東北を代表する名峰・鳥海山へ
山形県と秋田県の県境に位置する標高2,236mの鳥海山。日本百名山のひとつであり、日本海まで広がる裾野は広大で優美、そしてここは高山植物の宝庫でもあります。
9月の半ば、今回は鉾立口と呼ばれる日本海を望む西側ルートで登ります。鉾立口へは、車で日本海から山に向かって伸びる急な坂を30分ほど登っていきます。
JR遊佐駅や周辺の旅館ホテルからも乗り合いタクシーがあるようですね。ちなみに庄内空港から車で行くと1時間、JR酒田駅からは1時間弱です。
登山道はしっかりと整備されています。10分ほど歩いたところに展望台があり、山頂方向を見ると、大きな谷が壁のように立ちはだかっているように見えます。山頂はその向こうで見えないようです。
ちなみに、この谷を登るわけではありません。まずは右手の緩やかな大地を歩いていきます。
後ろを振り返ると、つねに日本海が見えているんです。海岸線がずっと続いているのもわかります。
この周辺は日本海から湿った空気が鳥海山に直接ぶつかるので、たくさんの雨や雪が降ります。年間降水量は多い年で1万2,000ミリ以上といいますから、世界最大級の多雨多雪の山が、米どころ庄内平野の水源になっているのです。
2時間ほどで、標高1,700m地点にある御浜小屋に到着です。ふだんなら夏場は宿泊もできるのですが、残念ながら、この夏はコロナ禍で営業中止ということです。とはいえトイレがあるのでご安心を。
ここの絶景ポイントは、なんといっても鳥海湖。鳥海湖には水の神・竜神様がすむといわれています。遠く日本海を望む高所の湖で湖面が美しく輝きます。
また周辺にはお花畑が広がり、もう少し時期が早ければニッコウキスゲの群落や、鳥海山特有の花チョウカイフスマを見ることができるそうです。
9月半ばのこの時期、ハクサンイチゲやイワギキョウなど可憐な花々が迎えてくれました。
上の写真の御田ヶ原は、ちょうど7合目の平らな土地です。前方そして後方と周囲の見通しがききます。登山者たちが遠くに三々五々歩いているのが見えます。そして、その先に登りの石段があります。
御田ヶ原を過ぎた「七五三掛」と呼ばれる地点からが、いよいよ鳥海山登山の醍醐味でした。
穏やかな山容ではなかった溶岩ドームの山頂
というのも、外輪山を乗り越えて、崩れたカルデラの底にいったん降りていき、そこからまた中央の山頂に向かって登っていくというルートになるのです。
上の写真は山頂部分の溶岩ドーム。1801年の噴火によってできたもので、山頂は「新山」と呼ばれています。
2つ上の写真は外輪山から見た山頂部分。すぐ上の写真は外輪山を下って、ふたたび登る道です。夏を過ぎても根雪が残っていました。
ちなみにあとで撮影したのですが、その外輪山を横から見ると上のような写真になります。庄内平野から見える緩やかな山容とは全く姿を変えていますね。
中央の山頂に向かう道の周囲には岩がゴロゴロ。とはいえ、ここは道がちゃんと整備されています。
山頂の直下にある御室小屋に到着です。200人位収容可能な山小屋ですが、残念ながら、この夏は営業を中止していることのこと。
小屋の隣には大物忌神社があります。大物忌神社は鳥海山の神さまを意味するといいます。鳥海山は出羽三山とともに、山岳信仰の山。この建物は伊勢神宮を立て替える際に出る木材を使って建てられているとか。
しばし休んだ後、山頂を目指します。この先は岩だらけのルート。しかも大きな岩が積み重なっています。白い字で大きく矢印が書かれているので、ルートはわかりますが、霧や雨など天気が悪い時は迷ってしまうかもしれません。位置を確認しながら気を付けて登って下さい。
1801年の噴火による、岩の塔のような山頂部分「新山」が見えてきました。
一見するとすぐに崩れそうな岩場ですが、岩は頑丈。まず崩れることはないようです。岩のあいだを、両手を使いながら三点支持で這うように登っていきます。そうして登り始めてから4時間。
2,236mの山頂に到着!ここは360度の絶景が広がります。とはいえ山頂は狭いのです。10人も立てないほどで、あとから登ってくる登山者に場所を空ける必要があります。美しい光景をカメラに収めると、場所を譲りました。でも大満足でした。
住所:秋田県にかほ市象潟町小滝(鉾立口)
アクセス:JR羽越本線「遊佐駅」から車で40分、山形自動車道「酒田みなとIC」から車で49分
HP:https://mokkedano.net/course/41362(庄内観光サイト)
日本海に面する昭和レトロな宿 湯ノ田温泉
湯ノ田温泉酒田屋旅館は、登山口からまっすぐに海に向かって降りてきた遊佐町吹浦の海岸にありました。
江戸時代からの温泉地で、大正時代には「風景佳絶なるを以て遠近来浴するもの頗る多く県内著名の浴場たり」と謳われていたというのですが、今ではここ1軒しか営業していません。
昭和レトロを感じさせる古い木造の建物で、きれいに掃除されています。山旅の後には、こういう気楽な温泉宿がノンビリできますね。
海岸脇に客室が建っているので、岩場に打ち付ける波の音がよく聞こえてきます。西日を浴びていた和室は暑かったのですが、日本海に沈む夕日はとにかくキレイでした。
参考までに8畳和室でトイレは共同ですが、1泊2食で8,658円はとても良心的です。
大浴場がひとつ。大きな窓から海が見渡せる浴場でした。泉質はナトリウム塩化物炭酸水素泉。しょっぱそうですが、冬場は温まるでしょうね。お湯はたしかにいいのです。
夕食には海の幸が並びます。新鮮な海の幸を使った煮魚、焼き魚、刺身、揚げ物に酢の物、そして白いごはんがおいしいのです。豪勢な料理や華美な客室という宿ではありません。でも、とても家庭的で居心地のよい、そしてなんといってもコスパがとても良い宿でした。
それにしても、もういちど好天の鳥海山に登りたいものだなあ。
[All Photos by Masato Abe]