秘湯・湯ノ花温泉 「旅館末廣」へ
首都圏から湯ノ花温泉がある南会津へのアクセスはちょっと大変です。車で日光や郡山、会津若松を経由しても行けるのですが、ちょっと遠い。もっとも行動しやすいのは、東武鬼怒川線で鬼怒川温泉まで行き、そこでレンタカーを借りる方法です。
鬼怒川温泉駅から山あいの道を車で走ること約1時間20分。湯ノ花温泉のある奥会津の高原には道の両脇に蕎麦の畑が広がっていました。標高は900mほどあるので、清々しい場所なのです。
お気に入りの宿「旅館末廣」に到着しました。玄関前にはワンちゃんがいます。以前いたワンちゃんは亡くなったとのことで、幼いエルくんがやってきました。かなりいたずら好きなのです。
ちなみに、この湯ノ花温泉は約700年前の鎌倉時代に発見されたお湯といい、密やかに地元の人々に受け継がれてきました。自然のなか素朴な雰囲気がいまも残される湯治温泉といえます。
のんびりとした雰囲気で、懐かしい親戚の家にお邪魔した気分。きれいに磨かれた広々とした玄関ロビーや廊下にほっとします。
ちなみに宿はご夫婦で切り盛りし、食事は近所のお母さんたちが手伝っている様子。ご主人は少々不愛想な印象ですが、たぶん照れ隠しで職人気質。干渉しないのがいい具合なのです。
和室も広々としています。まわりには雑木林が広がっていて、緑がまばゆいのです。大きな宿ですが、客室は11室しかなく、全体の造りがゆったりとしています。今回はこちらに2泊して「プリン山」に登る予定です。
自然のなかで湯量豊富な温泉を楽しむ
お風呂も充実しています。上の写真は男女別の内湯。泉質はアルカリ性単純泉。pHは8程度で、源泉かけ流しのお湯です。下の写真は岩風呂。内湯からさらに下った場所にあります。こちらは昔ながらの風呂のようです。
露天風呂も男女別に2つあります。緑の木立のなか、裏には渓流も流れていて、とても開放感があります。ほかの宿泊客に出会うことがほとんどありません。でも食事処に行くと、かなり宿泊客がいたことがわかって不思議。
野菜がおいしいお気に入りの手料理
お気に入りに理由のひとつに食事があります。ご主人作なのでしょうか、腕によりをかけて作ってくれる、野菜や山菜、川魚の料理が大好きなのです。泊まるのは夏場なので、トマト丸ごとマリネかピクルスにした前菜もお気に入り。
こちらは会津名物の「裁ちそば」。南会津地方に伝わる独特の打ち方だといい、つなぎの粉をいっさい使わない、そば粉100%のそば。小さめに伸ばしたそばの生地を何枚にも重ねて1列ずつ定規を使わずに包丁を引いて切る打ち方だそうです。
福島は果物も豊富なところ。デザートまでおいしかった。いつも大満足の宿なのです。
「プリン山」と呼ばれる花の百名山・田代山へ
さて「プリン山」の正体はといいますと、ちょうど道の駅にポスターがありました。田代山はこんなプリンのようなかわいらしい形をした山だったのです。
田代山はこの南会津町と栃木県日光市に広がる山で、標高は1,926m。尾瀬国立公園の一部をなしています。湯ノ花温泉から猿倉登山口までは車で15分ほどでしょうか。道もよく、山道を車でずんずんと登っていきます。
登山口のある鷲倉の標高は1,390m。トイレもあります。初心者向けのコースで、田代山までは登りで2時間弱、下りで1時間半です。危険箇所はありません。登山道も整備されていました。
ちなみに田代山から縦走して隣にある標高2,060mの帝釈山まで行くこともできます。こちらは往復3時間程度。
山頂の手前にも湿原があります。小田代湿原。たぶん、小さな田代山の湿原という意味でしょうね。ここは山頂の下にある湿原。それほど広くはありませんが、ここで一休みしましょう。
この小田代湿原から山頂までが、もっとも急登となります。とはいえ、ほんの20分程度、ちょっと頑張れば山頂に出ます。
真っ平な湿原が広がる山頂
どうですか、山頂部分に広がるこの真っ平な湿原。田んぼの苗代のように見えることから「田代山」という名がついたそうです。広さは25haあるそうで、山の上にあるとは思えませんが、遠くを望むと日光連山や会津駒ケ岳、燧ケ岳など遠くの山々がほぼ同じ目の高さにあるのがわかります。
この湿原では、「ワタスゲ」や「チングルマ」、「ニッコウキスゲ」など、およそ400種にもおよぶ高山植物を楽しむことができるといいます。
そして上の写真は「キンコウカ」。『花の百名山』で作家・田中澄江さんが7月の田代山に登った時に見つけた花として紹介しています。明治維新で敗れて以来、苦労を重ねてきた会津の人びとに思いを馳せながら、田中さんは田代山を描きました。
さて、木道をたどっていくと山頂と書いた標識に出会いました。ひとまずは、ここを最高所にしているのです。ほぼ真っ平で周囲に高くさえぎるものもなく、北海道の牧場にでもいる気分になります。
さて、木道を歩いて避難小屋がある地点に向かいます。避難小屋で休憩、宿で作っていただいたおにぎりを昼食にするのです。
山頂西側には樹林帯があり、その樹林に避難小屋がありました。さらに、ここから西の帝釈山に縦走できます。
左手前のトイレは新しく建てられたもの。ありがたいことに、登山靴を脱がずに利用できるよう大きなスリッパが用意されていました。初体験です。
奥にある避難小屋は弘法大師堂も兼ねていて、内部はまさにお堂の造りでした。弘法大師の座像が祀られています。きちんと管理清掃されている様子です。ありがとうございます。
田代山の山頂には尾瀬とも苗場山ともまた違う、湿原の風景が広がっていました。周囲に高い山がありません。真っ平な草原のような印象で、不思議な開放感にあふれていました。
湯ノ花温泉のもうひとつの魅力は4つの共同浴場
湯ノ花温泉の魅力は、素朴な共同浴場が4つもあることです。そのひとつは旅館末廣の目の前にある「弘法の湯」。集落の中心にあり、弘法様を祭っていた場所に建てられたことから名付けられました。
集落の奥に進んだ場所に「天神湯」、そしてさらに進むと温泉神社の近くにも「湯端の湯」という共同浴場があります。料金はおとな200円、こども100円で、近くの商店、民宿などで入浴券を購入します。ひとつの入浴券で当日限り4つの共同浴場すべて入浴できるとのこと。
そして筆者のおすすめは、上の2枚の写真、集落を流れる湯ノ岐川河畔にある混浴の共同浴場「石湯」です。大きな石をくりぬいて河原から湧く温泉を引き込んでいます。周囲からはよく見えるのですが、ほとんど誰もおらず、入る人も少ないのです。開放感たっぷりで、温泉好きならぜひどうぞ。
住所:福島県南会津町湯ノ花地内
電話:0241-64-5611(舘岩観光センター)
公式サイト:https://www.kanko-aizu.com/higaeri/3068/
[All Photos by Masato Abe]