ハーゲンダッツにも認められた酪農王国
釧路と根室のほぼ真ん中、海岸は太平洋に面す浜中町。台地という地形、かつ冷涼な気候ゆえ、古くから酪農が盛ん。海のミネラルが海霧とともに牧草地に降り注がれ、その牧草を食べて育つ牛からはおいしい牛乳が作り出されます。そんな恵まれた環境で生産される浜中町の牛乳の品質は極めて高く、かのハーゲンダッツアイスクリームの原料に指定されているほど。
元バックパッカーが営む新進気鋭の牧場
浜中町の酪農地帯の一角にあるのが「松岡牧場」。敷地はなんと東京ドーム約14個分!
牧場オーナーの松岡慶太さんは愛知県豊橋市のご出身。バックパッカーとしてアメリカや日本を旅する中、道東の自然に魅せられ定住を決意したといいます。浜中町の牧場で約8年間、酪農ヘルパーとして経験を積み、2009年に自らの牧場をオープン。無農薬の牧草のみで牛を育てる有機酪農を徹底し、2019年には有機JAS認証取得したのだそう。
もともと北海道とは縁もゆかりもなかった松岡さん。世襲が一般的な酪農の世界で、なぜ独立できたのでしょうか?
「就農できたのはJA浜中町のおかげです。就農前に雇用形態で技術を学べる制度があったからこそ」(松岡さん)
JA浜中町では新規就農支援への取り組みを全国に先駆けて行っていて、これにより高齢化や後継者不足による酪農家の減少を防いでいるのだとか。研修牧場の整備や独自のリース牧場を活用した就農方式など、新規参入者が酪農経営をスタートしやすい環境が整っているようです。今では浜中町の酪農家のうち、新規就農者は1割を超えるそう。
将来的には、乳牛として活躍した牛が老後をのんびり過ごせる、いわば“老牛ホーム”のような施設を作りたいと話す松岡さん。経済活動のみならず、自然にも環境にもやさしい世の中になるようアプローチしていきたいといいます。
2016年には自然との共生、オルタナティブなライフスタイルを発信するグレイトフルファーム(Grateful Farm)を立ち上げ、自社牧場の牛乳を使用したチーズの製造・販売を開始。牧場の一角に建てられた工房ではチーズ作りを体験することもできます。
アメリカンな空間で楽しむチーズ作り体験
ハーレーダビッドソンを愛用し、アメリカでバックパッカー経験のある松岡さんが手がけた工房は実にアメリカン!
体験教室で作るのはモッツァレラ。熱湯の入った大きなボウルに、チーズになる一歩手間の「チーズカード」をひとつかみ入れて、2本の棒で練っていきます。
最初はぼそぼそしていたチーズカードですが、少しずつ練るにつれて滑らかな形状に。続いてお椀ですくい、手で生地を伸ばしながら丸めていきます。表面がツヤツヤになったらムギュっとちぎって完成。
あっという間に出来上がったモッツァレラ。このシンプルさゆえにごまかしが一切きかないのだとか。「モッツァレラは熟成させないので、牛乳の質だけで、ほぼ味が決まってしまうんです」と松岡さん。
とろ〜りモッツァレラがたまらない! 心躍る絶品ピザ
作ったモッツァレラはピザで味わうことができます。松岡さんが手際良くオーブンで焼くピザには、自家製ジェノベーゼソースとスモークチキンがトッピング。
ピザ生地はもっちりクリスピー。モッツァレラは牛乳をぎゅっと濃縮したような奥行きのある旨味と甘味。チーズが違うと、ここまでおいしくなるのか!と感動してしまう絶品ピザでした。あまりの衝撃的なおいしさに、参加者はみんな大興奮の様子。
食後にはコーヒーが。サイフォンで淹れられるブレンドは苦味が柔らかくすっきりした味わい。体験教室はピザ(ひとり1枚)、コーヒーが付いて4,500円。楽しい&おいしいだけでなく、松岡さんのウィットに富んだトークも面白く、新鮮なひとときを過ごすことができました。
絞りたての牛乳で作るオリジナルチーズ
工房ではモッツァレラをはじめストリング、ゴーダ、カチョカバロなどのオリジナルチーズも販売しています。すべてのチーズの原料は牛乳と塩のみ。クール便で地方発送も可能なのでお土産にもいいですね。
「人間と同じように牛も日によって体調はさまざま。牛乳も日や季節により味が異なりますが、むしろ、その時々の違いを楽しめるように、あえて作業工程を変えずに作っています。春のチーズ、冬のチーズといったように味わっていただけたら」(松岡さん)
浜中町の牛乳のおいしさを知ることができるチーズ作り体験。そして心躍る絶品ピザ。道東に訪れた際はぜひ「松岡牧場」で、豊かな大地と自然の恵みに触れてみてはいかがでしょうか。
住所:北海道厚岸郡浜中町姉別緑栄205
電話:0153-68-6400
営業時間:10:30~17:00
定休日:不定休
URL:https://www.grateful-farm.com
[Photos by Nao]