美術館の館名が「世界一かわいい美術館」
「世界一かわいい美術館」とは、どういった美術館なのでしょうか? 富山県の中でも県庁所在地の富山市に「水橋」といわれる漁港があり、その漁港近くを通るあいの風とやま鉄道の水橋駅前に立地しています。
「かわいい」と言われると、どのようなイメージを思い浮かべますか? 外国人旅行者が日本に来て「kawaii」と言う感じで、アニメのキャラクターや洋服のデザインなどのかわいさを思い浮かべると思います。
しかし辞書を調べると、ちょっと違う雰囲気の解説があって、
<小さいもの、弱いものなどに心引かれる気持ちをいだくさま>
<ほかと比べて小さいさま>
(小学館『大辞泉』より引用)
と書かれています。小さい何かを見て、その小ささに愛らしさを覚えてしまう感情を「かわいい」はもともと意味するのです。
英語で言うと「little boys and girls」の「little」の語感に近いのでしょうか。「small」のようにサイズの小ささを単純に言うのではなく「小さくて愛らしい」といった感じが「little」にはこもっています。
富山にある「世界一かわいい美術館」も、どちらかと言えば「小さくて愛らしい」意味でのかわいさ世界一なのかもしれないと最初に知った時に思いました。
看板の奥は水橋駅
「世界一かわいい美術館」はお気づきのとおり、何かの評価団体が一定の審査基準にのっとって客観的に「世界一かわいい」と認定した美術館ではありません。「世界一かわいい美術館」が館名なのです。
地元紙の報道を振り返ると、「水橋駅前に私設美術館」の見出しで2014年(平成26年)7月15日に一面記事が掲載されています。
富山市にある薬品会社の会長や県薬業連合会の理事も務めた浅井省己(せいき)さんという方が、2015年(平成27年)の北陸新幹線開業年に合わせて故郷に恩返しするために純和風の私設美術館をオープンする予定だと報じられています。
もともと900平方メートルあった駅前の空き地に、同県の南砺市に存在した築230年の古民家の建材を利用し、木造平屋建てで220平方メートルの美術館を浅井さんら関係者は2015年(平成27年)にオープンさせます。220平方メートルと言えば、郊外型路面店舗のコンビニエンスストアよりちょっと広いくらいですね。
オープンの翌年2016年(平成28年)2月26日には来館者1万人を達成し、2020年(令和2年)の5周年展を開くころには約3万人を超えたとも報じられています。
公式ホームページも持たず、公式SNS(ソーシャル・ネットワーク・サービス)も運用せず、口コミや通り掛かった人たちを温かく迎え入れ続けた結果として3万人を突破したのですから、本当にすごい話ですよね。
「世界一かわいい」奥さまが名前の由来?
うわさを聞きつけて筆者も訪れてみました。水橋駅の駅前ですが、ちょっと奥まった場所に建っているので、車で訪れると一瞬見過ごしてしまうかもしれません。
小学校1年生と年中の子どもと出かけて出入口近くで記念撮影していると、職員の方が出てきて笑顔で出迎えてくれました。入館料は当面の間無料だといいます。地域のいこいの場を兼ねているからかもしれません。
「全部見終わったら好きな絵を教えてね」と職員の方は子どもに優しく声を掛けてくれます。実家に帰ってきたような雰囲気を感じて安心したのか、子どもたちもすぐに笑顔になっていました。
太い梁(はり)を「井」の字(井げた状)に組んだ「枠の内」という富山県西部の伝統技法が建築設計には使われていました。中心の四角い小部屋を取り囲むように回廊がめぐらされています。内部の撮影は残念ながら禁止でした。
刀剣や掛け軸、絵画、彫塑(彫刻)、器などが主な展示作品です。建物中央の小部屋に展示されていた青磁(鉄分を含む青緑色のうわぐすりをかけて高温で焼いた磁器)の見事さに筆者は目を奪われました。公式パンフレットには、花鳥風月などの日本画を中心に年4回の企画展示をしていると書かれています。子どもたちはクマの親子の置物を見て喜んでいました。
ユニークな館名の由来を職員の方に聞くと「世界一小さい美術館」の命名を当初は考えていたそうです。しかし「小さい」だと世界一を証明できず、同館より小さい美術館が存在(誕生)した場合、館名を変えなければいけません。
関係者の間で「かわいい」がいいのではとの意見があり、「世界一かわいい美術館」と最後は命名されたのだとか。ちなみに「かわいい」という発想は、創設者の奥さまが世界一かわいいから「かわいい」で行こうと発言した関係者の言葉が発端だったみたいですね。
「世界一かわいい美術館」について今回は紹介しましたが、ちょっとイレギュラーな連載で「タイトルにだまされた」と感じた方はごめんなさい。しかし、この雰囲気の温かさとネーミングセンスは特筆すべきだと思いました。
ちなみに全くの余談ですが、トイレを借りると内部は見事に清潔で水あかひとつなく、トイレットペーパーの端が奇麗に三角に折られていて、運営者の皆さんの人柄を感じるようでした。木の香りも心地良く明るく広々としていて、ハイスペックな高級ホテルのトイレよりも上質な空間です。美術館に訪れてトイレをレポートするのも変な話ですが。
毎週月曜日と火曜日が休館日。作品入れ替え期間・お盆(8月14日~16日)・悪天などやむを得ない事情がある場合も休館となるそうです。富山市内へ観光に訪れた際には訪れてみてくださいね。
世界一かわいい美術館
住所:富山県富山市水橋伊勢屋257
電話:076-411-9817
Masayoshi Sakamoto 翻訳家/ライター
翻訳家・ライター・編集者。東京生まれ埼玉育ち。成城大学文芸学部芸術学科卒。現在は、家族と富山に在住。小学館〈HugKum〉など、在京の出版社および新聞社の媒体、ならびに〈PATEK PHILIPPE INTERNATIONAL MAGAZINE〉など海外の媒体に日本語と英語で寄稿する。 訳書に〈クールジャパン一般常識〉、著書(TABIZINEライターとの共著)に〈いちばん美しい季節に行きたい 日本の絶景365日〉など。北陸3県のWebマガジン〈HOKUROKU〉(
https://hokuroku.media/ )創刊編集長。その他、企業や教育機関の広報誌編集長も務める。文筆・編集に関する受賞歴も多数。
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