【離島暮らしのリアル】直島移住はじめて雑記~第10回:離島生活でいちばん困ること

Posted by: 春奈

掲載日: Mar 13th, 2022

「瀬戸内のアートの島」として知られる、香川県の直島。フリーランスライターの筆者は、夫の仕事の都合で思いがけず直島で暮らすことに。人気の観光地でもある離島での生活とは、いったいどのようなものなのでしょう。直島の魅力や離島ならではの苦労話など、住んでみたからこそわかった「離島生活のリアル」を連載形式で綴ります。10回目の今回は、離島生活でいちばん困ることについて。

直島を出航するフェリー


 

離島生活ならではの困りごととは?

直島からみた瀬戸内海

筆者は今まで、出身地の和歌山にはじまり、東京やドイツ南西部の田舎町、福岡など、さまざまな土地で暮らしてきました。これまで住んだ場所は便利な場所も不便な場所もありましたが、やはり離島である直島は、過去に暮らした土地とはまったく勝手が違っていました。

「離島生活」というと、よく「買い物が不便なんじゃないの?」と思われます。たしかに不便なのは間違いないのですが、直島の場合は小さなスーパーとコンビニがありますし、今はネットで何でも手に入る時代。島のスーパーの値段の高さを許容できれば、「困ってしょうがない」というほどでもありません。

では、実際に住んでみて何が困るかというと、島外に出るときに常にフェリーの時間に拘束されてしまうことです。

「買い物できるところが少なく、品ぞろえも限られている」とか、「近くに外食するお店や遊びに行く場所が少ない」というのは、離島に限らず田舎全般に共通する困りごとではないでしょうか。とはいえ、「家の近くにはお店や遊ぶ場所が少ないけど、車で少し走れば買い物も食事も遊びも事足りる」というケースもあるでしょう。しかし、離島の場合はそれが簡単ではないのです。

常に船の時間を意識して行動

フェリーなおしま

直島から直通の船で行ける場所は、岡山県玉野市の宇野と、香川県高松市直島~宇野間はフェリーで20分ほどの距離なので比較的本数も多く、平均すると1時間に1本以上の船便があります。

一方、直島~高松間はフェリーで50~60分とやや遠いので、フェリーと高速船を合わせても1~2時間に1本程度しかありません。時間帯によっては、次の船まで3時間程度の間隔が空くことも……。

瀬戸内の離島のなかには、フェリーが1日4往復だけという島もあるため、直島はかなり恵まれているほうです。とはいえ、島外に出かけるときに常に船の時間を意識して行動しなければならないというのは、経験してみると意外にストレスです。

島外に出かけるときは、まず「9時22分の船に乗ろう」と決めて、逆算して家を出なければなりません。これは車で出かけるときも同じです。本来、車での外出は公共交通機関の運航時刻に左右されないため、「『だいたい朝9時ごろに出よう』と決めて、準備ができたら車に乗って家を出る」といったマイペースな行動ができるのがメリットです。

ところが、島外に出るときは車で出かけるにしても結局フェリーに乗らなければならないので、好きなタイミングで出かけることができません。

外出中も決してうかうかしていられず、「帰りの船は17時5分の次が18時53分かぁ。だったら17時5分の船に乗りたいから、そのためには岡山駅を15時45分までに出ないとなぁ」という感じで、常に船の時間から逆算して行動を管理しなければならないのです。

船に乗るためしたかったことをあきらめることも

土庄港
小豆島の土庄港

家を出るときはもちろん、外出中も帰りの船のことを頭に入れておかなければならないとなると、「時間を忘れてのびのびと外出を楽しむ」という気持ちになりにくいですし、1本逃すと1~2時間待ちになってしまうことが多いので、乗りたい船に間に合わせるために、本来したかったことをあきらめなければならないこともあります。

「本当は家に帰る前にカフェにでも寄ってゆっくりしたかったのに」「本当は家に帰る前にスーパーで食料品の買い出しをしたかったのに」と、船の時間の関係でしたかったことをあきらめたことは1度や2度ではありません。

このように、「島外に出るときは、常に船の時間を気にしながら行動しなければならない」というのが、離島生活でいちばんストレスに感じていることのひとつです。直島に住む前は、「買い物の不便さがいちばん困るのではないか」と思っていたのですが、実際に住んでみると想像とちょっと違っていました。

「離島は行くところが限られるからこそ島外に出かけたいのに、島外に出かけようと思うと常にフェリーの時間に拘束される」というジレンマこそが、離島生活ならではの苦労なのです。

しかも、人だけなら往復570円のフェリー料金(宇野~直島 航路)が、車を乗せると往復2,940円(軽自動車、町民割引適用、ドライバー込み)に跳ね上がります。時間的な問題だけでなく、金銭的な意味でも、島外に気軽に出かけようという気にはなれないのが実情です。

「待つ」ことにすっかり慣れた今

男木島の猫
男木島の猫

一方で、「1~2時間の船の時間に合わせて行動する」ことが当たり前になったがゆえの副産物もありました。すっかり「待つ」ことに慣れたのです。

東京に住んでいたころは、ランダムに駅に行って次の電車が来るまで8分あったら「8分もあるのかぁ~」と感じていました。ところが、今はランダムに港や駅に行って、8分後に船や電車が出るというタイミングだったら、「とんでもなくラッキー」と思うことでしょう。そもそも今は、時刻表を確認せずに港や駅に行くということ自体ありえないのですが……。

船はもちろん、ときどき利用する岡山のローカル線も決して本数は多くないので、「船や電車が出るまで30分ほど港や駅で待つ」というのは、ごく当たり前の行動になりました。今となっては、東京の駅で「8分も」と感じていたのが信じられないくらいです。

人間の感覚って、環境や生活スタイルによってものすごく変わるんですね。都会の便利さに慣れると「待つ」時間は苦痛に感じられるかもしれませんが、「待つ時間」に「そんなに急いでどうするの」「人生ってすべて思い通りにはいかないものだよ」と教えられているような気もします。

瀬戸内の島を旅するときは、きっと「不便だな~」と感じる瞬間もあると思いますが、ぜひ「待つ」時間も含めてゆっくりと流れる時間を感じていただけたらと思います。

[All photos by Haruna]

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PROFILE

春奈

Haruna ライター

和歌山出身、上智大学外国語学部英語学科卒。2度の会社員経験を経て、現在はフリーランスのライター・コラムニスト・広報として活動中。旅をこよなく愛し、アジア・ヨーロッパを中心に渡航歴は約60ヵ国。特に「旧市街」や「歴史地区」とよばれる古い街並みに目がない。半年間のアジア横断旅行と2年半のドイツ在住経験あり。現在はドイツ人夫とともに瀬戸内の島在住。

和歌山出身、上智大学外国語学部英語学科卒。2度の会社員経験を経て、現在はフリーランスのライター・コラムニスト・広報として活動中。旅をこよなく愛し、アジア・ヨーロッパを中心に渡航歴は約60ヵ国。特に「旧市街」や「歴史地区」とよばれる古い街並みに目がない。半年間のアジア横断旅行と2年半のドイツ在住経験あり。現在はドイツ人夫とともに瀬戸内の島在住。

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