【実は日本が世界一】リンゴの品種でもっとも多く食べられているのは「ふじ」

Posted by: 坂本正敬

掲載日: Feb 4th, 2022

日本生まれの何かが世界でもっとも支持される・評価される・流通するといった話は少なくありません。知られていないだけで、世界を席巻する日本生まれの発明品もあるわけです。例えば、なじみ深いリンゴも、日本で改良された品種が世界でもっとも愛されているとご存じでしょうか。品種の名前は「ふじ」です。今回は世界でもっとも愛されるリンゴの品種・ふじの歴史を紹介します。

りんごのイメージ


 

世界でもっとも食べられているリンゴの品種とは

りんごの品種「ふじ」
冬に食べるフルーツと言えば何ですか? ミカンやリンゴを思い浮かべるのではないでしょうか? 「1日1個のリンゴは医者を遠ざける」ということわざをどこかで信じながら、筆者の家でも好んでリンゴを食べている気がします。

リンゴと言えば、いろいろな品種がありますよね? ジョナゴールドや王林、シナノゴールドなどなど。スーパーマーケットの果物売り場で目にする品種の中には、もちろん「ふじ」も含まれると思います。

ふじには「サンふじ」といった似た名前もあるのでややこしいですが、とりあえず一緒だと思ってください。今回の話題は、このリンゴの品種・ふじです。

ふじのイメージとしては、青森あたりでつくられる日本のリンゴの一種で、日本では有名だけれど世界では知られていない、という感じなのでは? なんとなく、もっと多種多様なリンゴが世界には出回っていると思っていませんか?

しかし、日本で生まれたこのふじの品種、日本で有名どころか世界でも有名で、世界でも有名どころか世界でもっとも食べられているリンゴの種類らしいので驚きです。

20年以上の年月をかけてふじは生まれた

カットしたりんご

そもそもふじは、数年前に80周年を迎えたそうです。言い換えれば、80年ちょっと前に日本で生まれた品種になります。どこで生まれたのかと言えば、リンゴの産地として有名な青森県です。

1939年(昭和14年)、青森県の藤崎町(弘前市のちょっと北)に存在した農林省園芸試験場東北支場で、「国光(こっこう)」というリンゴの花のめしべに、「デリシャス」という品種の花粉を付着させる作業が行われます。その作業によってできた果実を収穫し、種を取り出して、また植えます。出てきた芽を育て、その木がリンゴを実らせたのが1951年(昭和26年)でした。

その後も、品種を磨き上げる作業が続き、選抜したリンゴの試験栽培などを経て、1962年(昭和37年)に「ふじ」の名前が正式に決定されます。要するに、花粉を付着させた1939年の作業から、20年以上の時間をかけてふじは生まれたのですね。

リンゴのふじは山本富士子さん!?

青森のりんご畑
ふじの名前はどのように決まったのでしょうか。もちろん「富士山」はその由来の1つです。とはいえ同じ富士山でも、青森県の弘前や藤崎からは「津軽富士」と呼ばれる岩木山の眺めも楽しめます。どちらかと言えば「津軽富士」の富士に由来しているのかもしれませんね。

青森県りんご対策協議会の公式サイトには、農林省園芸試験場東北支場が存在した藤崎町の地名もあり、当時有名だった絶世の美女・山本富士子さんの名前も由来の1つになっているとの情報が出ています。山本富士子さんと言われても、現代の人は知らないかもしれません。筆者も知りませんでしたが、初代ミス日本コンテストでグランプリに輝き、女優としても活躍した人です。

ただ、初期のふじは味と保存性に優れているものの、色付きがよくなかったそうです。そこで、当時の園芸部長やふじの育ての親と呼ばれる生産者・齊藤昌美さんなどの努力により、栽培方法が確立されていきます。今でも行われている果実の袋掛けはこの時に生まれたのだとか。

さらに、ふじが誕生する前に主力だったリンゴの品種が、時代の変化や消費者の好みに追い付かず、淘汰(とうた)されていきます。そのなかで、青森の生産者たちは新しいリンゴづくりに乗り出し、ふじが青森県における生産量トップに上り詰めていきました。

世界でもっとも多く生産されている品種

青森県弘前市のりんご畑のふじ
ふじの快進撃は止まりません。日本でつくられたふじの一部が台湾・香港・タイなどに輸出されるだけでなく、中国・アメリカ・フランス・イタリア・ブラジル・チリ・アルゼンチンなどでは、現地でふじリンゴが生産されるようになります。

中国の生産量はけた違いで、世界シェアの半分ほどを占めています。現在は、その中国産リンゴの約半分を、ふじが担うまでになっています。日本、さらに中国を筆頭とした世界で育てられるふじリンゴの生産量を合計すると、世界でもっとも多く生産されている品種になるのだとか。

米国リンゴ協会の公式サイトには、ふじについて、

<This variety´s popularity is skyrocketing>(米国リンゴ協会の公式サイトより引用)

と記載されています。「この品種の人気は爆上がり」といった感じの意味ですね。

インスタントラーメン・新幹線・トヨタ生産方式・ウォークマンなどに並び、「戦後日本のイノベーション100選」(発明協会)にもふじは入っています。今振り返っても、それだけすさまじい発明だったのですね。

サン(The sun=太陽)ふじ

袋に入ったサンふじ
ちなみに、ふじというと、似たような名前の「サンふじ」もスーパーマーケットなどで見かけます。ふじとサンふじの違いは何なのでしょうか?

そのヒントは、先ほども書いた栽培方法にあります。ふじは当初、味はいいけれど色がよくないと言われていました。しかし、袋掛けによってその問題が克服されます。袋掛けとは、収穫前のリンゴに袋を掛ける作業です。

<果実を病虫害から守り,外観を美しく保つために,新聞紙やハトロン紙で作った袋で果実を被覆すること。リンゴの赤色品種やモモなどの果実は,成熟期が近づくと,葉緑素が分解し,代りにアントシアニンという赤色の色素を生成する>(平凡社『世界大百科事典』より引用)

一方で、同じふじでも袋を掛けないで栽培されるパターンがあります。袋を掛けられないリンゴは、当然ながら袋掛けされるリンゴよりも長い時間日光を浴びます。日光を浴びれば糖度が高くなり、蜜が入りやすくなるとも言われています。

その意味で、太陽を浴びて育ったふじがサンふじ、「サン(The sun=太陽)ふじ」なのですね。

日持ちがふじよりも短いと言われていますが、より甘いリンゴを食べたい場合はサンふじを買えばいいとわかります。次の買い物でこの知識を生かしてみてはどうでしょうか。

世界に誇るリンゴの品種がせっかく日本にはあるわけです。なかなか旅に出られない今日この頃。リンゴを家で食べながら、世界や歴史を感じてみる時間の過ごし方も楽しいかもしれませんよ。

青森の風景
[参考]

「ふじ」りんご生誕80年 – 青森りんご

APPLE VARIETIES Fuji – USApple

齊藤昌美 – 弘前市

青森りんごの歴史:昭和41年から – 青森県

「ふじ」りんご発祥の地 – ふじさんぽ

※ China Red Apple Fuji (L) – MGB Fruit Shop

Asia’s Apple Market: China Dominates Exports Despite a Slight Contraction – GlobalTrade

特定産品をめぐるわが国の貿易事情─ りんご輸出におけるNZと青森の違い – 日本関税協会貿易統計研究グループ

リンゴ「ふじ」 – 発明協会

[All photos by Shutterstock.com]

PROFILE

坂本正敬

Masayoshi Sakamoto 翻訳家/ライター

翻訳家・ライター・編集者。東京生まれ埼玉育ち。成城大学文芸学部芸術学科卒。現在は、家族と富山に在住。小学館〈HugKum〉など、在京の出版社および新聞社の媒体、ならびに〈PATEK PHILIPPE INTERNATIONAL MAGAZINE〉など海外の媒体に日本語と英語で寄稿する。 訳書に〈クールジャパン一般常識〉、著書(TABIZINEライターとの共著)に〈いちばん美しい季節に行きたい 日本の絶景365日〉など。北陸3県のWebマガジン〈HOKUROKU〉(https://hokuroku.media/)創刊編集長。その他、企業や教育機関の広報誌編集長も務める。文筆・編集に関する受賞歴も多数。

翻訳家・ライター・編集者。東京生まれ埼玉育ち。成城大学文芸学部芸術学科卒。現在は、家族と富山に在住。小学館〈HugKum〉など、在京の出版社および新聞社の媒体、ならびに〈PATEK PHILIPPE INTERNATIONAL MAGAZINE〉など海外の媒体に日本語と英語で寄稿する。 訳書に〈クールジャパン一般常識〉、著書(TABIZINEライターとの共著)に〈いちばん美しい季節に行きたい 日本の絶景365日〉など。北陸3県のWebマガジン〈HOKUROKU〉(https://hokuroku.media/)創刊編集長。その他、企業や教育機関の広報誌編集長も務める。文筆・編集に関する受賞歴も多数。

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