
個性豊かな無頭人
本連載では、タイにいくつも存在する「地獄寺」をテーマに、筆者が実際に訪れた寺院を紹介しつつ、その魅力をわかりやすく伝えていきます。全12回の連載、第4回となる今回は、タイにおける「浮気の罪」についてみていきます。
タイの地獄寺では、前回ご紹介したように「無頭人」というキャラクターがよくみられます。頭がなく、胴体部分に顔がある人です。
他の地獄の住人とは明らかに一線を画している、なにこれ!?と誰しもが思わざるを得ない存在です。
この無頭人は、主に「浮気の罪」によってこのような姿になったとされています。なかには「僧侶の首を斬った」などの罪の場合もあるのですが、あくまで例外的です。
発想としては理性を司る「頭」がなく、「身体」で浮気に走ってしまうことの象徴であると考えられます。
この無頭人は、伝統的な寺院の壁画にもすでに描かれています。

そして、無頭人の表現は立体になっても受け継がれています。地獄寺では、多くの寺院で無頭人の像がつくられていて、そこには寺院ごとのオリジナリティが色濃く反映されています。
たとえば、無頭人の多くはこのような姿が基本となりますが、
なかには獄卒に連れられていたり、

身体が変色していたり、

下腹部に顔があったり、

オリジナリティが溢れすぎて別の生き物のようになっている無頭人もいます。

地獄寺のなかで最も古い歴史を誇る、パトゥムターニー県にあるワット・プートウドムでは、立体像や壁画を含めて、様々なパターンの無頭人をみることができます。ワット・プートウドムの地獄は本堂の地下にあり、ジメジメとした空間に赤や青の照明が妖しく光る異世界感たっぷりの場所です。地獄空間にはたくさんの像がつくられていて、壁には隙間なく絵が描かれています。そのなかに、この無頭人も存在しています。
たとえば、大きな立体の無頭人から、

小さな立体の無頭人、

そして壁画に描かれた無頭人まで、


あらゆるタイプの無頭人がみられます。このように、同じ寺院のなかでも様々な表現がなされているのです。ワット・プートウドムに訪れた際は「無頭人探し」をしてみてもおもしろいかもしれません。
さて、今回「浮気の罪を犯した者は無頭人になる」とご紹介してきましたが、実は浮気の罰としてよりメジャーなのは「棘の木に登らされる」というものです。「棘の木」は、地獄と聞いて多くの人がイメージするもののひとつではないでしょうか。ということで、次回はもうひとつの浮気の罰である「棘の木」について、詳しくみていきたいと思います。また来週。
次回「タイの地獄めぐり⑤ 浮気の罪② ―棘の木は地獄のシンボル―」へ続く。

Ayaka kurahashi 地獄研究家
1993年東京生まれ。早稲田大学大学院文学研究科にて美術史学を専攻、現代タイにおける仏教表現を研究テーマとする。2016年修士課程修了。現在、同研究科博士後期課程在籍。現代になり新出した立体表現「地獄寺」に着目し、フィールドワークをもとに研究を進めている。著書に『
タイの地獄寺』(青弓社)。
タイの地獄寺Twitter
https://twitter.com/jigokudera
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