巨大餓鬼は地獄寺のランドマーク
本連載では、タイにいくつも存在する「地獄寺」をテーマに、筆者が実際に訪れた寺院を紹介しつつ、その魅力をわかりやすく伝えていきます。全12回の連載、第8回となる今回は「巨大餓鬼」についてご紹介します。
タイの地獄寺では、このような巨大な人たちがヌッと立っていることがあります。
彼らは前回ご紹介した
という者です。地獄寺につくられた数ある像のなかでも、この は最も印象的なものであり、地獄寺のランドマークとして機能しているといえます。ちなみに、人間と比較するとこれくらいの大きさになります。
この巨大餓鬼は、伝統的な寺院壁画としてもすでに描かれています(画面左側)。
タイの地獄を説いた仏典『三界経』には、この巨大な餓鬼について「ヤシの木の幹ほど背が高い」という記述があり、表現の典拠であると考えられます。実に南国らしい発想です。
地獄寺では、半数以上の寺院でこの巨大餓鬼がつくられています。彼らは餓鬼なので、基本的には骨ばった姿であらわされます。そして、数メートル~十数メートルに及ぶ巨大餓鬼は、多くがこのように男女一対の2体で構成されています。
―なぜか肉付きのいい姿の者も。
しかしながら、近年では男女一対の2体だけでなく、3体、4体と複数の巨大餓鬼がつくられている場合もあります。
なかでも、巨大餓鬼を最も多くつくっている寺院はカンチャナブリー県にあるワット・スラロンルアという寺院です。ワット・スラロンルアは屋外と屋内の2か所に地獄空間があるというボリュームたっぷりの地獄寺です。ここでは、屋外に7体、屋内に2体の合計9体の巨大餓鬼がつくられています。
このように複数の巨大餓鬼をつくっている寺院は、地獄空間の制作年代が比較的新しいという特徴があります。年代によって、地獄表現にも流行があるようです。
さて、このワット・スラロンルアは先にご紹介したように、屋外と屋内の2か所に地獄空間があります。これはかなり珍しいパターンで、通常、地獄寺は屋外型/屋内型のどちらかに分類することができます。そして、屋外と屋内、それぞれに異なる魅力があります。次回はこの
という空間構成に視点を移して、地獄寺を見ていきたいと思います。また来週。