【金沢ミステリー】犀川に伝わる2つの恐ろしい子ども殺しの物語

Posted by: 坂本正敬

掲載日: Aug 11th, 2021

金沢には土地の人が「オオカワ」と呼んだ犀川と浅野川が流れています。そのうち犀川に伝わる2つのミステリーを今回は紹介します。いずれも子どもがかかわる物語。新型コロナウイルス感染症が終息した時には、犀川の川べり(川除き)を歩きながら、物語を思い出してみてくださいね。

犀川へ下る蛤坂

犀川の河原に子どもが埋められた


犀川

金沢には犀川という川が流れています。『加賀藩史料』を読むと繰り返し洪水を起こしている川らしく、堤防が切れ、水があふれだして、家屋や人が流された悲しい出来事が記録されています。

一方で犀川は金沢の人たちの暮らしに欠かせない場所でもあり続けました。川端に並んで釣りをしたり、投網をしたり、川石を転がしてゴリという魚を捕ったり。ほかにも染物屋が染め物(友禅染)ののり落としをしたり、下駄屋が河原で流れてきたケヤキの立木を拾ったり、造り酒屋が仕込み水をくみだしたりと、四季を通じて人々に恵みを与えていました。

しかし、それだけ暮らしに近い川だからこそ、恐ろしい昔話の舞台にもなっています。

例えば、そのひとつが「お銀小金」です。犀川近くに暮らしたお銀と小金(こきん)は加賀藩士の娘であり異母姉妹でした。藩士の主人が留守がちなために、前妻の子どもである姉のお銀は、継母に激烈ないじめを受けます。そのたびに妹の小金が手を差し伸べ、2人は励まし合いながら暮らしていました。

参勤交代の藩主のお供だったのでしょうか、主人が江戸に出立した直後に悲劇が起きます。下男に命じて犀川の河原に大きな穴を掘らせると、継母はお銀を誘い出し穴へ投げ込みます。穴には川の水が流れ込むような工夫が施されます。

ひとりで戻った母を妹の小金は不審がりました。直後に下男と継母の穴掘りに関する会話を盗み聞きするなり、小金は犀川べりに走り、姉の名前を呼びました。助けを求める声が聞こえ、小金はお銀を河原の穴に見つけました。しかし7歳の少女です。助けようとする間にも水が穴に満ち、お銀はおぼれかけます。

小金は穴に飛び込みました。抱き合った2人の死体が翌日に見つかります。このお銀と小金の遺体は金沢市内にある法然寺に葬られました。その供養碑は寺内に現存しています。

法然寺
住所:石川県金沢市菊川2-3-8

子殺しの老女も犀川を歩いた

犀川の恐ろしい物語は「お銀小金」だけではありません。「ひしやのおばば」の舞台でもあります。

子だくさんの貧しい家から子どもをもらい受け、子どものできない家に養子としてあっせんする老女が、金沢の郊外に暮らしていました。実態は卑劣な女で、養子を希望する家から紹介料を受け取った段階でもらい子を殺し、「送り届ける途中で死んでしまった」とうそをついて、繰り返し紹介料を巻き上げています。

ある冬の晩に老女は新しい幼児をもらい受け、背中に背負いながら犀川のほとりまで来ました。川べりでまた殺す算段です。

その夜は満月が出ていました。幼児が背中に揺られながら、老女の肩をたたいて歩みを止めさせます。何かと老女が顔を後ろに向けると、幼児が背中で月へ向かって手を合わせています。子どもながらに殺されると悟ったのか、「どうかノノさま(お月さま)、父や母、きょうだいが皆元気で幸せに過ごせますように」と幼児は祈願しました。

北陸で盛んな浄土真宗において、月は阿弥陀仏に例えられるといいます。この姿を見て、さすがの老女も涙を流し、改心したそうです。老女は子殺しもやめ、仏門に入ったともいわれています。

日本屈指の観光地であり、それなりに人口も多い中核市でありながら、金沢は今も空が広いです。月夜はまた格別の趣があって、月明かりを眺めながら犀川を歩くと、お銀を助けようと懸命に走る小金や、老女の背中で満月に手を合わせる幼児が現れてきそうな気がします。

法然寺には現存する供養碑もあります。新型コロナウイルス感染症が終息し、金沢の人気観光地である「忍者寺」などに訪れた後は、近くの犀川沿いを歩いてみてはいかがでしょうか。第2次世界大戦で空爆を免れた、江戸時代の空気が残る金沢の魅力を、どんな観光名所よりも感じられるかもしれませんよ。


犀川沿いの河岸段丘からの眺め

[参考]
北陸の怪談。金沢の「子育て幽霊」編。 – HOKUROKU
※ 小林忠雄『金沢、まちの記憶 五感の記憶』(能登印刷出版部)
※ 鈴木雅子『金沢のふしぎな話「咄随筆」の世界』(港の人)
※ 前田育徳会『加賀藩史料』(清文堂出版)
※ 泉鏡花『照葉狂言』

PROFILE

坂本正敬

Masayoshi Sakamoto 翻訳家/ライター

翻訳家・ライター・編集者。東京生まれ埼玉育ち。成城大学文芸学部芸術学科卒。現在は、家族と富山に在住。小学館〈HugKum〉など、在京の出版社および新聞社の媒体、ならびに〈PATEK PHILIPPE INTERNATIONAL MAGAZINE〉など海外の媒体に日本語と英語で寄稿する。 訳書に〈クールジャパン一般常識〉、著書(TABIZINEライターとの共著)に〈いちばん美しい季節に行きたい 日本の絶景365日〉など。北陸3県のWebマガジン〈HOKUROKU〉(https://hokuroku.media/)創刊編集長。その他、企業や教育機関の広報誌編集長も務める。文筆・編集に関する受賞歴も多数。

翻訳家・ライター・編集者。東京生まれ埼玉育ち。成城大学文芸学部芸術学科卒。現在は、家族と富山に在住。小学館〈HugKum〉など、在京の出版社および新聞社の媒体、ならびに〈PATEK PHILIPPE INTERNATIONAL MAGAZINE〉など海外の媒体に日本語と英語で寄稿する。 訳書に〈クールジャパン一般常識〉、著書(TABIZINEライターとの共著)に〈いちばん美しい季節に行きたい 日本の絶景365日〉など。北陸3県のWebマガジン〈HOKUROKU〉(https://hokuroku.media/)創刊編集長。その他、企業や教育機関の広報誌編集長も務める。文筆・編集に関する受賞歴も多数。

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