よりおもしろいのは、タイにおいて「棘の木」は地獄のシンボルと考えられているということです。地獄寺で僧侶に「どの像が最も重要だと考えているか?」という質問をすると、高確率でこの「棘の木」像という答えが返ってきます。また、地獄寺では多くの場合、何十体もの像をもちいていくつもの地獄の場面を表現しているのですが、なかにはひとつの場面だけを表現している寺院があります。その場合、多くはこの棘の木だけをつくっています。つまり、タイにおいては「棘の木=地獄を象徴するもの」という認識がうかがえるのです。それだけ、浮気は人間にとって身近な罪であるということかもしれません。
こうした棘の木だけをつくっているような地獄寺を「一点モノ地獄」と勝手に呼んでいるのですが、その例のひとつに、チェンマイにあるワット・パージャルーンタムという地獄寺があります。


ワット・パージャルーンタムでは、林の中にまるで本物の木のひとつかのように棘の木がつくられています。このように自然と同化しているタイプの地獄はまわりの景観も相まって、よりリアルに「地獄に足を踏み入れている」と感じることができます。いくつもの地獄寺をめぐった筆者も、この自然と同化しているタイプの地獄には毎回ワクワクさせられています。
なので、次回はこの自然と同化しているタイプの地獄をめぐってみることにしましょう。また来週。
次回「タイの地獄めぐり⑥ ジャングル系地獄 ―地獄のような地獄―」へ続く。

Ayaka kurahashi 地獄研究家
1993年東京生まれ。早稲田大学大学院文学研究科にて美術史学を専攻、現代タイにおける仏教表現を研究テーマとする。2016年修士課程修了。現在、同研究科博士後期課程在籍。現代になり新出した立体表現「地獄寺」に着目し、フィールドワークをもとに研究を進めている。著書に『
タイの地獄寺』(青弓社)。
タイの地獄寺Twitter
https://twitter.com/jigokudera
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